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記憶の欠片〈上〉

これは、自分がまだ子供と呼べる年代の頃の記憶だ。




―――なあ、×××××。

今日のテストはどうだった? 僕はいつもの通り、百点さ。つまらないよなぁ、大学レベルの問題だって解けるってのに。こんな低学年のこんな低レベルの問題なんて、解いてる時間があるなら世紀の大発明してる方がよっぽど有意義だよ。ていうのは言葉の綾で、大発明してるよりかは遊んでる方が俄然意義はあるけどね。




当時の友人は、亞木姜示唯一人。

かつて神童と呼ばれていた彼は、その生まれ持った数多の才能に恵まれ過ぎて、人生に鬱屈していた。

いや、鬱屈という程、塞ぎ込んでいる訳でもないが。

言うなら、退屈している、が正しい。




―――何か楽しいことは無いかなぁ。

僕の人生を根底から引っくり返すような、仰天奇天烈摩訶不思議な楽しい楽しい一大イベント! オマケにペロペロキャンデーがついてきたらもう文句無しだね。…キャンデーは要らない? あれ、×××××ってキャンデー嫌いなの? あー、それは頂けないなぁ。今度駄菓子屋に行った時に食べさせて上げよう。……要らない? あっそ。




人生に退屈していたのは俺も同じ。全てを“視通す”ことが出来る俺は、この頃、既に世界に現存する相当数の知識を網羅していた。

知らない時は知的好奇心、探求心を満たしたいが為に手当たり次第に視通してみたが、知ってしまうとなんてことはない。さらなる知識の欲求に掻き立てられ、それを知ったとしても満たされはせず、延々に、永遠に求め続けた。

求め続けて、そして飽きた。


世の中にあるもの全てが、つまらなく思えるようになってしまった。




―――なあ、×××××。また“視る眼”を貸してくれないかい? アレって最高に最上に便利な能力だよ。この世の全てを視通せるってんだから。




亞木はこの能力を便利な能力だと言った。

この世にあるもの全て、他人の心も、現在も、過去も、未来も、あらゆる次元のあらゆる異世界も、何もかもを見透かし、視通し、知り尽くせる。

便利な能力だ。

何でも知れるのだから。

何でも視れるのだから。


何でも。


何でも。


何でも。


………何でも?




―――うん? 地獄? 何だ、まだ視てなかったのか。勿体ないなぁ、それは是非にとも視ておかなきゃいけない最重要事項の一つだろう。あ、なんだったら僕に視せてくれないかい? 駄目? …あ! 僕が言ったから今から視るつもりだな! ズッルイぞー! ズッルイぞー!




地獄。

この世で生ある者が死した時、咎人だけがそこへ送られ、浄化されるあの世のこと。

悪に浸り切った者達が懺悔し、心から救いを求め、改めさせる清浄の世界。

そういう場所だと、俺は思っていた。


罪人が悔い改める為の世界だと。


果てなく続く拷問の限りをその身に受ければ、


天上の世界へ逝ける。そういう仕組みの世界なんだと、


畜生共がもがき苦しむ姿なんて視ても、対して面白いものなんて無いだろうと、









その時の俺は、思っていた。
















………………。
















―――んー? どうしたんだい、×××××。なーんだかやつれて見えるぞ? 栄養足りてないんじゃない?




亞木が少し可笑しそうに、少し心配そうに聞いてくる。




―――悪いものでも食べた? あっちゃー、道端に落ちてるもの食べたらいけないってあれほど言い聞かせてたでしょう! ……………あれ? おーい、×××××ー? そこは突っ込むところだぞー?




亞木の声が変に頭の中で残響する。


亞木の声が酷く心を掻き乱して胸がムカムカする。


亞木の声が素晴らしく脳髄を侵してフワフワする。







地獄を視た。


地獄と呼ばれるモノを、視た。


この身体に、この世の全ての痛みを受けた。







壮絶だった。


最悪だった。


気持ち悪かった。


内臓や骨、筋肉を口からズルズル引き抜いて、空っぽになった身体におぞましい虫をギッシリ詰め込んだようなおぞましい感覚。


手も、足も、首も動かせず、身動き出来ない俺の身体の内側を虫が蠢き、


喰い破り、這う。


わらわらと、いたぶる。


じわじわと、苦しめる。







辛い。


痛い。


苦しい。


苦々しい。


抜け出したい。


でも抜け出せない。


止められない。


逃げられない。


逃げては、ならない。







―――え? 地獄を視せてやるって? どうしたの×××××、随分気前が良くなったじゃん。







俺はその日“壊れた”。




地獄を“視”て。




地獄という名の、地獄を。




こうなるということを、“視通せず”に。




だから、思った。




だから、考えた。




だから、実行した。










―――それじゃ、お言葉に甘えようかな! ほら、手を触れば…………、










亞木、姜示の手を取って、







『神童』亞木姜示に地獄を“視”せて、







“どうなるかを、視通して”、


















――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――…………。



















その日、







俺は亞木姜示を、













コワシタ。

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