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03:庭園:属性と適性と……

 ピチュピチュと鳥の鳴き声で目が覚めた。

 窓の外をぼんやり眺めると、青い空と緑の木々。美しく整えられた庭園を見て、沙月は改めて自分が見も知らぬ場所に居るのだ、と溜め息を吐いた。


 異世界云々は未だ実感は湧かないが、未だ此の世界に来て三日目――沙月の感覚としては二日目――なのだ。実感が湧かなくても不思議では無い。


 昨日はヴァルクラウト達が部屋を出た後、再度ウィロードが訪ねて来た。一人の女性を伴って。

 誰だろう、と首を傾げた沙月に、ウィロードは此れから沙月の身の回りの世話をする侍女だと教えてくれた。


「お初にお目にかかります、タティアナ様。私、リリフロラ・マニヨールと申します。お嬢様の身の回りの御世話を仰せ付かりましたので、何なりと申し付け下さいませ」

 恭しく挨拶をされ、沙月も慌てて挨拶をする。

 自分よりも年上に見える女性に、これ程丁寧に接せられたのは初めてなので、どうしたら良いのか戸惑う。其れが判ったのだろう、リリフロラは沙月がリラックス出来る様に優しく声を掛けた。

「お嬢様、先ずはお飲み物を御用意致しますわ。其れとお目覚めになられたばかりで御不快でしょうから、此方をお使い下さいませ」

 そう言って案内されたのは、所謂一体型浴室(ユニットバス)だった。

 そう言えば顔も洗わずに寝起きのまま、王太子殿下と話をしてしまった、と慌てたが、其れに気付いたリリフロラが「御心配には及びませんわ」と宥めてくれた。

「殿方はこう言った事に気が回りませんから。特にお嬢様は大変な事に見舞われたと聞き及んでおります。殿下方もそちらの対応の方に気も漫ろで、気が付いては居ませんわ」

 ホホと笑いながら使い方を一通り教えると、リリフロラは浴室から出て行った。

 良く有る異世界ネタの小説の様に、大勢の侍女に寄って集って丸裸にされ洗われるんじゃ無いんだ、と安心の様な残念な様な気持ちで顔を洗い(うがい)をし、さっぱりした所で浴室を出ると、丁度テーブルの準備が調った所だった。

「タティアナ。君の事はリリフロラに説明してあるから、心配しなくて良いよ。だが彼女以外には、当座、君が異邦人とは知られない様にして欲しい」

「判りました」

 利用価値が有ると見込んで近付こうとする人を減らす為ですね、判ります。と、そう言う意味を込めて言ったのが通じたのかどうなのか。

 ウィロードは幾つかリリフロラに指示すると、部屋を出て行った。


 その後はリリフロラに言われるまま、一人で浴室で汚れを洗い流しさっぱりした所で、脱いだ制服や下着の代わりに真新しい服を渡された。

 下着はショーツは兎も角ブラジャーに関しては、これまた良く有る小説の様に期待していなかったのだが、代わり映えのしない、どころか遜色の無い、寧ろ機能的な物が渡され驚いた。どうやら此れも異邦人の恩恵らしい。

 沙月がそう言うと、リリフロラは微笑んで説明をしてくれた。


 世界に貢献する様な能力を持つ異邦人は稀だが、殊、私生活においては改善を求める声が少なくなかったそうだ。特に小柄な黒髪の人種は其れが顕著で、大人しく真面目で従順だと思っていると、いきなり食事や衛生に不満があると言い出すや改善に乗り出し、満足するとまた大人しくなると言う……。

「日本人だ、それ」と沙月が呟くと、リリフロラは「良くは存じませんが、そう言う伝承は残っております」と答えた。

 其れにしても、機能性は有るが装飾性に欠ける下着は、改善の余地が有るんじゃ無いかと思ったが、そう言う物も有るには有るが、結構値段が張るそうだ。多分繊細なレースを作る織機の技術を知る異邦人が居なかったのだろう。大量生産が出来なければ、値段が張るのは仕方無い。

 そして沙月が不思議に思った、侍女に因る『集団引ん剥き丸洗い』に関しては、厭がる異邦人が多かった為、最初は慣れなくても一人で浴室を使わせる事になったらしい。

「その時々に因りますが、お一人になられてお寛ぎになられると、ひっそりと涙する方が多いそうですわ……」

 その話には沙月も内心で頷いた。

 浴槽で温かい湯に浸かり、ホッとする筈なのに、涙が止め処無く流れた。嗚咽を抑えるのに必死になったが、結局は肩を震わせて泣いて、泣いて、スッキリした。

 多分一人になる時間が必要だったのだ。前を向ける様に。


 その後はヴァルクラウトが後見人となるならば其れなりの服装を、と言われるまま身体中の寸法を測られた。既製品で良いと主張したが、とんでもないと却下され、何時必要になるか判らない物まで用意する事になり、終わる頃にはグッタリと疲れ果て、早々に寝る事となったのだった。



 忙しくなると言われた当日の朝。

 リリフロラが運んで来た朝食を食べ終わる頃、コツコツと扉が叩かれた。

 沙月が「はい」と返事をする前に、リリフロラが「お待ち下さいませ」と言って扉に向かう。

 こう言うのも作法なのかな、と思っていると、扉で幾つかのやり取りの後、リリフロラが沙月に声を掛ける。

「お嬢様、見習い魔術師様がお迎えに参りましたわ」

「直ぐに行きます!」

 立ち上がり扉に向かうと、昨日会った泣き虫少年―――アイヒェが落ち着かなそうに立っていた。

「お早うございます!」

「お、お早うございます……。ボ、僕、いえ私がご案内する事になっていますので、ど…どうぞ」

 元気に挨拶をする沙月とは逆に、おどおどと挨拶をするアイヒェ。


 昨日の事を気にしているのかな?


 そう思った所で、自分から彼是言うのは筋違いな気がする、と考え口を噤む。

 部屋から送り出され、必要最低限――右とか左とか――の事しか話さないギクシャクした雰囲気の中、気まずいな、と思いながら歩いて行く。そして庭園脇の廻廊を抜けた辺りでアイヒェが話し掛けてきた。

「あの、ごめんなさい。怒っていますよね?」

「……其れは何に対して謝っているの?」

 漸く話し掛けてきたと思ったら謝罪の言葉だったので、少しだけ意地悪な気持ちになって沙月は逆に訊いてみた。思った通り、アイヒェは目を丸くして沙月を見る。

「何って、昨日の……」

「あれはもう謝って貰ったし、悪いのは不安定な魔法だと知っていて実行させた、上の人達じゃ無いかな?」

 特にヴァルクラウトとかウィロードとは言わなかったが、アイヒェはそうとったらしい。凄い勢いで反論された。

「違います!! 王太子殿下もヴァイデ(ウィロード)導師も、反対していたんです! 失敗続きならもっと研究し直してから実施しろって……。其れを他の長老方が……」

「じゃあ悪いのはその長老達で、私もアイヒェくんも被害者じゃ無いかな?」

 そう言うと、だって、でも、と言いながらアイヒェは黙ってしまった。

「あのね、私が怒るとしたらその人達に対してだし、殿下とかは寧ろ良くしてくれるから感謝しているよ? アイヒェくんだって、昨日あんなに泣きながらずっと謝ってくれたし、今更謝罪はもう良いの。許すとか許さないとか、そんな話じゃ無いの」

「でも……」

「うーん、どう言えば良いのかな?」

 言わなければ判らないかな、と呟いて、沙月は真っ直ぐにアイヒェを見詰めて言った。


 ―――自分の自己満足の為に謝るのは止して?


 そう言われてアイヒェは息を飲んだ。自分でも気付いていなかった、図星を指された事に、遅まきながら気付く。


「今更謝られたって、どうしようも無い事だし、そうするとじゃあ何で謝るの?って話になるし」


 ―――結局は自分が楽になりたいから、謝るんだよね?


 そう言われて、反論出来ずに唇を噛み締める。言い返せずに悔しいと思うと同時に、情け無くなる。こんな自分より年下の(様に見える)少女に言い負かされて。

 泣き虫では無い筈なのに、涙腺が緩み始めて其れを堪える為に俯くと、沙月が慌てた様に語り掛ける。

「言い過ぎちゃった? でも私がそう思うのは本当だから、言った事は謝れないの。えっと、つまり私が言いたいのは、過ぎた事は仕方無いから、前向きに考えようって事なの!」

 お互いやる事が決まっているのだ。沙月は魔力を提供する事、アイヒェは間違えていた呪文を探し出し、新たな魔法陣を作る事。其れを各々頑張れば良いんじゃないかな、と沙月が言うと、アイヒェは涙を引っ込めて微かに笑う。

「それ、ヴァイデ導師からも言われました。くよくよ悩むより先にやる事は有るだろうって」

「そうでしょう? だから早く魔法陣を完成させて、私を元の世界に戻してね!」

 にっこりと笑うと、釣られたのかアイヒェも笑みが零れる。

 良く考えれば、被害者である沙月が前に進もうとしているのに、原因の一員でもあるアイヒェが、何時までも立ち止まっていては、其れこそ申し訳が立たない。

 アイヒェは気を取り直すと、沙月の手を握り、言う。

「タティアナさん、これだけは言わせて下さい。貴女にそう言って頂けて、僕が何れだけ救われたか、想像も付かないと思います。前を向く事を許してくれて、有難う御座います。精一杯頑張ります」

「うん、宜しくね」

 お互い握手をして照れ臭くなる。


 あの時、講師や生徒が逃げ出した後、アイヒェは輝く魔法陣を茫然と見ていた。

 何が起こったのか、精霊や幻獣が現れる前触れの淡い光とは、比べ物にならない力強い光に、ただ圧倒され、動けなかったのだ。そして現れた少女の姿に、驚いたのはアイヒェだけでなく、その場に留まった二人もそうだ。

 予想外の姿に驚くと共に、歪みの存在にウィロードが気付き、透かさず固定させたのは、流石としか言いようが無い。

 その後、茫然とする中で聞かされたのが、召喚されたのがどうやら異世界人で有るらしいと言う事。

 明らかに失敗で、その上人一人の人生を駄目にしかねない――送還の目処が立っていない――と知って、その日はショックで何も出来ず、落ち込んだ。

 翌日に眠り続ける沙月の姿を見たら、未だ幼気な――目覚めてからのやり取りで、思ったよりも年齢が上らしいと気付いた――少女で、見るなり涙腺が崩壊した。傍に寄って謝る事しか出来なかった。

 泣いて謝り部屋を出ると、ウィロードから呼び止められ、沙月の世話を任された。


 侍女も勿論付けるが沙月には魔力を提供して貰う為に、魔術師団に見習いとして出入りさせる。異世界人と知られたくないので、魔術師団に居る間は出来るだけ一緒に居て欲しい。


 そう言われて、一も二も無く頷いたのだが、一人になってみれば罪悪感と責任の重圧に溜め息を吐くしか無く、翌日も魔力測定に付き合えと言われて重い気持ちのまま迎えに来た。

 いっそ沙月が泣き喚くとか、詰るとかしてくれれば、気が楽だったのに、彼女は説明を聞いている間、少し動揺したものの後は冷静に話を聞いていた。そのせいで罪悪感が大きく膨らみ、思わず謝ってしまったのだが、結果は見た通り。

 自分よりずっと精神的に強い小さな少女に、負けられない、と思った。


「仲直りは済んだかな?」

 突然声を掛けられ振り向くと、ウィロードが苦笑しながら立っていた。

「済みません、待たせちゃいましたか?って言うか何時から其処に?」

「いや、つい先程かな? 近くまで来たのに突然動かなくなったから、何が起こったのかと思ってね。…無事の様で何よりだよ」

 付いて来なさい、と言われて歩いて行くと、辿り着いたのは庭園の四阿(ガゼボ)だった。既にヴァルクラウトが待っている。

「お待たせして済みません」

「ああ、待っては居ない。私も今食事を済ませた所だからな」

 そう言われて良く見れば、給仕がテーブルを片付け、立ち去る所だった。


「さて、腹熟しでもと言いたい所だが、タティアナの魔力測定を先にするか」

「こんな場所でやるんですか?」

「ああ、室内では誰が訪ねて来るか判らないからな。庭園なら限られた者しか立ち入れないし、此の付近に結界も張ってある。我々以外が近寄れば、直ぐに判る」

 隠れ家的な四阿だから廻廊からは見えないし、間者が居たとしても結界を張る際に調査は済ませて、気配無しの結果が出ている。その上で結界を張ったのだから問題は無い。

「そうだ、タティアナ。先に私の護衛官を紹介しよう。其方の護衛も任せる事になると思うので、経緯は説明してある、心配するな」

 言われて気が付く。ヴァルクラウトのやや後ろに控えていた、如何にも騎士然とした男が言われて前に進む。

「キーファー・ヴァイクホルツです」

 そう名乗ると直ぐに元の位置に戻る。慌てて沙月も挨拶し返したが、余り愛想は良くないらしく、表情は変わらない。

 隙の無い身の熟しと、王太子の護衛を任されると言う事で、優秀な騎士だと判るが、近寄り難くて怖いと思う。


 其れにしても落ち着かない。


 今、沙月の周りには男ばかり四人も居て、其れなりに皆背が高い。沙月の背が低いせいも有るが、囲まれると壁と話している様だ。

 だから四阿で座る様に勧められてホッとした。



「では魔力の測定と行こうか。この水晶に手を当ててくれるかな?」

 出されたのは水晶球で、言われるままに手を置くと、ウィロードが熱心に眺め始めた。

「うん、眠っている時より安定しているかな……。タティアナ、意識を水晶に集中して、出来れば魔力が掌から流れ出る様な感じで」

「魔力なんて判らないです!」

「いや、何か力を感じている筈だよ。その力が掌に集まると想像してご覧?」

 そう言われれば何か妙な感覚が有る。掌に集めると言うより、水晶に吸いとられる様な感覚だ。そのまま感じる力が手に集まるように念じていると、水晶が光りだした。

「うん、これで終わりだ。お疲れ様」

「これで何が判るんですか?」

「タティアナの魔力の量と質、其れと属性と、職業適性かな」

 既に沙月の魔力については、勝手に少し調べた事を謝罪していた。一度調べて何故もう一度、と訊けば意識の有る時の方が確実だと言う。

 水晶球に魔力を集めて測定するので、意識が無いと満足のいく結果が出せないと聞いて納得する。

 ただ、此の水晶球の測定も今は少し古いやり方で、最新式は冒険者ギルドが扱っている水晶板測定なのだそうだ。そちらはもっと詳しく調べられると言う事だった。

 そして得られた結果だが、面白い事が判った。


「魔力の垂れ流し?」

 意味が判らず鸚鵡返しに言うと、ウィロードが困った様に説明する。


 ウィロードの初めの測定では判らなかったのだが、沙月は魔力の質こそ高いものの、器が小さいらしい。質が高いと一日に作られる魔力は多くなるのだが、それに対して器が小さい為、溢れた魔力が垂れ流しの状態なのだそうだ。普通は器と魔力量は比例して、収まりきれる様になっている。そして沙月の器が小さいとは言っても、平均より小さい程度なので、異世界から来た為では無いかとウィロードは言う。


 器が小さいと言われて微妙な気分、人間が小さいと言われた気分になるのは日本人だから仕方無いと思う事にして。

 魔力の提供をしてくれと言われ、ハイと返事はしたものの、この場合どうすれば良いのだろう?

 リリフロラに採寸される間、色々と異世界事情を聞いたのだが、誰にでも多少なりとも魔力が有るので、その魔力を利用した魔道具がかなり浸透しているのだと言う。灯りを点けるのも火を熾すのも、少なからず魔力が必要となる。

「魔石に魔力を注いで貰おうと思ったのだけど、垂れ流しの状態で更に魔力を、となると生活に必要な魔力が残らない可能性があるね」

 然も沙月は魔法を学んでいないので、魔力を注ぐと言ってもどうやれば良いか見当も付かない。迂闊に提供して空っぽになっては、生活に支障を来す恐れがある。

 どうしたものかと考えていると、キーファーから提案があった。

「恐れながら、申し上げます。サトゥーキ嬢には、魔石を肌身離さず着けて頂ければ宜しいのでは無いでしょうか」

「そうか、どうせ溢れている魔力だ、無理に魔石に注がなくとも吸収されるか!」

 その方法なら沙月にも魔力は残るし、魔石にも魔力が貯められる。其れで行くかと決めた所で沙月が質問した。

「魔石に魔力を注ぐって言ってたのに、どうして身に着けるだけで良いって事になるんですか? だったら最初からそうすれば良いんじゃないですか?」

「ああ、誤解させて済まないね。普通は身に着けるだけでは、魔力は貯まらないのだよ」

 そう言うと、ウィロードは再び説明してくれた。


 魔石は魔力を取り込むのに、媒介を必要とする。通常は人の意思により注がれ取り込まれるが、例外として余剰の魔力が有れば、其れも取り込む。但しその場合、身に着けて居なければ自然に取り込まれる事は無く、溢れる以上の魔力を吸い込む事も無い。そして器以上に魔力を溢れさせるのは非常に稀な事なのだ。

 キーファーが肌身離さず着ける様に提案したのは、過去に騎士団の訓練中に魔力酔いを起こした騎士が偶々魔石を持っていて、そのまま持たせていた所、魔石が魔力を吸い、騎士の魔力酔いが治った事が有ったからだ。魔術師団でも同様の事が有り、調べた結果、魔石は器から溢れたものに限り魔力を勝手に吸収する事が判った。但し机に置いたりポケットに入れたりしては駄目で、直接肌に触れさせないと効果が無い事が判った。

 然しこの話は余り広まらず、精々魔力酔いの対策にしか使われる事は無かった。何しろ器以上に魔力を溢れさせる等、通常では考えられないからだ。

 魔力と器は釣り合いが取れて居るのが常識であり、魔力が一時的に暴走しない限りは溢れる事は無い。そして魔力が溢れた場合、大概が魔力酔いを起こし意識不明となるのが普通で、沙月の様に魔力を溢れさせても平気で居られるのは、非常に稀どころか有り得ない話と言えた。


 魔石の件が片付いた所で次は属性だが、此方は火と水に適性が有った。

 相反する属性に適性が有った事で多少は驚かれたが、魔法を学べば誰しも全属性使用可能となるので、どの属性が習得し易いかの目安程度なのだそうだ。

 沙月の場合は火と水なので、各々に親和性の高い風と土も、早く覚えられるだろうと言う事だった。


 魔法が覚えられると聞いて沙月はワクワクした。

 何せ魔法だ。

 アニメやゲーム、小説で登場人物たちが使うのを見て、何れだけ憧れた事か。超能力も良いが、やはり魔法だろう。

 其れが教えて貰えると知って、つい笑顔になってしまう。

 だけどどうして其処までするのか? 魔石に魔力を注ぐのは、勝手に魔石がやってくれるそうなので、別に沙月が魔法を覚える必要は無い。

 はて? と首を傾げると、此れにもきちんと理由は有った。

 魔法を基礎から学べば、魔力が多くなり、必然として器も大きくなる。今は魔力酔いをしていなくても、将来ならないとは限らない。沙月は平均より小さいので、魔法を学ぶ事に因って器を大きくするのが目的だ。


「見習い魔術師たちと一緒に学んで貰いたい所ですが、タティアナの存在はなるべく公にしたくないので、基礎を覚えたら私が続きを教える事になります。基礎学はアイヒェと同じ教室で学んで下さい」

「大丈夫だ、数回しか使えないが、姿隠しの道具(アイテム)が有る」

 そう言って渡されたのは小さな指輪で、嵌めてみようとした所、使う時までは嵌めない様に言われてガッカリした。


 最後に職業適性だが。

 此れは実際に向いている職業を教えてくれると言うものでは無く、スキルと呼ばれる技能の内容で、向いている職業を考えると言うものだった。

 そんな沙月に出た結果だが。


【異世界言語】 異世界の言語が使える様になる(読み書き含む)

【鑑定師】 鑑定が出来る。レベルにより鑑定内容が詳細になる

【調合師】 調合が出来る。レベルにより難しい調合が可能になる

【研磨師】 研磨が出来る。レベルにより研磨出来るものが増える

【原世界の恩恵】 元の世界の持ち物が無限使用可能。但し元の世界と繋がる事は出来ない


 先ず三つ以上有る事に驚かれ、最後の一つに驚かれた。

「此れはスキルと言うより加護だな。其方の持ち物は減らないと言う事か?」

「増えるとは書いていませんが、無限使用可能となると、そうでしょうね」

「スマホの電源が減らないって事かな? でもネットに繋がらなきゃ意味が無いと思うけど……」

「すまほ? 何だ其れは」

 最後の加護のせいで話が逸れてしまったが、落ち着いてスキルを見直して出た結論は、沙月に向いているのは錬金術師か商人だろう、と言う事になった。

 一つ目のスキルは、外国と商売をするのに打って付けだし、鑑定もそうだ。鑑定と調合が有れば錬金術も可能だろう、と言う事に落ち着いた。

 この結果に沙月は小躍りしたくなった。錬金術師なんて、元の世界ではなれない職業だ。元々沙月が理系を選んだのは、文系よりも成績が良かった事と、ゲームの影響だ。錬金術がメインのゲームに一時嵌まり、ゲーム内の調合が楽しくて、現実でも似た様な事が出来る科学実験に嵌まりに嵌まった。

 だから実際に錬金術師になれると知ればそれ一択である。

「私、錬金術師になります!」

 思わず叫んだ沙月に、全員が目を丸くしたのは言うまでもない。



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