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帰省と成人式

 私は久しぶりに、生まれ故郷のこの街に戻ってきた。東京の大学に進学してからは、なかなか戻れないことが多かった。しかし、ここの街並みは相も変わらぬ様子で、いい具合に寂れている。

 成人式で小学校の同級生が集まるというので、私も参加するために帰省したのだ。

 式自体は祝辞を聴くだけの退屈なもの。田舎の成人式とは言っても、暴れまわる人もいないし、静かに執り行われた。

 それよりも、これから開かれる立食パーティーや、二次会のほうが楽しみであった。


 立食パーティーでは、当時から全く変わっていない先生や、それとは対照的に誰だかわからないくらいに変貌した同級生と、会話に花を咲かせた。中学から私立に行った私は、ほとんどの人とは、およそ八年ぶりに会うことになる。この八年間、みんなそれぞれ色々な出来事があったようで、驚きが尽きなかった。

 学年一優秀だった真柴くんは、現在東大を目指して二浪中だという話を聞いたし、逆に暴れると手がつけられないと悪名高かった池畑くんは、慶應に合格してキャンパスライフを謳歌しているそうだ。

 恋愛事は苦手そうだった暗めのキャラの拝島さんは、すっかり垢抜けて、バッチリ化粧まで決めて綺麗に見えたし、既に結婚もしているのだとか。

 先生とも話したが、殆どは既に退職したか転任したということで、今もここの地元の学校に勤めている人は少なかった。そういうわけで、お世話になった先生全員に会って話をするということは叶わなかった。そして私の在席していた六年二組の担任、笹垣栄子もまた、ここへは来ていなかった。


「そういえばさ、笹垣先生来てないね。私達が卒業するときの担任だったんだし、来てくれても良かったのに」


 私は、小学校時代に親しくしていた、松元祐奈にそう尋ねた。彼女とは式中、偶々隣の席に座っていたので、そこから一緒に行動していた。しかし、それを聞いた彼女の目元に、一瞬翳のようなものが差した。浮かない顔をする彼女は、唇がすっかり重くなってしまったかの如く緩慢な動きで口を動かし、ようやく言葉を発した。


「絵里、知らないんだっけ。……実はね、笹垣先生、行方不明なんだって」


 賑やかだった場が、水を打ったようにしんと静かになった感覚に陥った。世界から切り離され、自分一人の空間に入ってしまったように思えた。


「行方……不明?」


 私は聞き返すのでやっとだった。


「そう、私達が中学二年の頃に、突然いなくなって、それきりだって」


 この会話を耳にした人が、それを話題にし、更にそれを聞いた人がひそひそと噂話を始め、異様な暗さと翳りが会場を呑み込んでいった。食事には誰も手を伸ばさなくなった。急に静かになり出したところで、誰かがポツリと言った。


「そういえばさ、あの二人も、まだ行方不明のままだよね」


「あの二人って……?」


「ほら、いたでしょ。江坂さんと伊藤さん」


 その名前が引き金になって、私の脳裏に忌々しい記憶が蘇った。今の今まで、心の奥に押しとどめていた、思い出したくない記憶。しかし、その封は解かれ、私はすっかり八年前のあの日に遡っていた。

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