真相は箱の中
「全部女物か。ドレスとは少し違うようなデザインだが……」
華奢な体つきにあわせたとみられるサイズで、腰回りが絞られている長衣。スカートの部分は短く、これだけを身にまとうにはきわどい。脚衣やベルトが別に小分けされているから、女性が外で動くための実用的な衣類か。
底に残った最後の1枚に手をかけた時、冷たく固い感触が衣服越しに当たった。
不審に思って服を脇へどけてみると、底であるはずの板の端に、なぜか小さな錠前がついていた。オスティンの脳裏でピンと閃く。
「仕掛け箱………」
どうやら、二重底であるようだ。本物の底にはさぞかし貴重品か人前に出すのがはばかられる禁制品が隠されているに違いない。
これではむしろ「怪しんで下さい」と手招いているようなものだ。こんな事態を、検問所の長官たる者が目をつむるわけもなく。
「鍵………? おい、何を持ち込もうとした」
澄んだ瞳が午後の陽光を受けてギラつき、男たちをまごつかせる。この問いにだけは答えまいと黙っていた2人組だったが、ウォーデンが許さなかった。
「あんたがた、こんなところで死にたくないだろ? ん? ちょーかんの命令に従っとけば、命の心配はないぜ」
取り押さえていた1人の首に腕を回し、ほんの少し力を入れる。喉が圧迫され、男のうめき声が漏れた。むごい見せしめに、テオに捕らえられている男の顔も血の気が失せる。
とどめを刺したのはオスティンだった。
「出せ。失くしたとは言わせない」
いつもより一段と低い声。怒りと苛立ちを押し潰した声色だ。
首を絞められた男が、ややためらいがちにポケットの内部から鍵を探り出した。奪い取って、オスティンは針の穴ほどの鍵穴に挿し込む。
それまで大人しくしていたノエルは、中に収められているモノの正体を察知したのか、さっと全身を強張らせた。
いくら商業都市のトゥルネイといっても、持ち運んではいけない商品がある。そうした物品を『禁制品』と言うのだが、中には役人の目を欺くため、問題のない商品に隠されていることがある。
トゥルネイから持ち出し禁止の商品は、主に街の特産物と宝石類。食べ物系は特に長時間売り歩くと鮮度が落ちるから、品質確保を目的としている。
トゥルネイへの持ち込み禁止の商品は、それ以上に多く指定されている。しかし古くから規制され、かつ徹底的に隠して持ち込まれてきたものといえば、武器や毒物など危険物と――――
「なんなの、サーシャ? お菓子かな」
「ふふっ。出てきてからのお楽しみですよ」
身体をワクワク揺らすチャロを、長椅子から転げ落ちないようカサンドラが支える。すべてお見通しの彼女はいつも以上にご機嫌だった。オスティンたちの緊張した面持ちを笑い飛ばすかのごとく、表情は爛々と。
錠の落ちる音がして、オスティンは偽の蓋を開けた。