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トゥルネイ検問所の長い一日  作者: 惟織
第1話 ブラック検問所
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夜陰に紛れて



「いました!! あとは任せましたよ、ちょーかんっ!」

「お前も追え! 仕事しろ!」

「勤務時間外っす!!」


 背後から、本気で取り押さえるつもりがあるのか分からない怒号が響く。


 その声を少しでも遠ざけるかのごとく、夜陰に(まぎ)れて疾走する1人の男。小脇には一抱えの木箱。荒い息を吐いては吸い、吸っては吐きを(せわ)しく繰り返す男は、痛む足を叱咤して速度を上げた。


 全身にまとわりつく夜風がわずらわしい。先ほどより過ぎ去るのが遅くなった周りの景色は、男の体力が限界にさしかかりつつあることを物語っている。

 けれど休むわけにはいかない。追手はすぐそこまで迫っているだろう。彼らから逃れるためには、街の外へ出なければ。


 ほとんど無我夢中で突っ走っていると、ようやく検問所の門が見えてきた。今は真夜中だから、夕暮れには閉まってしまう門は当然開いていない。だがどうにかよじ登れたら、外へ抜け出せる。追手はそれを悔しい思いで見届けながら諦めるはず。検問所から向こうの道は、トゥルネイの領主の権力が及ばないのだから。


 激しい呼吸に笑みをにじませて、男は木箱を持ち直す。


 あれを、あの門を越えれば身の安全が保障される。そんなわずかな希望だけが、男を奮い立たせていた。


 裸足の指先が角ばった石を蹴飛ばしても、もう痛みは感じない。男の命運がかかった鉄の門が、すぐ目の前にそびえているのだから。


 男は門の錠前目がけて思いきり腕を伸ばす。


 肌を伝ったのは、冷たい門の柵ではなく、男の手首を掴む強い握力だった。


「残念。惜しかったな」


 ちっとも哀れんじゃいない声音は、膝蹴りとなって男の腹に食い込んだ。



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