美優
美優、その人は優弥の双子の妹だった。そして、知世の親友であったと知世は思っていた。
美優は高1で二人の目の前から姿を消した。
知世は思い出したくないような思い出したいような不思議な感覚にとらわれた。自分が優弥を連れてきたくせに、勝手なもんだ。
知世と美優は公立高校の受験に失敗し、滑り止めのミッション系女子高校に入学した。優弥は知世と美優が受からなかった高校に安泰で合格した。
美優は優弥が中学でやめたピアノを続けていた。優弥はショパンも弾ける腕前だった。そして、美優も。
知世は小学校のころから仲が良かった美優の家によく遊びに行った。そして、美優がピアノコンクール前に忙しいときも、美優の練習する姿をたまに見に行っていた。
知世は運動が好きなショートカットの似合う色黒の女子だ。女子高に入った今も硬式テニス部に所属している。中学校は軟式テニス部だった。
「おまえさ、黒いよな、白目が浮き出て見えるみたいだな」
優弥が知世をちらりと見ながら、見つけたラベンダーのつぼみに近づき、座り込む。
「あんたさ、よく日に焼けてるなとか言葉を選んでくれない?」
むっとしながら、パイナップルミントのにおいをかぐ。
「あんた、男のくせに真っ白じゃん、不健康そうに見えるよ」
と小ばかにしたセリフを言う。こんなつもりじゃないのにと思いながら。
「おまえな、それって男女差別ってやつじゃないのかよ」
「俺は、水泳部で室内で練習してるから日に焼けないんだよ」
と優弥が応酬する。
「へー、木島君はへなへなしてるから、女だと思ってました」
こんなつもりじゃなかったのに、と思いつつ、口げんかは一向に収まる気配はない。




