1-1 ロンドンから来た二人の魔法使い
この小説は、歴史的事実などから着想を得ていますが、作者の主義、主張、趣味、嗜好とは関係がありません。
十二月二十三日祝日。ロンドン―成田便に二人の魔法使いが乗っていた。男性と女性。十時間を超えるフライトの最中、男性の魔法使いは、唯、日本に帰ることができるという喜びに充ちていた。一方で、女性の魔法使いは、絶えず空間を移動し続ける飛行機の中で、魔法を使い続けていた。無論、警備上の理由である。昨今は減少の一途を辿っているが、航空機内における爆弾テロは二十一世紀に飛行機に乗る以上避けられない危険である。また、今回の相手を考えれば、当然、警戒しなければならない。そう考えて、睡眠をとることもしていなかった。幸いにも、彼女は魔法言語としてチェコ語を扱うことが可能であり、その言語は、爆弾やその他危険物などを探す際に、利便性が高い魔法である探索魔法を使うことができた。
現在は、韓国上空。ロシア領空を経由して日本へ向かっている。間もなく、目的地に到着する、と二人は考え、安堵に溢れていた。
「良かったわね」
女性の魔法使いはそう隣の気楽そうな男性の魔法使いに言った。
「ああ、やっと、日本に戻ってこられた」
感慨深そうに男性の魔法使いがそう言った。
「そういう意味じゃないのだけど」
女性の魔法使いは肩を竦めた。
一昔前まで、欧州―日本便は、ロシア領空ではなく、北極圏を経由して飛んでいた。その頃に比べるとフライト時間は格段に短くなっている。半日程度であれば、一人の魔法使いでも警戒態勢を取ることが可能である。これが半日を超えると、二交代制を取らなければならない。その危険を冒すことなく、隣の男性を待ち望んだ場所に到達させることができそうだということに女性の魔法使いは安堵していた。
二人を乗せた飛行機は、一時間の後、無事に、成田空港にランディングした。