それは、人間
「唯山君」
肩を叩かれた。
「下校時間だよ、早く」
倒れたあと、なんとか授業にも出て、そのあとはまた平穏な日常に戻っていた。
急かす美汐に対して軽く頷き、帰路につく。
平穏な日常....一つを除いては。
前方に、早茅万智がいた。
「あの.....万智ちゃんに、声、掛けないの?」
触れたらいけないものの様に、ゆっくりと俺に問う。
掛けない、あいつは死んだんだ。
ただの同姓同名だろ。
.......本当は、俺もなぜかあの日の早茅万智、本人のような気がしていた。
「私は、あの万智ちゃんのような気がするんだ」
あの、万智ちゃん。
美汐も万智が好きだった。
元々、近所同士だった美汐と万智であったが、姉妹に間違われる位、仲が良かった。
美汐も、死ぬ前に万智から心中を明かされていたようだったが、
詳しくは聞いていないらしい。
ただ、
「私、死ぬかも」
といわれだけだそうだった。
美汐本人も、万智が亡くなった時、鬱になりかけた。
それくらい、美汐は万智に対して深い感情をもっていたのだ、きっと。
「.........」
隣の美汐は、下を向いて歩いている。
黒の色がはらんだ雰囲気の中、俺は黙って歩くしかなかった。
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「じゃ、私こっちだから」
割れた十字路で俺と美汐は別れる。
憂いを持った美汐に小さく手を振り、再び帰路についた。
............。
まだ、前方に早茅万智がいる。
声を掛けようか悩んでいる。
変に声を掛けて、本当に同姓同名だけの赤の他人だったら最悪だ。
不審者扱いされるかもしれない。
俺が万智とはじめて会った、あの日のように........
時期は、冬であった。
しんしんと降る雪の中、俺は完全防備でいたので、目にはゴーグル、首に真っ黒のネックウォーマーなどという、明らかに他人から見ると不審者に見えてしまう服装になってしまっていた。
それはもちろん万智も同じで。
俺を見て銀行強盗だの、誘拐犯だの、散々言っていた。
懐かしい、あの日の........
「あの、すいません」
ぎょっとして、下を向いたまま、何ですかと応える。
「貴方は、」
見上げる。
顔を見る。
「私を、」
ただそれだけなのに、
「知っていますよね?」
会いたかった。
だけど、死んだはずの人間なのに。
「久しぶりです、奏汰君」
この瞬間。
あらゆる理念や理が崩れていく感覚がした。
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駄作をここまで読んでいただき、ありがとうございました!
このあとは、二章となります(多分....)
死んだはずの少女と出会い、唯山はどうなってしまうのでしょうね?
なんか、ぶっ飛び展開があるかもなので、温かい目で観ていただければと思います(*^_^*)
それでは、三枝陽でした~。