ケイキ、井上先輩とデートする
(ケイキ目線)
最近仲良くなったサッカー部の井上先輩が、参考書を選んでくれるというので一緒に出かけることにした。正直戦術書関係以外あまり本を読んだことがなかったが、学校に通っているのだし、少しは勉強しようと参考書でも買うことにしたのだが、種類がたくさんあってよく分からない。
むっちゃんに聞いても良かったが、むっちゃんはあまり勉強が得意ではないようだ。皆が言うには井上先輩は学年一成績が良いということなので、彼に聞けば確かだろう。剣術でも何でも極めた人に聞くのが一番だ。
一緒に電車に乗って行った書店はとても大きくて、参考書がたくさんあった。井上先輩はわたしの理解度に応じていろいろ勧めてくれた。問題よりも解答にページを割かれたものの方が良いなど、なるほどと思えるアドバイスだ。この人を頼ったのは正解だったようだ。
参考書を購入した後、井上先輩はこの辺で一番おいしいというパフェを出すお店に連れて行ってくれた。パフェなるものを初めて食べたが、目玉が飛び出るくらい美味しかった。感動するわたしを見て井上先輩が笑っていた。とてもいい人だなと思った。よく見てみると確かにイケメンだ。女子たちからも相当人気のようだ。こういう男って聖騎士の仲間にもいて、モテモテだったよなあって思い出した。あいつ今頃どうしているのだろう。
「華宮ってさあ、好きな人とかいるの?」
「いませんよ」
井上先輩は一緒にパフェを食べながら聞いてくる。
「乙浜とはどういう関係なの?」
「え~むっちゃんですか。むっちゃんはわたしの一番大切な人です」
「そ、そうなんだ。それって好きってこと?」
「う~ん、好きって言えばそうなのかもしれませんが、絶対的に守りたい人です」
「す、すごいね。乙浜は幸せ者だね。華宮にこんなに想われていて」
「はい! いつでもどんなときでもむっちゃんに何かあれば、駆けつけて全力で守ります!」
「……つまり、乙浜とつき合っているってことだよね?」
「はあ? それって恋人同士ってことですか? 違いますよ」
井上先輩は目をぱちくりさせてパフェを飲み込んでいた。何を言っているのだろう、むっちゃんはわたしの大切な主様だ。あ、でもわたしのことを好きになってくれたら嬉しいな。
「じゃあさ、俺とつき合わない?」
井上先輩は真剣なまなざしでわたしの目をじっと見つめてくる。なかなか綺麗な目だ。
「俺、華宮のことが好きなんだ。お前とつき合いたい」
たぶんこれ、井上先輩の必殺技的な感じがする。普通の女の子ならメロメロになるやつだろう。聖王国騎士団筆頭まで務めたさすがのわたしも、ちょっと頬が赤くなってくるのを感じた。
「ごめんなさい。井上先輩のことはとても尊敬していますし、素敵な人だと思います。けど、わたしはむっちゃんのことが一番大切なんです」
「即答かあ! 乙浜に負けたなあ。あ~悔しい!」
そう言って井上先輩は笑った。悔しいと言いながら笑う姿も爽やかだ。
わたしがおつき合いを断ったのにもかかわらず、井上先輩はパフェのお金を払ってくれ、家まで送ってくれた。本当にいい人だ。
でも、人を好きになるってどういうことだろう。わたしは今まで恋をしたことがないのでわからない。恋愛している人を見ると、良さそうなものだとは思う。むっちゃんは大切な主様。でもそれだけじゃない気もする。とってもやさしいし、とってもわたしのことを尊重してくれているのがわかる。こんな人いままでいなかった。きっと井上先輩とつき合っても、むっちゃんとむっちゃんの作ってくれたご飯を一緒に食べているときのほうが、ずっと楽しいってわかってる。
◇ ◇ ◇
(乙浜目線)
「乙浜、桂騎君は先日、サッカー部の井上とデートしていたらしいな」
桜井先輩は今日も玉頭の歩を突きながらそう言った。
「ほ、ほんとですか!? てかっ、何でそんなこと先輩知っているんですか!?」
先輩はちらりと盤上から僕に視線を移した。
「逆に何でお前は知らないのだ。俺すら知っているというのに」
僕は自分の駒を持つ手が震えているのを見て、ものすごく動揺している自分に気づく。
「俺の計算によると、井上の告白勝率は10割だ。失敗はない」
なんということだ。知らない間にケイキと井上先輩がデートしていたなんて。というか、井上先輩はケイキに告白したのか?
「い、井上先輩はケイキに告白したんですか?」
「……そう聞いている」
「で、……どうだったんですか……」
桜井先輩は駒を持つ手を高く上げ、盤上にビシッと振り下ろした。
「乙浜、それを俺に聞いてどうする。自分で桂騎君に聞け」
すでに盤上は圧倒的な桜井先輩の優勢だ。勝勢と言ってもいい。
「この盤面にお前の勝ちはない。これがどういうことを意味するのかは自分で考えるのだな、乙浜夢月よ」
既に勝ちのない将棋。僕はそんな状況で何をしたいのか、何をするべきなのか。夕暮れの日差しが差し込む部室の中で、僕はずっと盤面を見つめていた。




