男子からも女子からも、もてもてケイキ
体育の授業で走った100m走で、世界記録をぶっちぎる5秒台を出して以来、ケイキは運動部の部活に引っ張りだこだ。
この前は男子サッカー部の練習試合に出て、26得点ほどしたところで退場を命じられていた。バスケット部では、コートのどこからでもボールを投げてゴールに入ってしまうので、バスケットという競技の概念を崩壊させていた。昨日などは校舎の最上階に位置する我が将棋部の窓ガラスが突然割られて何事かと騒然としていると、床に砲丸が転がっていた。ケイキが砲丸投げをして飛んできたらしい。
ケイキはスポーツというもの自体を経験したことがなかったらしく、誘われるがままいろいろ楽しんでいるようだった。だが、特定の部活に入るということには興味がないようだった。最初は熱心に勧誘していた部活の部長たちも、いまではいろいろな競技でとてつもない運動神経を見せるケイキを楽しんでいる様子だった。
特に最近は、サッカー部部長の井上、テニス部の副部長安藤、バスケットボール部の坂本という西海高校の誇るトップスリーイケメンと一緒にいることが多いようだ。
器用にガムテープでつなぎ合わせた窓ガラス越しに、運動場でトップスリーに囲まれているケイキを見ながら桜井先輩は今日も玉頭の歩を突く。
「乙浜、おまえの桂騎君がイケメンたちに凌辱されているぞ」
「凌辱ってなんですか! ただ仲良く話しているだけでしょう」
「それを凌辱と言わずして何と言おうか。うかうかしているとイケメンにお前の大切な桂騎君がとられてしまうぞ」
「べ、別に僕らはつき合っているわけでもないし、ケイキが誰とつき合おうが僕には関係ないですよ」
急に桜井先輩は駒を持つ手を高く上げ、盤上にビシッと振り下ろした。
「悪手なり!」
盤上はいつの間にか駒も触れ合っていないのに組負けていた。敗勢といっていい。
「乙浜、この将棋を見ろ。うかうかしていると戦う前に負けることになるぞ」
◇ ◇ ◇
桜井先輩の言ったことが気になったわけではないが、夕食のときにケイキに恐る恐る聞いてみた。
「最近サッカー部の井上先輩たちと仲いいよね」
「う~ん、あの人井上っていうのか。あ、このおひたし美味しい! やっぱりむっちゃん天才だね~!」
「テニス部の安藤先輩とかって、女子から結構人気なんでしょ?」
「……どうしたのむっちゃん。わたしが他の男子とよくしゃべっているからって妬いているの?」
ケイキが箸を持ちながら嬉しそうに僕をみてにやっとする。
「そうだよね、そうだよね~、わたしがとられちゃうと思ってむっちゃん不安になったのね~。ウフフ、うへへ、ウワハハ!」
「そんなこと思ってないよ!」
「大丈夫よ。わたしの主様であるむっちゃんより魅力的な男なんているわけないじゃん」
「えっ……はっ……そ、そう?」
こういうのずるい! ケイキの顔がまともに見られなくなってしまう。僕の気も知らず、ケイキは相変わらず僕の作った料理をもりもり食べていた。
◇ ◇ ◇
生まれてこの方ラブレターというものを見たことがなかったが、実物を初めて見た。しかも大量に。
ある日居間のちゃぶ台の上に、無造作に大量の手紙が置かれているのを見てみたら、全部ケイキ宛のラブレターだった。しかも男からも女からも。ケイキによると、ひっきりなしにもらって困っているらしい。なんてウラヤマシイ奴なんだ!
最近ケイキの周りにはイケメンがたむろっていて、それを気に食わない女子がつけ狙っていると、頼んでもいないのにクラスの女子が教えてくれた。特にサッカー部の井上先輩と幼馴染で、この学園の女子のリーダー的存在の生徒会副会長小泉柚果は、相当ケイキのことを嫌っているようだった。
ところがある日、小泉さんが他校のガラの悪い男子生徒に絡まれているのをケイキが見つけ、相手を回し蹴り一発で沈めて以来、小泉さんはケイキに心酔してしまったらしい。その結果、西海高校の女子グループのほとんどがケイキ支持派に回り、男子からも女子からも大量のラブレターが届けられる状態になってしまったようだ。
そんなわけで、ケイキの周りには男女問わず人だかりができているのだが、僕が下校するのをたまたまケイキが見つけると、
「むっちゃ~ん!」と、手を振りながら遠くから走ってやってくる。
「一緒に帰ろう!」
そう言って、ケイキは僕の腕にまとわりついてくるのだが、恐る恐る取り巻きの人達を見ると僕を見る目がものすごく怖い。
『何だあいつ! せっかく桂騎ちゃんと話していたのにムカつく奴だな!』
『わたしたちの桂騎様を横取りして! 何様なの! さえない顔のくせに!』
男子からも女子からも、思いっきり汚いものでも見るような目で見られる。
確かに全校一の人気者美少女が、美男美女のとりまきを差し置いて、さえない僕のような奴のところに来てくれるなんて自分でもおかしいと思う。
『家に住まわせてやっていることをたてにして華宮さんを脅している』
『華宮さんの弱みを握って言いなりに調教している卑怯なやつ』
『華宮さんにお金を貸して、それを理由に毎晩すごいことを強要している極悪人』
など、僕に対するありもしない酷い噂がひろまっている。確かに最近ちょっとまわりがとげとげしい感じがする。ケイキは僕を守護してくれるために来たと言うけれど、これじゃ逆効果だ。
「それは桂騎君に問題があるのではなく、乙浜の問題なのではないか」
そう言って桜井先輩は今日も玉頭の歩を突いた。
そうか、そうなのだろうか。でも、勝手に守護するってやってきたのはケイキだし、僕が頼んだわけでもないし、ケイキが誰のことを好きになろうが勝手だし……。ちがう、僕が言いたいのはこんなことじゃない。




