黒髪の美少女と焼肉を食べる
御徒町には金製品を買い取ってくれる店がたくさんある。そのうちの店のひとつに適当に入って金貨を見せる。
「これ、どうしたの? 君達ご両親は?」
いくつかの店で見てもらったが、どこにも怪しまれて、というか面倒ごとには巻き込まれたくない、という感じで相手にしてもらえない。すると、最後に見てもらった店の店員に、僕に代わってケイキが聞いた。
「いろいろありがと。最後に聞くけど、この辺でこの金貨を換金してくれる、信用出来て口の堅いお店を教えて」
「……この裏通りにある小林商店……です……」
店員さんは急にぼーっとしたようになって教えてくれた。絶対何か今使った!
「ちょっと魔力で、ねっ! ウフッ」
店の外でケイキがかわいらしくウインクして笑う。
「ちょっとそれ、僕にやってないだろうな?」
「そ、そ、そんなことわたしがむっちゃんにするわけないじゃない! ですわよ!」
「やったな、やっただろ!」
「わたしのこと信じてくれないの? ひどい! こんな人だとは思わなかったわ」
ウソ泣きと分かっていても美少女のウソ泣きが可愛すぎてひるむ。
「あっ、小林商店ってあれじゃない? むっちゃん早く行こう!」
ひるんだ隙に腕を引っ張られて連れていかれた路地には、露骨に怪しい店があった。周囲と場違いな、極端に古びた建物の入口の木製の看板には、消えかけた文字で『小林商店』と書いてあった。
「ごめんくださ~い」
この少女は物怖じするということを知らないのか。躊躇する僕を尻目にケイキは慣れ親しんだ店に入るような気軽さで店に入っていく。
「ちょっと金貨を換金してほしいんですけど~」
ケイキがそう店の奥に向かって声を掛けると、この店にしてこの店主ありと言ったような、怪しげな丸メガネをかけた老人がゆっくりと歩いてきた。怖い! 僕はもう帰りたくてしょうがない!
「あ、おじいさん、この金貨なんだけど換金できますか?」
ケイキが一枚の金貨を老人に見せると、老人がにやっと笑ってメガネに光が反射する。
「これはこれは、久しぶりに見る聖バルト金貨ではないですか。娘さん、さては異世界のお人かな」
そう言ってその老人はさらににいっと笑うと、金歯と銀歯が見えた。
◇ ◇ ◇
小林商店の老人は、僕らを店の奥に入れてくれ、お茶を出してくれた。
「いやあ、異世界の人と直接お話しするのはひさしぶりです。長生きはするもんですな」
「おじいさん、この金貨のこと知ってるの? いくらぐらいになるの?」
「まあまあ娘さん、もう少し年寄りの話に付き合ってくれんか。ちゃんとそれ相当の額で換金はする」
「お話しお付き合いします!」
老人はお茶をすすりながらじいっとケイキを見た。
「娘さん、聖バルト王国から来なさったのか?」
「そうです。つい最近来ました」
聖バルト王国って何だ? 初めて聞くんだけど。どうでもいいけどケイキはあまり自分のことを僕に話してくれないよな。なのにこんなおじいさんにさらっと話してしまうなんて、ちょっと嫉妬する。
「じゃあ、騎士様かな?」
「はい。聖王国騎士団で筆頭やってました」
「それはそれは! そんなすごい方とお会いできるとは光栄です。末長いお取引をお願いしたいですな。換金もぜひ勉強させてください」
「おじいさん良い人ね!」
ホッ、ホッ、ホッと、老人は笑うと、改めてケイキに言った。
「筆頭殿、これは老婆心から言うのですが、ここ以外でこの金貨を見せてはいけません。この金貨は異世界人の証。異世界人が来るとき、かならずこの世が乱れると言われています。まあ私等からすれば、それは金相場の値上がりの予告、儲け時を知らしてくれる吉兆のようなものですが、もっと欲深い連中もいる」
老人はお茶をすすりながら続けた。
「だからここ以外で金貨を見せてはいけません。できればあまり目立つ行動も控えるべきです。目立つ行動は筆頭殿の守護するそちらのお方のためにもなりません。そちらの方が何故この世界にいるのかをよく考えるべきです」
老人はそう言うと、笑ってまたお茶をすすった。
何でこの老人は、ケイキが僕を守護しているって当然のようにわかっているのだろう。僕がこの世界にいる意味って何だろう。ケイキは老人の話を聞いているのか聞いていないのか、三枚の金貨を老人に差し出した。
◇ ◇ ◇
結局、この日は老人の店で、僕らが持ってきた三枚の金貨は、数百万円に化けた。どびっくりだ。まだ家には金貨は何十枚もある。
「ウフフ、ふははっ、ウワハハハハハハ!」
小林商店から帰る道すがら、ケイキが急に笑い出した。
「むっちゃん、わたしをただの詐欺師扱いしたことを悔い改めなさい! お金ならたんとあるわよ! 無敵よ! カラオケ行きまくりよ!」
なんというか、ちょっと前までのしおらしいケイキの方が可愛かった。
「じゃあ今晩はわたしがおごるわ! 焼肉行きましょう!」
この日、僕はケイキに上野の焼肉屋でおごってもらった。焼肉なんて食べ物どこで覚えたのだろう。ケイキが誰と焼肉に行っていたのか少し気になったが、焼肉なんて久しぶりに食べた。牛タンやカルビは本当に美味しかった。そう言えば二人で初めての外食だ。すっかり二人とも焼肉臭くなって家に帰り、お風呂に入った後、ケイキは寝る前に言った。
「今日の焼肉とっても美味しかったけど、わたしはむっちゃんの作ってくれたお料理の方が好きかな。あ、あとこのお金むっちゃんにあげる。おやすみ」
今日換金したばかりの札束が入った袋を、ケイキは居間のちゃぶ台の上に無造作に置いて、自分の部屋に入ってしまった。ケイキはあまりお金に関心がないのかな。とりあえず僕からお金を巻き上げる詐欺師ではなさそうだ。




