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僕のところに突然やってきた守護騎士は黒髪の美少女だった  作者: 渓夏 酔月


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銀髪の少女【最終話】

 医学部の臨床実習で、郊外にある大学病院の分院に実習に出かけた。この分院はもともと結核の療養所だったそうで、自然豊かな森の中に病棟は建っていた。


「昔は結核というのは薬がなくて、あーうー、清浄な空気を患者に吸わせることが治療だったのです」


 分院の吉田院長は、学生達を引き連れ、独特の口調で分院の歴史や建物の説明をしてくれる。


「当時の療養所の建物を、今も現役で使用しているのは、あーうー、当院ぐらいなものです」


 木々の間から差し込む初夏の日差しが、古い木造の建物に揺れて美しい。ひさびさに僕は心がほぐれるのを感じた。吉田院長は学生たちを一番奥の病棟へと案内する。そこはひときわ静かな場所で、天使が降りてきそうな日差しが病棟を照らしていた。何か、昔見たことがあるような場所だ。


「あーうー、学生さんに分院を紹介するとき、必ずここを案内することにしています」


 そう言って吉田院長は、ある病室を見せてくれた。そこは病棟の端にある、日差しが優しく差し込む明るい個室だった。その個室には一台のベッドが置かれていた。


「当院のスタッフ達から『眠りの森の美女』と言われている若い女性患者です、あーうー。七年程前、御茶ノ水の駅前で暴漢に腹部を刺された状態で発見され、大学病院の本院に運び込まれたのです。本院で緊急手術の上、集中治療室での一か月に及ぶ治療により一命はとりとめたものの、かわいそうに意識はずっと戻らないままなのです、あーうー」


 そこには、昔何度も夢に見た、銀髪の少女が寝ていた。


「普通こういう植物状態の患者は、心拍数や呼吸数はほとんど正常範囲かやや少ない程度が多いのです。しかしこの患者の心拍数は1分間に10回以下と、植物人間というよりも動物の冬眠に近い状態なのです、あーうー」


 銀髪の少女は、かつての血色の良い肌とは違い、蠟のように白い肌をしていた。


「しかも最近では、心拍数は1分間で5回以下に下がってきています、あーうー。研究対象として分院に置いているのですが、この現象はどの研究者にもわからないのです」


 僕はゆっくりとベッドサイドに近づき、少女のそばに立って吉田院長を見た。


「院長先生、この娘は僕の妻です」


 そう言うと僕は、静かに眠る少女の頭を抱え、口づけをした。


 その瞬間ものすごい量の魔力が僕から少女に流れていくのを感じる。クラクラするくらいだ。僕の魔力量が膨大だった理由は、この日このためのものだったのだと解った。少女の銀髪が徐々に黒髪に染まっていく。蠟のように血の気がない肌に赤みが差し、みずみずしく変化していく。彼女の心拍を感じる。その心拍は徐々に力強く、しっかりと脈打つ。僕は唇を離し、ほんのりと赤みが差した顔を見る。その長い(まつげ)が動き、ゆっくりとまぶたが開く。懐かしいブラウンの瞳が僕を見る。


「……ただいま……むっちゃん……」


「おかえり、ケイキ。僕の運命の人は君だったよ」


「……よかった……」


 ふたたび僕たちは唇を重ねた。まわりの実習の仲間達が静かに感嘆のため息をつく。


「……むっちゃん……」


「何?」


「……わたし、おなかすいちゃった。むっちゃんのお料理食べたいな」


「たくさん作るよ。一緒に家に帰ろう」


「うん」


 病室の大きな窓から差し込む木漏れ日の中、僕らは抱き合った。ああ、ケイキだ、ケイキにもう一度会えた。もう離さない。やっぱり君はいてくれるだけでいい。そばにいてくれるだけで僕はこんなにも幸せだ。ああ、ケイキ、愛している。心の底から愛しているよ。


 良く事情が呑み込めない学生達も、キスで長い眠りから覚めたお姫様を見て感動しているようだった。


「あーうー、奇跡です。奇跡が起こりましたな。長い間多くの患者を診ていると、人知では計り知れないことに往々にして遭遇します。いずれにしても良かった、良かったのです」


「ありがとうございます、院長先生」


「あーうー、乙浜君、良かったというのはそういうことではないのです。この患者は本院での手術、集中治療一か月、七年にも及ぶ入院と個室料等合わせて7000万円ほどかかっています。健康保険入っていないようだから10割負担です。乙浜君、いや旦那さん、7000万円お支払いをお願いするのです。いや~良かったのです。治療費未回収で退院させたくても出来ない患者が退院出来そうなのです。これで分院の収支も改善して本院から怒られなくても済むのです」


「……むっちゃんごめんね。大丈夫?」


「だ、だ、大丈夫だよ。ケイキが帰ってきたのだから、7000万円なんて安いものさ。あははは……院長先生、僕が医者になるまで支払いって待ってもらえます? 月賦ってききますか?」


「乙浜君が研修医終わったらこの分院で、馬車馬のように働いてくれるって言うならOKなのです、あーうー」


「……お世話になります……」


「あーうー、ちなみに隣の個室にもう一人、同じ頃に担ぎ込まれた髪の長い水色の瞳をした眠りの森の美女がいるのですが、そっちも乙浜君の関係者なのですかな?」


「「えー!」」


「そっちもブチューとやっちゃって、合わせて1億4千万円お支払いよろしくなのです」


 吉田院長は、ほくほく顔でこう言った。


「本当に良かった、良かったのです、あーうー」





これでこの物語はおしまいです。いかがでしたか? 

最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました! 

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