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僕のところに突然やってきた守護騎士は黒髪の美少女だった  作者: 渓夏 酔月


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20/21

ひとり

 あの日以来、ケイキどころか、ケイキの痕跡も消えてしまった。


 ケイキの部屋の荷物も無くなり、元の使われていない部屋に戻ってしまっていた。扉にかかっていた小さな看板もない。居間にあった、ケイキがテニス部でもらったというラケットも、食べかけのスナック菓子の袋すら消え去っていた。ケイキに来てくれと、いくら叫んでも何も起こらない。


 僕はあまり写真を撮るほうではないが、それでも携帯でケイキの写真を少しは撮っていた。しかし、ケイキの写真は一切なくなっていた。僕と一緒に撮った写真は、僕が最初から一人でいるように映っていた。


 学校で、誰に聞いてもケイキのことを覚えている者はいなかった。あれほど人気で、あれほど周囲を騒がしたケイキのことを、初めからいなかったように誰からも忘れ去られていた。絶望だった。僕以外誰もケイキのことを覚えていない。僕の方がおかしいのかと思った。


 将棋部の部室で桜井先輩にそのことを話した。


「乙浜が嘘を言うわけがない。俺も含めて皆が間違っていて、乙浜だけ正しい。そういうことも世の中にはある」


 桜井先輩は、僕を疑うわけでもなく、淡々とそう言った。


「その桂騎君とやらは、この部室に来たことはあるのか?」


「はい。一度だけ遊びに来たことがあります」


「そうか。なら俺はその桂騎君を案内し、将棋の手ほどきをしたのだろう。違うか?」


 僕はケイキが部室に来た時の光景を思い出した。桜井先輩が興味津々のケイキに駒の動かし方を教えている。まるで今ケイキがここにいるかのようだ。桜井先輩だけが僕を信じてくれて、ケイキとの出来事を口にしてくれた。


 気がつけば、ケイキがいなくなってはじめて僕は泣いていた。声を出して泣いていた。桜井先輩は何も言わずに夕暮れの部室で、静かに棋譜を並べ続けながら僕の前に居続けてくれた。


 僕とケイキが宮廷で挙げた結婚式の証拠でもある、金の指輪すら消えてしまった。これが何を意味するのか想像するのが怖い。ケイキとの結婚が破棄され、ケイキとの日々がないものにされてしまったかのように思うと、恐怖しかなかった。


 あの老人に聞けば何か分かるかもしれないと、御徒町の小林商店にも出かけてみた。小林商店があった場所には、ずっと前からあるようにコンビニが建っていた。店員に聞いても、小林商店があったことすら知らないという。国王が言った、今後一切この世界に干渉しないというのは、こういうことだったのだろうか。




 ひとの記憶は時の経過とともに薄れるものだと聞いていた。しかし、僕の中のケイキの思い出は全く色褪せることはなかった。忘れられないということは、ケイキがいないという事実を常に鮮明に僕に突き付け、切り刻む。ケイキとの日々は僕の人生の中でたった4カ月ほどでしかない。それなのに、今ではその4カ月こそすべてのようだ。


 街の雑踏を歩いていても、気づくとケイキを探している。ひとりで寝ていると、左腕にくっついているケイキを想って、つい左側を気にしてしまう。ケイキが異世界から戻って来るのではと思って、真っ暗な居間のちゃぶ台横の空間を、ずっとぼんやり見て過ごす。ケイキじゃなくてもいい、ラフレシアでもルーミでも、輪廻でも誰でもいいからケイキがどうなったのか教えてほしい。


 大切な人は夢の中に出てくると言うが、ケイキは全然出てきてくれない。せめて夢の中だけでいいからケイキともう一度話をしたい、あの笑顔を見たい。でも、夢に出てこないということはきっとどこかの世界で生きている証拠なのではとも思う。夢に出てこないことに安心し、夢でも会えないことが悲しい。


 秋という季節が嫌いになった。毎年夏が終わって暑さも落ち着き、徐々に肌寒くなってくる季節はケイキを思い出させた。秋の風に、空気に、澄んだ青空に、ケイキとの思い出が重なり、どこにもいないという現実に我に返る。ケイキがいなくなってから、すべての風景や出来事が、何かフィルターがかかっているかのようにいきいきとしない感じがする。



 僕は高校を卒業し、東京にある大学の医学部に進学した。かつてケイキは将来医者になって多くの人の命を救いたいと言っていた。誰もケイキのことを覚えていない、ケイキがいた痕跡すらなくなってしまったこの世界で、ケイキの意志を僕が継ぐことが、ケイキがいたことの証拠になるのではと思った。


 ケイキが忘れ去られ、何事もなかったかのように世界が回り続けていくのが許せない。


 大学に入り、気晴らしになるかと思い、誘われた飲み会にも行ってみた。女性とも話したが、とてもおつき合いなどする気にもなれなかった。いつしか周りに僕は女性に興味がない奴だと思われるようになった。女性に興味がないのではなくて、ケイキ以外に興味がないのだ。


 ああ、ケイキ会いたい、会いたいよ。ケイキがいなくなって七年が経っても、ケイキのことを想わない日は一日たりともない。こんなに悲しくて苦しい日々は、いつまで続くのだろうか。いっそ死んでしまった方が楽になるのだろうか。




ご愛読ありがとうございます。次回は最終回です。

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