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黒髪の美少女はじめての学校に行く

 それはもう、とんでもない騒ぎになった。


 突然転校してきたどえらい美少女というだけでも大事件だというのに、僕と二人きりで一つ屋根の下に住んでいることを知って、男子も女子も大騒ぎだ。


「桂騎ちゃんって乙浜君の遠い親戚って本当?」


「おまえのところ両親とも仕事で海外なんだろ! ふたりっきりで住んでるのか! うらやましすぎる!」


「桂騎ちゃんって帰国子女なの?」


 まわりの話を総合すると、ケイキはこの西海高校の姉妹校であるアメリカの聖マーセド高校に通っていたが、両親が交通事故で亡くなったのを機に、祖国である日本に遠い親戚を頼って帰ってきたということになっているらしい。


 そんな設定になっているならちゃんと僕に事前に説明してほしい。言っていることが違ったら怪しまれるだろう!


 ほとんど高校で注目されることなどなかった僕の平凡な生活は、この日から一変した。しかも僕の立場が『乙浜夢月』改め『華宮桂騎の同居人』になってしまった。


「ねえ、乙浜君と桂騎ちゃんってどういう関係なの?」


 こっちが知りたいよ! 学校では勝手に親同士が決めた許嫁だとか噂が流れていた。ただ、美少女で陽キャなケイキと、見てくれも学力も平凡な僕とがあまりにも釣り合わないことから、乙浜家は代々華宮家の使用人だという噂まで流れていた。確かに、僕もそっちの方がしっくりきてしまう。


 ケイキとは同じ高校一年生でもクラスは別になった。でもどこにいるかはすぐに分かった。彼女の行くところ男子女子にかかわらず黒山の人だかりだ。その奥からケイキがきゃはははと笑う声が時折聞こえてくる。あっけらかんとした性格からか、もう大人気だ。


 放課後、僕の所属する将棋部の部室で三年の桜井先輩と将棋を指していると、先輩はおもむろにこう言った。


「乙浜、桂騎君を将棋部に勧誘してくれ」


 我が伝統ある西海高校将棋部は、かつて全国制覇を成し遂げ、プロ棋士を輩出したこともある名門だが、創部以来女子部員が入ったことがなく、女子部員獲得は部挙げての悲願だった。


「いや、乙浜。言い方を変えよう。桂騎君を絶対に将棋部に入れろ」


 ビシッと王将の前の歩を進め、先輩は言った。桜井先輩の絶対的得意戦法「玉頭(ぎょくとう)位取(くらいど)り」だ。


「無理です」


「無理とか無理筋とかは関係ない。これは先輩命令だ」


「あの娘が将棋なんてやるわけないじゃないですか。ただでさえ誰も女子は入ってくれないのに」


「その黒歴史にいまここで終止符を打つのだ。それが将棋の神からお前に与えられし天命だと気づかないのか」


「将棋の神様って結構軽い感じですね……。そんなこと言って先輩結構モテるじゃないですか。先輩が誰か勧誘してきてくださいよ」


「俺は桂騎君と将棋を指したいのだ。桂騎君に玉頭位取りをしたいのだ」


 この日、僕の王将を守る美濃囲いは、桜井先輩にボコボコにされて負けた。



◇ ◇ ◇



「むっちゃんの作る料理って、本当に美味しいね~」


 ケイキは僕の作った夕食を本当に美味しそうに食べる。美少女が美味しそうにご飯を食べて微笑む様は天使のようだ。何でも許してしまいそうになる。貢ぐってこんな感じなのかな。だとしたら意外と良いかも。


 ケイキは放課後、さっそく出来た大勢の友達と一緒にカラオケに行ってきたようだ。僕の夕ご飯を食べに帰ってきたのだが、食べた後はまた友達と出かけるようだ。


「あたし学校って行ったことなかったけど、ものすごく楽しいね。こんなに同世代の子たちと遊ぶの初めて。あっ、むっちゃん先に寝てていいからね」


 この夜、かなり遅くなってケイキは帰ってきた。



◇ ◇ ◇



 僕を守護するためにやってきたとか言いながら、毎日遅くまで遊び歩いていたある朝、ケイキは僕の前に三つ指ついてこう言った。


「わ、我が主様、お金を貸してください」


 いつも強気なケイキが、しおらしい姿を見せるのが初めてでドキドキしてしまう。たまには主様って呼ばれるのも悪くない。


「お金って、借りてどうするの?」


「我が主様、わたしはこの世界で使えるお金を持っていないのです。最初はカラオケでもどこに行くにしてもみんながおごってくれたから良かったけど、さすがにずっとおごってもらうわけにもいかないかなあって」


 やっぱりこの娘、異世界から来たというのは作り話で、居候して大食いした挙句、僕からお金を巻き上げるつもりだったのでは。でも、押しかけ女房ってこんな感じなのかな。こんな綺麗な娘が来てくれるならお金なんていくらでも払っちゃうかも。


「我が主様、誤解です。主様からお金をせしめようなどとは思っていません。元の世界のお金を持ってはいるのですが、この前支払おうとしたらこの世界では使えなかったのです」


 そう言って、ケイキが見せてくれた一枚の硬貨は金貨だった。表面に何か言語のような模様があるが、さっぱり読めない。でも、ずっしりと重いその金貨は、本物っぽい感じがした。


「我が主よ、この世界では全く使えないお金ではありますが、これを差し上げる故、いくばくかのお金をお貸しいただけないでしょうか。あたしは他に金目のものなど持っておらぬ故……必要ならこの体でお支払いいたします」


 絶対体で支払うって意味を知らないで使っているだろ! 誰だこんな言葉教えた奴! でも、いつも強気で生意気なケイキが平身低頭懇願している様はちょっと小気味いい。ただ、この金貨が本物の金で出来ているなら相当の金額のはずだ。


「急に『我が主』なんて言わなくていいよ。お金って言っても僕もそんなに手持ちがないから少ししか貸せないよ」


「むっちゃん様は神様です!」


「そんな事より、これがもし本物の金貨だったら相当の金額になるかも。どのくらい持っているの?」


 僕がそう聞くと、ケイキはずいっと金貨の詰まった袋を差し出した。大きさの割にはもの凄く重い!


「この世界に来るとき、連れてきてくれたラフレシアという者から餞別に渡されました。でも、こっちの世界で使えないお金を用意するなんて、ラフレシアって昔からバカなんですよ」


 とりあえず今週末の土曜日に、僕らはその金貨を持って御徒町(おかちまち)に行くことにした。





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