断頭台
転移した先は大きな広場だった。周りは王宮の城壁に囲まれていて、もの凄い群衆と警備の兵がひしめき合っている。その中心には、大きな白い石で出来た舞台の上に、巨大な断頭台が置かれていた。
その脇には、同じ白い石で作られた首輪と、手枷足枷をつけられた黒髪の美少女が、粗末な麻の着物を着せられて立たされていた。周囲は甲冑を着た兵士達に取り囲まれている。
よく見ると舞台の下で、同じような首輪をされて粗末な着物を着せられた亜麻色の髪の少女が暴れている。刑を執行する斧を持った首切り役人に突っかかって、周りは騒然としていた。
抑えようとする兵士達を亜麻色の髪の少女は器用に頭突きをしていなし、首切り役人に噛付いていた。群衆はその少女に加担して応援し、大騒ぎだ。
やがてようやく少女は兵士達に取り押さえられ、首切り役人が舞台に這う這うの体で上がると、刑の執行が宣言され、ラッパが吹き鳴らされた。
黒髪の美少女のとなりの男が、罪状を読み上げる。群衆の歓声と怒号でよく聞こえない。その興奮した群衆の中を、僕はゆっくりと断頭台に向かって歩いてゆく。足元から王族の証である金色の魔力が立ち昇っているのを見て、海が割れるように群衆が道をあけ、警護の兵は敬礼をする。
断頭台の舞台は魔力を吸収する、聖王国で最大級の魔吸石で出来ていたが、かまうものか、僕はそのまま進む。階段を登って舞台に立つと、黒髪の美少女を取り囲んでいた兵士達が片膝をついて首を垂れる。僕は美少女に語りかける。
「大丈夫? 怪我はしていない?」
「ごめんねむっちゃん。ドジっちゃった」
「僕は言ったよ、君を守るって」
「うん。ありがと。きっと来てくれるって信じてた」
「ケイキ、僕と結婚してくれないか」
「……うん……嬉しい……ずっと一緒にいたい」
僕はケイキに口づけをした。大量の魔力が僕からケイキに流れ込む。ケイキの魔力を封じる首輪と手枷足枷が音を立ててはじけ飛ぶ。僕の魔力を吸収しすぎて破綻した舞台の魔吸石にひびが入り、断頭台がすごい音を立てて落ち、群衆が逃げまどう。
ケイキは手の中から聖剣アルテミスを出現させると、王宮に向かって一閃薙ぎ払った。王宮の尖塔がいくつかスッパリ切れ落ちるのと同時に、王宮の防御結界が打ち砕かれた。
防御結界が破壊されるという魔王軍との戦いでも起きなかった非常事態に、聖王国騎士団が騎馬に乗って続々と駆けつけてきた。ひび割れて傾いた舞台の上にはケイキと僕の二人だけ。距離をあけてまわりを聖王国騎士団が取り囲む。僕を守るように聖剣を構えるケイキに、騎士たちが小声で話しかけてくる。
「ケイキ、良かったな彼氏が迎えに来て」
「お前に男が出来たってホントだったんだな」
「おい、その彼氏王族って分かってつき合ってたのかよ」
本当に僕の美少女は人気だな。ルーミが羨ましがるわけだ。その騎士達の後ろから怒号が聞こえる。
「道をあけよ!」
その声に振り向いた騎士たちが急に跪く。騎士たちを割って、護衛に囲まれてやって来たのは久しぶりに見た兄上、現国王だった。昔宮廷で見かけたことがあるだけだったが、すぐに分かった。国王は護衛を置いて一人でひびだらけの舞台に上がって来た。ケイキが剣を下げて跪く。それに続いて僕も跪く。
「我が弟、ムルシュハウザーよ、よくぞ戻った」
「兄上、お久しぶりです。母上の葬儀以来でしょうか。突然の御無礼お許しください」
「いや、無礼はわたしの方だ。封印されたお前が、異世界に閉じ込められているのを知っていたのに何もしなかった。許してほしい。」
そう言うと国王は頭を下げた。周囲がどよめく。
「兄弟のうち、最も魔力量が多いものが王位を継ぐのがこの聖王国の慣わし。私はお前に王位を譲ろうと思う。正しく王たる資格を持つものでしか、正しく民は導けまい。」
周りの王国高官、騎士団や群衆から驚きの声が上がる。
跪きながら舞台の下を見ると、魔吸石で首輪と手枷足枷をつけられたラフレシアがのびて倒れていたので、魔力を飛ばして拘束を解いておく。よく時間稼ぎしてくれた。
僕はケイキと目を見合わせて笑った。
僕は立ち上がって兄上に言った。
「では兄上、私から兄上に三つのお願いがございます。その願いをかなえてはくださらないでしょうか」
「私で出来ることなら何でもかなえよう」
国王は即答してうなずいた。
僕はケイキの腕をとって立たせると、その願いを群衆にも聞こえるような大きな声で宣言した。
「ひとつ、わたしの王位継承権放棄を認めること」
「ふたつ、わたしとケイキ・ハーミアの結婚を認めること」
「みっつ、わたしとケイキ・ハーミアをもとの世界に戻し、二度と干渉しないこと」
兄上は驚いて目を見開いた。
「すいません、兄上。僕は王政より、ケイキと毎日楽しく暮らすことを選びました」
ケイキが僕に飛びついて口づけをする。
「その願い、聞き届けよう。二人に祝福を!」
国王がそう言ってさっと腕を上げると、大聖堂から鐘の音が鳴り始めた。聖騎士団、兵士達と群衆が歓声を上げる。鐘が鳴り響く中、僕らは抱き合って祝福を受ける。城壁の上から紙吹雪が舞う。騎士たちが僕らを抱えて胴上げを始めた。ケイキが声をあげて笑う。僕は初めての胴上げにおっかなびっくりだ。世界が幸福に包まれている。よかった、本当によかった。
◇ ◇ ◇
鳴り響く鐘の下、大歓声を上げる群衆の傍らで、手をついて呆然としている淡いアクアマリンブルーの髪と瞳をした騎士に、フードをかぶった男が近づいた。
「ルーミ。お前に期待した私が愚かだった」
「……ガイゼル様……」
「昨日アスペクト公が亡くなったのは知っているか?」
「父上が!?」
「これでお前には何の後ろ盾もいなくなった。お前は国家反逆罪だ。国家反逆罪は連座制だ。アスペクト家の一族郎党やお前の妹たちも嫁ぎ先も極刑だ。それもみんな無能なお前のせいだ」
群衆の歓喜の声と大聖堂の鐘の音が、彼女を奈落へと突き落として行った。




