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僕のところに突然やってきた守護騎士は黒髪の美少女だった  作者: 渓夏 酔月


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枢密院

 ここは聖バルト王国の中枢をつかさどる元老院の上部機関であり、国王の最高諮問機関である枢密院。その枢密院の議長棟の一室に、三名の男が集まっていた。


「ガイゼル議長殿、お聞きになりましたか。あの「輪廻(りんね)」と「転生(てんしょう)」がハーミア公に討たれたとのこと。あと500年は復活できないでしょう」


「これで実質魔王軍の残党は全滅。聖王国の繁栄を脅かすものは無くなりました。聖王国騎士団筆頭だったハーミア公は、いまだに国民や騎士から根強い人気があります。この功績により、筆頭に復帰させてもよいのではないでしょうか。処罰の原因となった元老院議長ワイントゥース殿への暴言も、ワイントゥース殿自身は全く気にしておられない御様子。むしろ若い娘にもっと罵ってもらいたかったと言われておりました」


 室内は明かりを抑えた照明で、調度品の豪華さと落ち着きは代々枢密院議長の担ってきた重責と権力を象徴するようだった。


「ムスベル卿、サーンス卿、お二人は少し勘違いをされているようです」


 ガイゼル議長はにこやかに二人に語り掛けた。


「残っていた聖王国最大の懸念事項、「輪廻」と「転生」が取り除かれたことは重畳(ちょうじょう)。確かにハーミアは良い仕事をした。聖騎士の誉と言って良いでしょう」


「では、復帰を……」


「ですがムスベル卿。我々この国を舵取りする者にとって大切なのは、状況を客観的に評価し、王国を正しく導くことです」


「……と、言われますと?」


「最後の脅威が無くなった、ということは今までの魔王軍との血で血を洗うような戦乱の時代、つまり戦時国家の体制から平和国家への変換期が到来したということです」


「確かに、現在王国軍は増強に次ぐ増強で国防費は膨れ上がり、国家財政の負担となっています」


 おもに財政政策を担当するサーンス卿が、王国の厳しい財政事情への不安を口にした。


「そのとおりですサーンス卿。戦いは終わったのです。我々は国民の暮らしにこそ、国民の幸せにこそ注力すべき時が来たのです。今までは魔王軍から国民を守ることこそが国民の幸せを守ることでした。しかしこれからは、国民の活力向上や福祉にこそ国家が力を注ぐべき時代が到来したのです」


「なるほど、敵がいなくなった今、戦力を無駄に保持する必要はない、ということですな」


「さすがはサーンス卿、お察しがいい。平和な時代に過剰な武力は害はあっても益はない。聞けばハーミアは素手で悪魔大将軍の二人を討ち取ったというではないですか。これは平和国家において過剰すぎる力です。悪魔大将軍に備えて万が一の切り札としてハーミアを生かしておきましたが、もうその理由はなくなりました」


 ムスベル卿が控えめに聞く。


「では、ガイゼル議長殿、ハーミア公の守護するムルシュハウザー皇子はどうされる。本来なら兄弟のうち、最も魔力量を多く持つものが王位に就くのがこのバルトの習わし。亡くなられた前国王陛下もずっとお気にされていました」


 ガイゼル議長はやさしくムスベル卿の肩をたたきながらにこやかに言った。


「ムスベル卿、私は言いましたよ、平和な時代の訪れを。確かに今までの魔王軍との戦いは国家存亡の危機でした。魔王軍は王都目前まで迫っていたのですからな。デルミッドリバーの戦いでハーミアが魔王を討ち取るまでは、国民の多くが王都から逃げ出す有様でした。だから平和国家と言ってもすぐには思考が切り替わりにくいというのはもっともなことです。これからの平和な時代、今まで必要だった圧倒的に強い力を持つ英雄も、魔力量の多さを誇る国王も必要ないということです」


「議長殿……」


「国王はその血筋の正しさで選ばれる時代が到来したのです。それが分かりやすく国民に道を示すというものです。ムルシュハウザー皇子はそもそも妾の子ですらなく、どこの馬の骨ともわからない使用人との間に出来た、皇子と呼ぶのもおこがましい存在です。前国王陛下がお気にされていたので異世界追放ということでお茶を濁しておりましたが、その必要ももうなくなりました」


「いや、皇子を……それはさすがに」


「ムスベル卿、我々この国の重責を担う枢密院議員には、国民のために決断すべき時に決断する責務があります。これは誰にも出来ることではなく、我々だから決断せねばならないのです。平和国家を害する要因は排除すべきです」


 しばらくの沈黙の後、サーンス卿がおもむろに言った。


「この国を俯瞰してのご意見、さすがは長年この国を導いてこられたガイゼル議長殿です。我らはまだ記憶に新しい英雄に憧れ、敵対する魔王に相対するための伝統である王位継承のあり方を、漫然と是として考えておりました。確かに敵のいない平和な世界では、大きすぎる武力は災いを呼び、貴族の後ろ盾のある国王が王位に就かれるほうが政治的な安定にもいい。あなたのような方を国士と呼ぶのでしょう」


「まったくです。このムスベルには思いもよらぬお考えです。議長殿のお考え、敬服するほかありません」


「いやいや、あなた方のような国を想う同志の方々がいてこその私です。いつもお二人のことは尊敬差し上げているのです。」



◇ ◇ ◇



 サーンス卿とムスベル卿の退出した後、深夜に枢密院議長室を訪れたのは、淡いアクアマリンブルーの髪と瞳をした美少女だった。腰まである髪が美しく揺れる。


「ガイゼル議長閣下、王国騎士団ルーミ・アスペクト、ただいま参上しました」


「やあ、久しぶり。お父様は息災かな」


「はい、父は相変わらず病床にふけっております。最近は食事もあまりお召し上がらず、母も心配しております」


「そうか、アスペクト公にはまだまだこの国の行く末を導いてもらわねばならぬ。早く回復されてほしいものだ」


「ありがとうございます。ところで、このような夜更けにお呼びとは何事でしょう」


 ガイゼル議長はルーミにソファに腰掛けるように促すと、にこやかに言った。


「ルーミ殿、聖王国騎士団筆頭になりたくはないか?」


 ルーミの手が膝の上で握られる。それは、ルーミが焦がれてやまないものだ。


「コソ泥が追放されて以来、筆頭は空席のままだ。とは言え、勝利したもののデルミッドリバーの戦いでの貴公の敗走は、国民の誰もが知るところだ。そこにきて今回の悪魔大将軍二人の討伐。もう戦はなくなり貴公に功を挙げて挽回する機会はない」


 ルーミの眉間に深い皺が刻まれるようになったのは、いつの頃からだろう。ガイゼル議長はルーミの隣に座りなおした。


「私は君に期待しているのだ。三大公爵家であるアスペクト家の長女にしてお父上の跡を継ぐ人材。その逸材をこのままにしておくのは惜しい。由緒正しい貴公がコソ泥の名声の陰に埋もれるなどあってはならない。お父上もそうお望みだろう。私は貴公に最後の挽回の機会を提供したいのだ」


 沈黙の後、ルーミが静かに口を開いた。


「挽回の機会とは何でしょうか」


 ガイゼル議長は満足そうにうなずいた。


「これからの聖王国の平和の礎を築く仕事を頼みたい」


 ルーミがガイゼル議長の目を見る。


「具体的にお伺いしたい」


 議長がルーミの目をじっと見据え、にこやかに言った。


「ハーミヤとムルシュハウザー皇子を殺せ。二人ともこれからの平和な時代に必要ない。成功すれば貴公に聖王国騎士団筆頭と、王妃の地位を約束しよう。我が孫もそれを望んでいる」




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