悪魔大将軍現る
「アナタハ神ヲ、シンジマスカ~?」
それは平和な日曜日の午後、紅葉した街路樹が美しい通りを歩いていると、二人の外人から話しかけられた。
前方から歩いてやってくる、この季節にそぐわない黒のタンクトップを着た筋肉ムキムキの大男二人組。首にはロザリオをかけ、手には聖書のようなものを持っている。まさか僕に声を掛けてこないよな、と思っていると、はたしてドンピシャに声を掛けられた。僕はよくこういうのに遭遇してしまうのだ。
「え~と、神様ですか……初詣には行ったりします」
よく見るとこの外人は白人で、一人は金髪に青い目、もう一人は茶色い髪に茶色の目をしており、ふたりともタンクトップからは金色の胸毛がもじゃもじゃとはみ出していた。
「オウ、ノー! ナゲカワシイ! ナゲカワシイコトデス!」
「デス!」
何か、二人は息ぴったりだ。
「アナタハ神ヲ信仰スベキデス! 神ヲ信仰セズシテ真ノ愛ハ得ラレマセン!」
「我々ハ真ノ愛ヲ伝導シテイル偏愛協会ノモノデ~ス!」
「変態!?」
「チガイマ~ス! ヘンアイ協会デ~ス!」
通りを歩く人達はあえてこちらを見ないようにして通り過ぎていく。
「アナタニ真ノ愛ヲ教エテアゲマ~ス!」
「目覚メル時ガ来タノデ~ス! 愛ノ接吻ヲ受ケルノデ~ス!」
そう言うと二人は、目をつぶって分厚い唇を突き出して徐々に顔を近づけてきた。僕の肩を抑える手の力が異常に強く、逃げるどころか全く身動きも出来ない。怪しくぬめった唇がふたつ、もう目の前に迫ってきた。耐えきれずに僕はつぶやいた。
「……助けて……ケイキ……」
突然青白い光がしたかと思うと、バシーンという音がして大男二人が尻もちをつく。
「わたしのむっちゃんに何をする!」
ケイキが現れ、僕の前に仁王立ちする。来てくれたんだ!
「イタタタ……モウチョットデ魔力ヲ吸イトレタノニ!」
「むっちゃんの唇はわたしのものだ。誰にも渡さん!」
「突然ヤッテキテ何ヲスルンデスカ! 図々シイニモホドガアリマス、アバズレ!」
「誰がアバズレだと!お前たち何者……」
「「「あっー!!!」」」
え~と、三人はお知り合いのようでした。
◇ ◇ ◇
ケイキによると、この変態二人、いや外人二人? は魔王軍最高幹部である悪魔大将軍の「輪廻」と「転生」らしい。以前ケイキが魔王を討ち取った戦いの際に、討ちもらした最後の大物ということだった。最近、この二人が様々な異世界の魔力持ちから魔力を回収し、聖王国への反撃の準備をしているようだ。いろいろな世界で魔力持ちからチューで魔力を吸い取っているなんて、吸い取られた人に同情を禁じ得ない。これじゃ守護が必要なわけだ。
「ハーミア! 何でお前がこんなところにいるのだ!」
へぇ~、ケイキって向こうでハーミアって呼ばれているんだ。
「はあ? それはこっちのセリフよ。敗残兵のくせに。わたしにボッコボコに負けたの覚えてないの?」
「あんたなんかに負けていません~! わたしは右翼担当だったから、相手はアスペクトですぅ~! わたしの伏兵にやられて敗走するあの娘の泣き顔ったらなかったわ。絶対失禁してたわね」
輪廻とかいう金髪マッチョが腹を抱えて笑う。悪魔っていうのはみんなお姐なのか?
茶髪マッチョの転生も負けじと言う。
「わたしの担当した左翼だって、え~と、メ……メラトニンさんだっけ?」
「ちが~う! ラフレシアだ! メラトニンって何だ! サプリか! 命のやり取りをした相手の名前を忘れるな!」
「失礼失礼! そうそうラフレシア! わたしの猛攻で後ずさりしながら引き攣ったあの顔、あれを思い出すだけでご飯三杯いけるわ。ハーミア、あなたは中央本隊の魔力も大して持っていないヘルグレスに勝っただけ。これで2勝1敗でわたし達の勝ちよ」
「ふざけんな! 何だその理屈! 結局お前たちも敗走しただろう!」
「話をすり替えないで頂戴。2勝1敗でわたし達の勝ち~! おとなしく負けを認めなさい、このブス女!」
「な、な……誰がブス女だと!!!」
ケイキのような美少女に向かってブス女って言えちゃうなんて尊敬しちゃうな~。なんか、ケイキが言い負けているのって初めて見たかも。新鮮だ。
「あ~、もう鬱陶しい! ここでもう一度成敗してくれるわ!」
ケイキはそう言って指をポキポキ鳴らした。相当お怒りのご様子。
「あら、顔だけでなく頭の中までブスのようね。理屈で勝てないから暴力に訴える。わたし達より悪魔的だわ。」
「絶対殺す! ぶっ殺す!」
「まあいいわ。望むところよ。そもそも魔王様がヘルグレスみたいな魔力に乏しい奴を参謀だ何だって取り立てるようになってからおかしくなっちゃったのよ。やっぱり魔族は魔力勝負よ。こざかしい戦術なんて必要ない。いまここであの時の決着をつけるわよ!」
「魔力こそ正義! 異世界ドサまわりでかき集めた我々の魔力、思い知るがいい!」
そう言うと、輪廻と転生はケイキから距離をとって、周りにドームのような結界を張り始めた。
「わたし達の決着だもの、放っておけば周囲一帯は火の海になるわ。そうすれば何の関係もない人達を巻き込むことになる。さすがのわたし達もそんな悪魔のようなことしないわ。」
悪魔の皆さんって、意外と常識的な人達なのでは……。
「うるさい、ぶっ殺してやる! わたしをブスって言ったこと、地獄で後悔するがいい!」
ケイキはそう言って、右手を握るようなしぐさをすると、そこに白銀に輝く大きな剣が現れた。
「あ~、ちょっとずるくない? わたし達丸腰よ。聖剣アルテミスなんて持ち出して反則よ!」
「そーよそーよブス女! それがないと怖くて戦えないんでしょ! 性格までブスなのかしら」
ケイキは顔を真っ赤にして頭から湯気が出そうなほど怒りに沸騰している。ついこの前、魔族にも大切な人がいるなんて言っていたのはどうなったのだろうか。
「いいだろう。お前らごときに聖剣など要らん! 素手で十分だ」
「ホホホホホッ。わたし達二人に素手で勝負を挑むとは、身の程知らずなドブス……」
「どりゃああああ!」
ケイキがパンチすると二人のお姐さんは吹っ飛んで行き、遠くでお星さまになってしまった。




