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黒髪の美少女が僕の家に居候する

 まだ夏の暑さを残した九月最後の日曜日の昼下がり、呼び鈴が鳴ったので玄関を開けると、黒髪のどえらい美少女が立っていた。


華宮(はなみや)桂騎(けいき)と申します。本日よりあなた様を守護するために参りました。ふつつか者ですがよろしくお願いします!」


 美少女は僕の目をまっすぐに見てそう言うと、ぺこりと頭を下げた。ショートカットの黒髪が揺れる。白いブラウスがまぶしい。


「つきましては、わたしはもう帰るところがありません。誠に恐縮ですがこのお屋敷に住まわせていただけないでしょうか」


「は!?」


 状況についていけない僕を尻目に、美少女は靴を脱いで玄関を上がって僕を追い越し、廊下をずんずん進んでいく。


「ちょ、ちょっと待って!」


 振り返らずに進む美少女を、僕はあわてて追っていく。


 これが華宮桂騎と僕との、短くも強烈な日々の始まりだった。



◇ ◇ ◇



「わが(あるじ)は、おひとりでこのお屋敷に住まわれているのですね」


 黒髪の美少女は居間でちゃぶ台の前に座り、僕の出したお茶をすすりながら言った。


「(お屋敷というほどでもないただの一軒家だけど)そうだよ。両親は今仕事で海外にいて、この家には僕一人で暮らしている」


「なるほど、それでは何かとご不便でしょう。料理洗濯家事全般はわたくし全く出来ませんが、それ以外のことはおまかせください! 特に身の危険が迫ったときは、『桂騎』と名を呼んでいただくか、ただ『来い!』と言っていただければすぐに馳せ参じます」


「えーと、今までそんな身の危険が迫ったことはないのだけど……」


「そうでしょう。我が主は大して魔力もない故襲われることなどないでしょう。あっはっは」


 今ひょっとしてディスられた?


「えっと、その我が主って呼び方やめてくれないかな。そうだ、僕の名前は乙浜(おとはま)夢月(むつき)夢月(むつき)。名前で呼んでよ」


「我が主がそこまで言われるなら了解しました。夢月殿、じゃあ『むっちゃん』でいいね。私のことは『ケイキ』って呼んでいいよ」


 なんか露骨に口調が変わった……。この娘、ちょっとヤバい奴じゃないのかな……。


「ねえ、むっちゃん……。今わたしのこと詐欺かなんかだと思ったでしょう!」


「え、いや、そんなことないよ! というか……」


「わたしだってこんなとこ、来たくなかったんだ~!!!」


そう言って黒髪の美少女改めケイキは絶叫した。



◇ ◇ ◇



 しばらく荒れていたケイキは、僕の作った夕ご飯を食べると途端に落ち着いた。


「むっちゃんのつくる料理は最高ですね。天才ですか!」


 口いっぱいにロールキャベツを頬張ると、すごく幸せそうに笑った。かわいい。美少女が僕の作った料理を美味しそうに食べてくれる。これって最高に幸せかも。


 ケイキが夕食を食べながら教えてくれたのは、彼女が異世界の聖王国から来た騎士であるということだった。こんなことは本当にあるのだろうか。


「わたしが魔王軍のやつらをコテンパンにやっつけたんで、あいつらおとなしくなったんですよ。だけど最近いろんな異世界で、魔力を持った奴から魔力をかき集めだしたんです。昔からそういうのあったんですけど、最近なりふり構わずたいして魔力のない奴からも回収しているらしくて。それで今までほったらかしだったむっちゃんみたいな人にまで、護衛が派遣されるようになったという訳です」


 悪かったな『ほったらかしだったむっちゃんみたいな人』で!


「まあ、むっちゃん程度の魔力じゃ襲うほどの価値ないし、わたしがいれば魔王軍の奴らビビッて出てこないから安心してください……ロールキャベツお代わり!」


 ロールキャベツは明日の朝食とお弁当用にも十分足りるだけ作ったが、もうこれでおしまいだ。


 つい美少女というだけで信用してしまった自分の甘さに腹が立つが、この大食いな口の悪い女を家に住まわせて本当に良かったのだろうか。仕事と言えば、僕のボディーガードということだが、この華奢な少女がそんなに強いとも思えない。そもそも僕が襲われることなんてない、ってことはただ家に居候して大飯喰らいなだけ?


 ふと見ると、ケイキがじっと僕の目を見ている。


「いや、べつに大食いだなんて思ってないよ!」


「ふ~ん、むっちゃんは魔力が低いんじゃなくて封じられている……のかな? ちょっと見せて」


 そう言うと、ケイキはいきなり僕を押し倒して覆いかぶさるように顔を近づけてきた。近い! ケイキの美しいブラウンの瞳が僕の瞳を覗き込む。く、唇が近い! しかも華奢な体の割に大きな胸が僕の胸に乗っかっている。どうしよう!


「はあ~、やっぱり封印されてるね。五つ、いや七つか?」


 ケイキがしゃべるたびに唇が僕の唇に触れそうだ。吐息がかかる。すごくドキドキする!これ童貞にはやっちゃいけないやつだ!


「七つだ。七つの封印がされている。これは厄介だね。しかも記憶も封じられてるっぽいな」


「ふ、封印って何?」


 ケイキはやっと体を起こした。ちょっと残念なような気がしたが、僕も体を起こす。


「いや~さすがにこんなしょぼい魔力の奴の所に、守護なんておかしいなと思ったよ」


 しょぼい奴で悪かったな! さっきまで我が主とか言ってたくせに!


 ケイキが説明してくれたのは、僕の目の奥に常人ではわからないほどの薄い魔方陣が展開しているのが見え、それは僕の魔力を封じる七つの封印であり、過去の記憶も同時に封じられているというものだ。


「封印って解くことはできないの?」


「この封印一つぐらいなら、わたしの実力をもってすれば簡単に破ることはできるけど、これ同時に七つ破らないと解けないやつだ。つまりわたし級が七名いないと無理ってこと。わたしほど強い奴なんてめったにいないから、誰にも解けないね」


「記憶っていうのは? 記憶がないなんて感じたことないけど」


「う~ん……私もあまり記憶関係は詳しくないけど、たとえばむっちゃんよく見る夢とかある?」


「夢? 夢かぁ……夢と言えば、ときどき銀髪の女の子が寝ている夢を見るよ。いつも顔は良く見えないけど」


「たぶんそれ、むっちゃんの運命の人だよ。いいなあ、むっちゃんは運命の人がいて! ラブラブだね~!」


 ケイキはそう言ってけらけら笑った。いきなり夢の中の女の子が運命の人だと言われても、誰かもわからないし全然嬉しくない。


「まあ、むっちゃんを守護する理由が分かって良かったよ。あ~食った食った! じゃあお風呂入って寝るね。あっ覗いたら殺すから。」


「覗かないよ!!!」


「あと、明日からむっちゃんと同じ高校に通うからよろしくね!」


 ……僕は思わず絶句した。この娘と同じ高校? 僕の平和な高校生活は、いったいどうなってしまうのだろう。






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