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南洲一族の縄墨  作者: 西季幽司
「血族」の章
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南洲一族②

「武蔵野署では、その謎の男が怪しいと睨んでいます」と伝えると、「まあ、普通に考えて、そいつが犯人だろう」という感想だった。

 夜中に被害者を訪ねて来て、慌てて出て行った。何らかのトラブルがあり、守弘を殺害して逃げたと考えるのが妥当だ。

「やっぱり、やつが犯人なのですね」

 宮川が捜査から外され、こうしてサポートに回されていることを嘆いているのだと受け取ったようで、「いいか。俺たちの仕事は冤罪を生まないことだ。冤罪を生まないように、ひとつひとつ可能性を潰して行く。そいつが犯人だとして、それ以外の可能性を潰しておくことも重要な仕事だ」と説教されてしまった。

 殊勝に「はい」と頷くしかなかった。

「その男の写真、あるか?」と聞くので、「あります。防犯カメラの映像を鮮明化したものを携帯に入れておきました。アドレス教えてもらえませんか?」と祓川に送ろうとしたら、「路肩に車を停めろ。運転しながら携帯電話を操作するな!」とまた怒られてしまった。

 厳しい。車を路肩に停車し、祓川の携帯に男の画像を送った。

 謎の男の話は終わったが、祓川は南洲守弘の共同経営者だった斎藤淳史に興味を持った様子だった。「なるほど~なるほど~ガイシャに恨みを持つ斎藤淳史という容疑者が浮かんできた訳だ」

「斎藤が南洲社長を殺したのでしょうか?」と問うと、「何故、今なのだ――⁉」と聞き返された。

「は?」宮川には答えられない。

「斎藤が姿を消したのは二年前だ。ガイシャに恨みを持っていたことは分かったが、何故、今、犯行に及んだのだ?」

「すいません。分かりません」

「それを調べることだ。まあ、もう誰かやっているよな? 武蔵野署の連中だって、寝ている訳ではないだろうしな。会社の経営状態はどうだったのだ?」

「はあ、競争の激しい業界だそうで、経営状態は良かったとは言えないようです」

「金に困っていたということか?」

「はあ・・・」

「はあ――じゃない! 武蔵野署の連中に調べさせろ! 犯行の動機かもしれん」

 優秀な刑事のようだが、かなり性格がきつそうだ。


 いつの間にか青梅街道を外れ、車は多摩川の支流らしき川沿いを走っていた。やがて、川が見えなくなると、「右に行け」、「そこを左だ」と祓川から指示があり、南洲家に着いた。

 南洲家は石川村の中央からやや山際に寄った場所にあった。丁度、村全体を見渡すことができる絶好の立地だ。他の民家から離れていて、周囲を畑で囲まれている。独立不羈の佇まいだ。

 農道から別れた支道は、南洲家の門前で行き止まりになっていた。

 日本式の平屋がまるで鳳が羽を広げて居座っているように広がっていた。

 土塀で囲われているが門がある。開け放たれた門を潜ると、砂利を敷き詰めた広々とした駐車スペースがあった。地元の名家のようだ。

 ワゴン車にスポーツ・カー、それにファミリーカーが駐車してあった。

 快晴に恵まれ、駐車場には刺すような日差しが降り注いでいたが、南洲家の屋敷は陽炎の中に沈殿するかのように静まり返っていた。屋敷から霊気が湧いて出ているかのような不気味さを漂わせていた。

 まるで陽が差し込んで来ていないかのような薄暗さを感じた。屋根の軒先が玄関先に暗い影を作っているからなのだが、屋敷が持つ雰囲気と相まって、鳥肌が立ちそうな不気味さだ。

 玄関先で、呼び鈴を鳴らす。

「はい」と返事がして、若い男が玄関の引き戸を開けてくれた。

 若いというだけでも、鄙びた田舎の旧家に似合わない。スラリとした長身で、足が長い。陽に焼けた健康そうな顔、獲物を狙う猛獣のように力のある眼だ。ハンサムなスポーツ選手と言った印象の男だ。

「ああ、刑事さん」と若い男が言ったところを見ると、祓川と面識があるようだ。「毎日、熱心ですね~おや、今日はお連れさんと一緒なんですね。今日は何でしょうか? 事件当夜のアリバイはお話しましたよね? あの夜は親戚一同、こちらにいました。いや~それにしても、守弘さんが死んだなんて、信じられません。ついこの間まで、ぴんぴんしていたのに」

 祓川は既に関係者からアリバイ聴取を済ませてあるようだ。しかし、よくしゃべる。

 祓川が聴取したのだろう、関係者からの証言として、犯行当日の被害者、南洲守弘の行動が分かっている。宮川も事件当日の守弘の行動をざっと把握している。

 午前十時から、南洲家で菩提寺である石川寺の住職を呼び、則天の四十九日の法要が営まれた。法要が終わると、親戚一同と法要に参列した近隣の住人たちと共に、長い昼食となり、夕方近くになって法要はお開きとなった。

 後は親戚だけが残り、故人を忍んで歓談を続けた。

 昼食の続きだか夕食だか分からないような食事を済ませた辺りで、突如、守弘が「ちょっと仕事を思い出したので、会社に戻ります」と言い出した。午後七時過ぎに守弘は南洲家を出た。喪主がいなくなったことから、集まりは解散となるはずだった。

「あの日は、親戚の集まりですから。余所者の守弘さんは居づらかったのでしょう。それで、仕事を思い出したなんて言って、会社に戻ったのだと思います」聞かれもしないのに、男は当日のアリバイを話し出した。

 守弘は喪主だ。法事を肴に、飲み明かそうとしていた親戚一同は、仕事で抜けると言われて呆気にとられたが、「お忙しい中、折角、皆さん、こうして集まったのですから、どうぞこのまま歓談を続けて下さい。家にあるお酒は、何でも飲み干してもらって構いません」と言うものだから、一同、腰を落ち着けて飲んだと言う。

「居間に高そうなウイスキーが置いてあったので、それを頂きました」と男は悪びれもせずに言った。

 その後、会社に戻った守弘は社長室で殺害されている。

 それが土曜日のことだ。

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