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入団試験

「あなた、ちょっと恨まれすぎです」


 ……時は戻って現在。


 二人掛けのソファに寝転んで、ようやっと服を着た少女は言う。

 自分の家、自分の部屋でなぜ僕が床に正座しなければならないのかと自問したが、例の写真の前には無力。

 とにかく、今はこの子の目的を聞き出さなければ……。


「……なんの話かな」


 こういう時に弱気になってはダメだ。僕は毅然(きぜん)とした態度で肩をすくめる。

 しかし少女は表情を一切変えず、


「レイド中のパーティを空からグリフィンで襲撃。森で素材収集していた生産職をレッドワイバーンの炎で焼き払い、ダンジョンの出口に超級エリアボスを誘導しプレイヤー役百二十人を丸三日行動不能に(おちい)らせる。

 ……まだまだあるですよ」


 ……。


「違うんだ。何も無暗に襲っている訳じゃない……あれはあいつらが」

「しってるです。あなたは極度の人間嫌いでモンスターしかしんじてない。だから『魔王』とよばれるわけです」


 魔王、魔王か。僕は別に彼らの上に立ちたいのではなく対等な友人でありたいのだが。

 

「あなたの想いはともかく……先日あなたが轢いたプレイヤーの中にやっかいなのが混じっていたのですよ。大型ギルドの新人で、ギルドマスターがぶちぶちです」

「……はぁ、なるほど」


 こういう事をしていると似たような事故はある。しかしそれがよりにもよって、このギルドに頼って来るとは。

 PK禁止のEOにおいて、プレイヤーを殺すことを専門に扱うおかしなギルド――『豊穣の羽根(マザー・ウィング)』。


 MPKはもちろん様々な方法でプレイヤーを妨害することを行うことで知られており、噂ではターゲットの所属するギルドにスパイを送り込んで内部分裂を図ることもあるそう。

 まあ、今回は身をもって社会的に殺しに来られたわけだ。

 全くなにが豊穣(・・)なんだか……。しかしおかげでピンチな訳で。


「ふむり。そんなこわいかおをしないでください」

「そうは言ってもな……」

「このまま画像をSNSに投稿すれば、簡単にあなたの人生はおわるです。けど、うちのマスターは魔王を高くかってるです」

「……というと?」

「うちではあるレイドボスを飼っている(・・・・・)のですがとても扱いがむずかしいのですよ」


 飼っている、ね。

 レイドボスなんてもちろんペットにすることは出来ない。

 稀に力のあるギルドがモンスターを誘導し、自身の持つ土地にスタック(・・・・)させて独占的に狩りをすることはあるが……まあ、効率が悪くデメリットの方が大きい。

 しかしそれを豊穣の羽根が行うとなると話は別だ。


「あなたにはふたつの選択肢があるですよ」


 少女はずい、と身を乗り出し二つに立てた指を僕の顔面に押し付ける。


「ひとつ、いまここで変態になりあがるか」

「……変態って成り上がるものなの?」


「ふたつ――――わたしたちの仲間になり、あなたの処刑を依頼した人物をギルドごとつぶすか(・・・・・・・・・)、です」


「ははあ、なるほど……」


 理由は分からないが、彼女たちにとっても件の大型ギルドとやらは片付けたい存在らしい。


 どうやら実質選べる選択肢は一つしかないようだ。

 僕がおとなしく頷くと少女はやっと表情を和らげる。


「ふむう。交渉成立、ですね」


 そう言ってとてもとても……悪い笑みを浮かべて。


「わたしは『月乃』と言うです。よろしくお願いしますね、まおうさん」

「ああ。よろしく、月乃。……よし、仲間になったんだしそろそろ写真を消してもらっても」

「ふむり。それでは早速、試験といくですか」

「え?」


 僕の言葉を(さえぎ)るようにして月乃は言う。

 予想だにしていなかった単語に理解が追い付けないでいると、月乃はソファにふんぞり返る形で座って足を組んだ。

 

「試験って……そんなもの必要なの?」

「あたりまえです。うちは実力と信頼で成り立っているギルドですから。うわさだけではなく、この目で実際にあなたの実力を測らせてもらうですよ」


 そう言ってひらひらとスマホを振った。そこに写るは例の画像。

 ……どうやら一筋縄ではいかないようだ。


「だいじょうぶ、試験は簡単ですよ。さきほど述べたあなたを殺そうとしたギルド――『桃姫騎士団(ピーチ・ナイツ)』を潰してもらうだけです」

「……ギルドを、丸ごと?」

「彼らが餌にしてるのは新規プレイヤーです。何も知らない初心者に装備を貸しギルドに入れ、ある程度レベルが上がってきたところで『世話料』を巻きあげる……」

「初心者狩りか……」

「ある筋から依頼が上がっているです。彼らをどうにかしてほしいと」


 なるほど、大義名分はあるわけだ。

 しかし人間同士の些細な争いごとなどどうにもやる気が出ない……。

 それに……今まで轢き殺して来たプレイヤーの数は覚えていないが、一回で一ギルドを丸ごと仕留めるというのは至難の(わざ)だろう。

 


「……そういえば、ここは噂によればクスノキ平原に(きょ)を構えるつもりだそうですよ。それにあたって|周囲のモンスターを一掃する計画も立てているとか」


 前言撤回。

 あそこには大切な仲間がいるし、それを月乃という少女が把握したうえでこの話を持ち掛けているとしたら……やっぱり、受けざるを得ないのだ。


「……わかったよ」

「ふむり。よかったです、マスターからの指示とはいえわたし一人じゃ無理でしたし……」

「ん?」

「あっ、いえ。なんでもないのですよ」


 わたわたと慌てる月乃を(いぶか)しながらも、とりあえず当面の目標は定まった。

 ……そんなところで、ずっと気になっていたことを聞いてしまおう。


「きみさ、いつまでここにいる気なの? まさか……」

「む。もちろんあなたがギルドに足る人物だと信用できるまで――ですよ。さあ、まずはごはんにするです」


 そう言うと月乃は立ち上がり冷蔵庫へと向かう。

 とても奇妙な状況だが……今はとにかく、食費が心配で胃が痛くなるのだった。


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