特命遊撃士チサト外伝~国際窃盗団シュラインの謎~
それは、もしかしたらの物語。
たった一人の男性が怨霊武者軍団を使ったテロを引き起こしたという、あまりにも規格外な事件の裏側であったかもしれない……そんな妄想のもとに紡がれた物語(意味深
そしてウバクロネさん。
イラストをありがとうございました<(_ _)>
暗い洞窟の中。
一人の男が駆けている。
息が荒い。
全力で走っているのか。
それとも重いモノを持ちながら走っているのか。
何にせよ……逃げられはしない。
私と相棒からは。
なぜなら男は、痕跡を残し過ぎている。
この場所は洞窟で、下手をすれば迷ってしまうだろうが……私と相棒はそんな男の痕跡を頼りに、確実に追い詰める事ができる。
「ひっ!?」
すぐ近くまで来ると、さすがに男も気配に気付いた。
私と相棒の気配に。
暗い中で追い詰められるのはさぞかし怖いだろう。
だがだからと言って調子に乗らない。
そんな事をすれば足を掬われる可能性があるから。
だから、私は相棒に対し平静な声で指示を出す。
「攻撃」
直後、相棒が男に攻撃した。
「ぎゃあっ!?」と悲鳴が聞こえた。
そして私は、男を無力化するため。
相棒によって出来た隙を突き男に飛び蹴りを食らわせた。
※
「まさか、我々が来る事を予期していたのでしょうか?」
私の隣にいる防人の乙女――エジプトのアレクサンドリア県第三支局に所属する特命遊撃士の一人ことゼフラ・イルハム少佐が、目を丸くしながらそう呟く。
だがその声は、よく聴こえない。
少々強めの砂嵐が近くで起こり、そしてその音が、現在私らがいる洞窟内で反響しているからだ。
「相手は、逃げに特化した厄介過ぎる犯罪組織だから、こっそりと包囲網を狭めていたハズなんだけど……まさかここまで秘密裏に事を進めて捕縛作戦を実行しても逃げられるとは。私らの側のどこから情報漏れがあったかは分からないけれど……まぁ、今回については結果オーライだな」
驚きを隠せないイルハム少佐とは違い、私は冷静に現状を受け入れる。
その視線の先にあるのは、イルハム少佐、そして彼女の相棒ことルル中佐の連係攻撃により先ほど確保する事ができた、私らが追っている犯罪組織『シュライン』の構成員の一人。
五年くらい前から世界規模で活動を始めた組織にして、私らを始めとする防人の乙女――常人以上の身体能力を持つ者でなければ、捕まえられない可能性があると判断された国際窃盗団を壊滅するための、手掛かりとなりうる存在だ。
※
国際窃盗団『シュライン』。
先ほど話した通り五年くらい前から活動を始めた謎の犯罪組織だ。
ちなみにシュラインは便宜上の名前。
彼らが、世界各地の聖遺物を始めとする特殊なアイテムを主に盗むため『きっと彼らの本拠地は、神社の如き場所になってるに違いない』と世界各地の警察組織に思われたのが由来だ。
そんな彼らは、とにかく逃げ足が速い。
最初は、聖遺物、もしくはそれに準ずるアイテムがある国の警察組織が、彼らを追っていたのだが……そんな警察組織の努力を嘲笑うかのように逃げられるという失態が続き……私ら防人の乙女に応援の要請が来たというワケだ。
だがしかし。
そんな私らでさえもこの窃盗団には手を焼いている。
以前、私は同僚らと共に、祖国イタリアの人類遺産保護部隊と連携して聖遺物の警備に当たったのだが、相手はそんな我々の警備の穴を潜り抜けんと行動し、それが不可能と知るや否やさっさと退散するという……予想以上に潔くて拍子抜けするような事をしてのけた。
おそらく、その潔さも。
彼らがなかなか捕まらない理由だろう。
一応、私ら人類防衛機構の防人の乙女は、強大な力を持つ犯罪組織や危険生物に対処するために存在しているのだが……警察や私らから逃げおおせるほど、逃げに特化した犯罪組織もまた、私達の管轄だな、と改めて思い知らされた事件だった。
ついでに言えば彼らは……私らの側からある程度情報が漏れていたのではないかと思ってしまうほど、警備の穴を、的確に狙ってきていた。
一応、シュライン構成員の捕縛作戦に関わった組織のパソコンなどを調べたが、コンピューターウイルスなどを用いた情報漏洩の痕跡は見当たらなかった。ならば誰かが裏切り者、もしくは、私達の知り合いのそのまた知り合い辺りにシュラインに通じている者がいるのか。
そんな事をふと想像したが、調べている暇はなかった。
全ての知り合いの身辺調査をしている間に、どんな聖遺物の盗難事件が起こるか分かったものではない。
なので私ら人類防衛機構の防人の乙女は発想を逆転させた。
既存の組織や情報網などに頼るのではなく、ゼロからまた組織や情報網を構築し秘密裏にシュラインを追い詰めようと。
そしてそんな考えのもとに創設されたのが、私が率いる部隊。
一応は人類防衛機構の傘下にあるものの、どこから情報が漏れるのか分からないため、将官以上の階級の口が堅い者にしかその存在を知らされてない秘密部隊だ。
ちなみに人数は、私を入れて十三人。
情報漏洩を防ぐため、シュラインを壊滅するまで、友人や親類との接触を断つという、大変な苦労をしてくれると私が判断した者の中から、さらに……シュラインにこちらの動きを察知されない程度の人数まで、人数を絞って集めたメンバーだ。
もしかすると、さらに人手が必要になるかもしれないが、その場合は今回の作戦に協力してくれたイルハム少佐らのような、現地の、信頼できると私らが判断した防人の乙女に協力を要請する予定だ。
とにかく、シュライン側にバレないよう少数精鋭で秘密裏に行動する……それが私らの部隊なのだ。
※
「にしても、イルハム少佐。貴官とルル中佐の連携は素晴らしいな」
シュラインの構成員のほとんどに逃げられ、衝撃を受けているイルハム少佐に、私は称賛の言葉をかけた。私の部下らが、目の前で、シュラインのアジトの調査を行ってるのを見ながら。ちなみにこれは、イルハム少佐の気を紛らわせるためだけではなく、本心としてもかけた言葉だ。
「はっ、恐れ入りますカリーナ・クラッソ大佐!」
イルハム少佐は、私の言葉で我に返ったのか、改めて私の方へと体を向けつつ、戦闘シューズの踵を鳴らして背筋を伸ばし、握った右拳を左胸に押し当てた。人類防衛機構の防人の乙女の敬礼姿勢だ。すると、そんな彼女のそばで『待て』の体勢でいたルル中佐も私に顔を向けて「バゥッ」と、敬礼としての一声をかけてきた。
※
言い忘れてたが、イルハム少佐は特命遊撃士であると同時にハンドラーであり、ルル中佐はそんな彼女が育てた軍用犬だ。
ちなみにルル中佐の犬種はチズム。
古代エジプトにおいてかつて愛された犬種にして、世界最初期の軍用犬として活躍をしていた犬種でもある……のだが、いつからか衰退・絶滅した犬種だ。
そしてルル中佐は……そんなエジプト原産の古代犬種チズムを甦らせるという、エジプト政府主導の国家プロジェクトにより、チズムの血を引いている犬種の一つことマルタ島のファラオ・ハウンドなどの遺伝子を基にして生まれた一匹なのだ。
でもって、なぜイルハム少佐よりも、ルル中佐の方が階級が上なのかと言えば、虐待防止のためだ。軍用犬をハンドラーよりも、階級を一つ上にしておけば、もし虐待があった場合、ハンドラーを軍法会議にかけられるのだ。ちなみにこのルールは、ほとんどの国の軍や自衛隊に存在している。
まぁイルハム少佐の場合は虐待なんてしないだろうが。
なにせ彼女は、ハンドラーにとっては必要な資質の一つであるエンパシー能力が常人のハンドラーよりも……サイフォース能力を持つ影響なのか、ずば抜けているから。ルル中佐の心が傷付けばイルハム少佐の心もまた傷付くからだ。
だがその一方でイルハム少佐のエンパシー能力は、ルル中佐との絆に良い影響も与えている。
イルハム少佐の武器は、補助兵装のトレンチナイフのみ。
だがしかし、それにルル中佐との連係攻撃が加わると……特定の薬物などを使い生み出された怪人程度なら、なんとたった二秒で無力化できるほど、彼女達は強くなる。
もはや個人兵装持ちの特命遊撃士並みのスペックだ。
なぜ犬との連携で、個人兵装持ちのサイフォース能力者並みに強くなれるのか。
それは、サイフォースについて研究をしている人類防衛機構の協力機関の研究者曰く、なんとサイフォース能力者の中のエンパシー能力が規格外に強い者は、軍用犬などの動物の……身体能力はさすがにそのままだが、代わりに彼らの感覚機能をサイフォース能力者並みに進化させられるから、らしい。
つまり、身体能力こそ少々差があるものの。
軍用犬と、ハンドラーたるサイフォース能力者は同じ世界を見て、さらには心を通わせる事ができるために……これ以上ないレヴェルの人と動物の連係攻撃が実現できるのだ。
ようは人馬一体ならぬ人犬一体。
そう表現してもいい状態に彼女らは至れるのだ。
そしてこの事実が明らかになって以降。
私ら防人の乙女は、軍用犬を始めとする動物とハンドラーの特殊部隊を作ろうと考えたりしている、らしいが……それについてはまた別のお話だ。
※
「バゥッ! バゥッ! バゥッ!」
そして改めて私らが、シュラインが放棄したアジトに残したまんまの、なんとか取り戻せた聖遺物を始めとするアイテムの、目録を作る作業に加わろうとした……その時だった。
ルル中佐が突然吠えた。
いったい何が、と思い私らは目を向け……そこにあったのは、私らの部隊専属の歴史学者にして考古学者――ある程度歴史や美術に関する知識を持つ私らでさえも踏み込めてないような、オカルトなアイテムがあった場合にと呼んだ女性にして、私のハイスクール時代の友人でもあるイルマ・ストルキオ教授、そして、彼女が今まさに強引に開けんとしている……ワイン木箱ほどのサイズの木箱だった。
というか、その木箱には見覚えがあった。
遠目だったから確信は持てないが……確かイルハム少佐とルル中佐が無力化したシュラインの構成員が、台車に載せて運ぼうとしていた物じゃなかったか?
「んんっ!? な、何だわさワンちゃん!?」
突然吠えられ、イルマは目を丸くした。
と同時に私は……暑い国にいるのに寒気を覚えた。
なぜルル中佐が吠えたのか。
その木箱を見ただけで察したのだ。
「い、イルマ……と、とりあえずそこから――」
だがしかし。
私の言葉は最後まで言えなかった。
――ピルルルルルルルルルルルルルルッ
遅かったのではない。
話の途中でイルマのスマホが鳴ったからだ。
まさかこの洞窟にも電波が通じるのか!?
いやでもこの洞窟の周囲で時折起こるという、特殊な砂嵐が巻き起こす静電気の影響で、私らが使っている軍用スマホくらいしかマトモに通信ができないハズ……まさか、イルマが触ろうとしたモノのせいで心霊的な現象が起こったのか!?
『イルマ、まずはそこから離れるさー』
だが次の瞬間――イルマがスマホをスピーカーモードにしてくれた時、その謎は氷解した。
その声に、私は覚えがある。
確かこの声は……イルマの恋人にして、イルマと同じく歴史学者にして、さらに言えばロマの占い師でもあるというロカさんだ。
確か、彼が所属するロマのグループの一つの起源が、インドのパンジャブ地方にあるという仮説を証明するための調査をしている男性で、私らのインドでの任務の時に出会い、イルマと恋仲になったとか……そんな人だったか。目まぐるしい毎日だから記憶があやふやだが。
だが、これだけは……私の中で、助っ人の一人としてカウントしたためなのか、ハッキリ覚えている。
彼は正真正銘の霊媒能力を用いる……ガチの占い師だと。
そして霊媒能力者でもある彼なら、電波障害をものともしない術などを使えてもおかしくはない。
「ロカ!? え、わざわざ連絡してくるなんてどうしただわさ!?」
『お前が触れようとしているヤツ……それが、とにかくヤバいさー。せめて、そうだな……一メートル以上ある火ばさみでも使ってどうにかするさー』
「仏教におけるあの世の箸だわさ!?」
分かる人にしか分からないネタだった。
ちなみに私には分かるネタのため……イルマが開けようとしていた木箱の中身がどれだけヤバいかを改めて理解した。
ついでに言えば。
イルハム少佐はネタを全然わかっておらず。
その頭上にいくつも疑問符を浮かべていた。
「イルマ、とりあえず火ばさみはこちらで用意するから……それ以外の聖遺物を、調べてくれ。それからロカさん。このまま通信を継続していいか? イルマが変なモノに不用意に触らないか心配だから」
「ちょっと!? 一言余計だわさ!」
『その声、カリーナ大佐さー? それだけ二人はヤバい場所にいるさー?』
ロカさんはイルマの意見などスルーして訊いてきた。
というかイルマには、霊感どころか一部の女性にだけ目覚めるサイフォースすらないので、余計な一言ではない。この場においては必要な一言だ。
「まぁ、そんなところだ」
どこにシュラインの構成員に通じる存在がいるか分からないため、誰にも詳しく話してはいけない事を心苦しく思いながら……私は言った。
『…………まぁ詳しくは訊かないけど、もしもって時は遠慮なく声をかけるさー』
「すまない。それと、聞いた単語については他言無用で」
『了解さー』
そしてさらに、知り合いであるからこその会話をすると……私らはそのまま目録作りを再開した。
※
「にしてもカリーナ、ここはまさしく宝の山だわさ」
私や私の部下が、如何なるアイテムなのか分からなかったアイテムの目録を作りながら、イルマは告げる。
その目は、シュラインのアジト――アラビア半島のオマーンにある、砂漠のアトランティスこと、ウバールの一部ではないかと言われている遺跡から見て、南西の方角で近年新たに発見された、謎の古代遺跡の地下に存在する洞窟の一室の中で、大量に展示されている様々な聖遺物などを見ていた。
神社……というよりは博物館のような感じの場所でもあるな、ここは。
「まずはこの『死者の書』を見るだわさっ。これ、書いてある内容からしてツタンカーメンの墓から失われた物だわさっ」
イルマが、木箱の前に見ていたパピルスの巻物を持ち上げながら告げた。
そういえば、ツタンカーメンの墓に死者の書があった事だけは確かなようだが、いつの間にやら紛失していた……とかいう記事を読んだ事がある。まさか、イルマが持っている物がそれなのか!?
もしや、シュラインはその紛失事件に大きく関わっていたりするのだろうか。
「なんですって!? 我が国から失われたツタンカーメンの死者の書!?」
エジプト出身のイルハム少佐が即座に反応した。
自分の国の、貴重な遺物が国外に持ち出されていたのだ。
どこの国の人間だろうとも、衝撃を覚えないワケがない。
「しかもこの死者の書……ファラオのトトメス三世の時代に結成された、錬金術師達の秘密結社が生み出した『白きパン』のレシピまで書かれているだわさっ」
「「???? 白き、パン?」」
イルハム少佐どころか、私も初めて聞く単語だ。
学校でも習った事がないが……いったいそれは何だろうか。
「今でいう『賢者の石』に相当する不思議物質だわさっ」
イルマのその返答を聞いて、私とイルハム少佐は目を丸くした。
そう言われると凄い分かりやすい……が、同時に驚愕の事実だ。
「け、賢者の石だって? あの、ゲームとかで登場する?」
「それだわさっ」
死者の書ごと指を向けながら、声を上げた私にイルマは告げた。
「もし神代も含めていいならば、より長い歴史があるかもしれないけれど、少なくとも人類史に限定すれば、トトメス三世の時代辺りが、賢者の石の起源と言うべき時代なんだわさっ」
「そ、そうだったのか」
その勢いに、私はたじろぐ。
オカルトな知識に関しては彼女に負ける。
「ちなみにこの白きパンは、かのアレクサンダー大王の時代になると『楽園の石』と呼ばれて――」
「ほ、他にはどんなアイテムがあるんだイルマ?」
というかいちいち説明を受けているワケにはいかない。
話す間にまた聖遺物やそれに準ずるアイテムの盗難事件が起こっては敵わん。
次の事件を止めるためにも。
今ある手掛かりから彼らの次の行動をプロファイリングしなければ。
なので私は強引に話を変えた。
「ちぇー。まだまだ話したい事があったのに。強引だわさ」
イルマは文句を言った。
だが状況が状況なんだ……許せ。
「他には……おお、これも凄い発見だわさ」
死者の書を私の部下の一人に預け、イルマは別の巻物を手に取った。
「こっちは日本の西行法師の、反魂の術の要諦が書かれた巻物だわさっ」
「今度は日本の巻物か」
古今東西のありとあらゆる物がこの場にあるな。
ますます神社というより博物館に近い場所じゃないかと私は思う。
「でもってこっちは中華王朝の反魂香のレシピだわさっ。もしや犯人達の目的は、不老不死の研究だったりするだわさっ!? 賢者の石といい反魂の術といい、そう思えてしょうがないだわさっ!」
敢えてシュラインじゃなく、犯人と言う友人に私は心の中で感謝した。
今もスマホで繋がっている彼女の恋人ことロカさんや、その友人が、シュラインに通じていないとは断言できないからだ。
『不老不死とは、これまた凄い話さー』
今まで黙って話を聞いていたロカさんが意見を出す。
『でもそれなら、どうしてそんな資料を残したまま……今、君達が追っている連中は逃げたさー? ノーサイドな精神を持つ犯罪組織なんて聞いた事ないさー』
彼の意見はごもっともだ。
その辺については私も疑問に感じている。
「今までの彼らのやり口と、なんとか捕縛できた構成員の事を考慮すると……持ち逃げできるヤツだけを持ち逃げした可能性もあるが、それならなんで軽い巻物などが残されているのか。パピルスとかは楽に持っていけるだろうに」
確かに紙も、量さえ集まれば重いが。
その気になれば楽に持ち逃げできるだろう。
だがなぜかこの場には、その紙で出来た聖遺物などが多く残されていて。
その一方で、今まで盗まれた、石板などの重たい聖遺物はあまり存在しない……持ち逃げされている。
なぜ、軽い死者の書などは残されているのだろうか。
私らからしたら、記された情報からして、死者の書などの方が重要ではないかと思うんだが。
「カリーナ大佐、火ばさみが届きました」
すると、その時だった。
イルハム少佐が、注文の火ばさみを持ってきた。
「じゃあ、木箱の方を改めて確かめるだわさ~」
イルマは意気揚々と火ばさみを受け取り。
改めてそれを使い木箱を……一メートルと長いため、開けるのに少々手間取っていたが、イルハム少佐が手伝いなんとか開けて――。
「バゥッ!! バゥッ!! バゥッ!! バゥッ!! バゥッ!!」
ルル中佐が、先ほど以上に強く吠える。
それだけで、どれだけヤバい物が中に入ってるのかさらに不安になった……が、私らは意を決して中を覗き込み…………どこかで見た事があるような、謎の文様が描かれた紙が複数枚入っていたのを見た。
「こ、この文様は……魔除けの意味合いがある、東南アジアの織物などに描かれる文様だわさっ」
「ま、魔除けだと?」
なるほど、見た事があるワケだ。
よくよく思い返せば学校の美術の教科書に載っていた気がする。
というか……なぜ木箱の中の上の方に、そんな文様が描かれた紙が……まさか、これらの下にそれ相応のヤバい代物があるというのかッ?
『…………イルマ、それにカリーナ大佐……こればかりはチラ見だけにするさー』
再び、ロカさんが意見を出す。
ま、まさか……それほどヤバいのか……この魔除けの文様が描かれた、紙の下にある代物はッ!?
「そ、それじゃあ……ぴらっ」
恋人の警告に、イルマは素直に従う。
ロカさんのおかげで命拾いした事が今までに何度もあったからな。
でもって、わざわざ擬音を口にしつつイルマはチラ見して……ギョッとした。
「な、なんでこれがここに……というかなぜこれが、ロカやワンちゃんが警告するような代物だわさっ!?」
「い、いったい何があったんだ、イルマ?」
「こ、これは――」
イルマは、驚きのあまり目を丸くしながら告げた。
「――中期インド語にも見えるけど、ちょっと違う文字で書かれてる……おそらくこれはインドの説話集……血で書かれてると言われてる、あのブリハットカターの内の一枚だわさっ」
「『…………はぁぁぁぁッッッッ!?!?!?』」
私とロカさんは同時に驚愕した。
ちなみにイルハム少佐は再び疑問符を浮かべた。
さすがにインドのオカルトアイテムにはピンと来ないらしい。
「この地域で言うところの『千夜一夜物語』だわさ」
「な、なるほど。それなら分かります」
イルマがした補足説明により、イルハム少佐は理解した。
というか確かにどっちも説話集だが、成立の経緯に違いがあり過ぎるだろう。
というか、ブリハットカターだと?
馬鹿な。ブリハットカターの原本は存在しないんじゃなかったのか?
というか、原本なら原本で……なぜ、こんなにも…………近くにあるだけで嫌な感じがするんだ????
『その、ブリハットカターの原本……のように見える何か』
さすがのロカさんも、ブリハットカターの原本はないと思っているのか。
あくまでも『原本かもしれない』スタンスのままで私らとの話を進めた。
『…………ブリハットカターの伝承通り、血で書かれてて……そして謎の文字が、書かれているならば……これだけでもヤバい要素さー。少なくとも……ブリハットカターの原本を基にして作成された呪具の可能性があるさー。早い内に、霊媒師による封印処置を施さないと……イルマ達がいる土地に何かを起こしかねないさー』
「…………なるほど。魔除けの文様が描かれた紙が置かれるワケだ」
そして、この瞬間。
ロカさんのその意見により。
なぜにシュラインの構成員がこの呪具らしき物を持ち去ろうとして。
その一方で、なぜ紙で出来た聖遺物などはこの洞窟アジトに置きっぱなしにしたのか……そのワケが、なんとなく私には読めてきた。
まさかとは思うが……彼らは今まで盗んだ物の内、武器にもなりうる危険な代物だけを持ち去ったのではないか。
そして紙で出来た方は。
そこに描かれた情報だけが、武器に匹敵するモノだからこそ……その内容を全て記録し、紙自体は放棄し逃げ去った。
だとすると、シュラインの正体を……私らは読み間違えていたかもしれない。
彼らは、ただの国際窃盗団じゃない。
危険な聖遺物などを武器として犯罪者に売り捌く……死の商人の類ではないか。
そして、だとすると。
「近い内に、聖遺物やそれに準ずる何か関連の事件が起こり始めるかもしれない。イルマ、聖遺物の目録作りを私の部下と協力して進めておいてくれ。イルハム少佐は、先ほど捕まえたシュラインの構成員をできるだけ早く叩き起こせ。仲間の情報を吐かせるんだ。私はすぐに多くの霊媒師へ封印処置の依頼をするのと同時に、世界各地の人類防衛機構の支部に聖遺物関連の事件の警報を発しなければいけない。無論、シュラインに気付かれない方法でだ」
さて、今まで以上に忙しくなるな。
だが人類の新たな脅威を見逃すワケにはいかないため、私は疲れがまだ溜まっている身に気合を入れた。
名前:カリーナ・クラッソ
年齢:22
出身:イタリア
階級:大佐
概要:シュライン壊滅のために創設された、人類防衛機構の防人の乙女の中でも一握りの者しか知らない秘密部隊を率いる、特命教導隊からの転属となった女性。美術品の鑑賞が趣味。ある程度、美術品の真贋を見極められるという特技を持つ。部隊長に選ばれたのはその特技を買われたから。人類の遺産を武器として売り捌いているシュラインを壊滅するという使命感に(平静に見えて静かに)燃えている。
名前:イルマ・ストルキオ
年齢:22
出身:イタリア
職業:歴史学者兼考古学者
概要:カリーナの友人。カリーナとは違いサイフォースに目覚めなかったため、オカルトな趣味を活かせる学者の道へと進んだ女性。カリーナさえも知らないオカルト知識を持ち、それ故にカリーナに助っ人として選ばれた。聖遺物などの人類遺産は、特定の場所にあってこそ価値があるものだと認識しているためシュラインの起こす窃盗事件には憤りを覚えている。珪素戦争の原因となった、旧ソ連軍の軍事実験で使われた技術の中に、ナチスが戦時中に蒐集した“ソロモン王を始めとする悪魔との契約者が悪魔を召喚する際に使った術式”が実は含まれてて、旧ソ連軍はそのデータを弄る中で、珪素獣がいるチャンネルを開いてしまったのではないかと予想しており、そしてシュラインが集めていた代物によっては、珪素戦争のような戦争が再び勃発するのではないかと心配もしている。
名前:ゼフラ・イルハム
年齢:16
出身:エジプト
階級:少佐
概要:エジプトのアレクサンドリア県第三支局に所属している特命遊撃士兼ハンドラーの少女。ハンドラーであるのは、防人の乙女としての適性検査でエンパシー能力が優れていた事が発覚したため。試しに試験官が現在の相棒であるルルを始めとする軍用犬と引き合わせたところ、抜群のコンビネーションを発揮した。従来の特命遊撃士としての任務のみならず犯人の捜索や人質の救出任務もこなせる。シュラインが、故郷の古代遺物を国外に持ち出した事に怒りを覚えている。実は古代エジプトにおけるハンドラーの子孫であるのだが、彼女の家系にその事実は伝わっていない。
名前:ルル
年齢:2
出身:エジプト
階級:中佐
概要:イルハムの現在の相棒である軍用犬(♀)。エジプト政府主導の古代犬種復活プロジェクトにより、現代に生まれた一匹。エンパシー能力がずば抜けているイルハムとの交流の中で、身体能力こそ普通の大型犬と変わらないが、感覚機能がサイフォース能力者並みに進化している。その影響なのかボーダーコリーのチェイサーと同じく、数多の単語と文法構造を理解できる。
名前:ロカ・ライナーン
年齢:25
出身:ベルギー
職業:歴史学者兼占い師
概要:イルマの恋人のロマの男性。霊媒能力者でもあり、ある程度、祓魔系の術も使える。イルマが危機に陥りそうになったら、たとえ遠くにいようとも、せめて助言ができるようにと、彼女と一晩を過ごした際に“そういう術”をこっそりかけていた。
※人類遺産保護部隊の元ネタはイタリアの美術遺産保護部隊です。
※シュラインの情報源については秘密です。
※もしかするとこれから先の二次創作で明かすかもしれませんが……とりあえず、人類防衛機構に責任があるワケじゃないです。
※ただ単に科学的側面が彼女らに匹敵するだけです(意味深
※ルルはアラビア語で真珠を意味します。
※軍用犬の歴史は古いです。
※紀元前四千年のエジプトまでその歴史は遡ります。
※軍用犬がハンドラーより階級が上というのは珍しい事じゃないです。
※ロマの起源の説の一つがインドというのは事実です。
※シスルのウバール考古遺跡の周辺で新たに遺跡が発見されたのは作中だけの出来事です。
※噂によるとツタンカーメンの墓にも死者の書はあったようですね。
※だけどTVによると紛失したとか……いったいどこに行ったんでしょうね。
※白きパンは出エジプト記に登場する食べ物『これは何か』と同一のモノ……かもしれない。
※ブリハットカターらしきモノ。
※十枚くらい集めるとその土地の霊脈を狂わせインド由来の怪異を起こしたり呼び寄せたりする、古代インドの特級呪物という設定です(ぇ