表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の戦国繁盛記 打倒信長で天下を治める  作者: C-RAM
第3章:大名家 近畿統一編
20/20

【番外】千熊丸の商人道 三好の名と近江商人

 俺は、堺に住んでいる(さぶらひ)の息子、名は千熊丸……家は、武士の名門らしいが、そんな事は知らない。


 ただの貧乏な一家……その日食う物にも困る有り様だ。


 ……おっ母は、俺を天下の英雄になる様、願掛けしたらしいが、そんな物は意味がない。


 俺の好きなのは商売だ……キラキラした商品が並び、人がわいわい騒ぎながら熱心に銭の話をする。


 俺は、大きくなったら商売人になる! 身の回りに宝物をうず高く並べて楽しむのが夢だ。


 弟の千満丸は、やんちゃで育ち盛りだ。いつも食うものがひもじくて、泣いてばかりいる。


 だから、子供ながらに商売人の真似事をやって小遣い稼ぎをするしかない。


 何が武士だ……何が名門だ!! おまんまが食えなきゃ、死ぬしかない。


 だから、俺は自分を武士とは思わない……商人で十分だ。



 うちの隣に問屋がある。そこの離れに、昔近江で商売をして隠居している爺さんがいる。


 名前も知らないが、天秤棒を杖代わりにして、豪快に笑う爺さんだった。


 俺にとっては、師匠であり父親代わりのような存在だ。


「爺さまー! 天秤の爺様はいるけぇ?」 


「坊、今日も儲かりまっか? えろう元気でええこっちゃ」


 いつものように、離れで日向ぼっこをしている爺と挨拶をする。俺と爺の日課だ。


「おう、ぼちぼちでんな! 油が良く売れてな、30文も稼げたよって」



「坊には、商売の才能があるかもしれんのぅ……わてが死ぬまでに商売の基本を教えたるわい」


 その言葉を聞いて大喜びする……天秤棒の爺は、近江で大成功を収めた大商人だ。


 きっと、凄い商売のタネを持っているに違いない。


「坊、あんたの名前は名門の一門じゃろう『三好』ちゅうんは、昔名将がおったと聞くぞ」


「そんなん関係あらへん。生業に貴賤無しじゃ……銭が無いっちゅうは、首が無いと同じぞ」


 俺は、正直に商人として生きたい理由を言うた。


「さよか……じゃが『三好』っちゅうんは、えぇ名前じゃのう」


「そうか? 特別ええとは思うとらんが……」


「『手前良し、相手良し、世間良しで三方良し』近江の商人の座右の銘じゃ……お天道さんに恥じん生き方をする事、それが世間良しという。銭はただの銭にすぎん。ホンマに大事なんは、信用じゃ」


 俺には良く分からない。だが世間に良しという言葉と『三方良し』が転じて『三好』となる事がええと思った。


「爺、じゃあ俺は銭で身を立てる。そしたら、名門や無くて『三好』の名を、堂々と名乗れると思う」


 爺は、嬉しそうに顔をほころばせて、菓子をくれる。


 俺はこの爺が大好きで、毎日のように通っては今日の商売の話をする。


 毎日が発見と銭儲けの日々だった。恐らく、俺にとってかけがえのない時間。原体験であり、根源だった。銭を稼ぐ喜びが俺の生きざまになっていった。


「爺、また来たで! 儲かりまっか?」


「坊、ぼちぼちやな……まあ、日向ぼっこしとるだけやが」


「それでな、明銭(みんせん)鐚線(びたせん)ってなんや? 汚うても銭は銭とちゃうんか?」


 俺は、この爺に銭の稼ぎ方、疑問をぶつけて説明して貰うのが日課だった。


 その日は、仕入れの為に明銭(みんせん)を持っていったら、いつもの3倍の物が買えたので疑問に思ったのだ。


「ああ、この前の戦の前から質の悪い鐚線(びたせん)というのはあった。じゃがな、この前の戦で大量に燃えた銭があってのぅ。ほんまなら、そんな銭に価値は無いが、この国では銭を作る事がでけん」


「銭を……造るって。そんな事が出来んのか?」


 俺には分からない。普段使っている銭を作る技術が無いという事に。


「作ろうと思えばできるんや……せやけど、質が悪いし勝手に銭を作ると悪党が手を出すやろ?」


 何となくわかった。幕府のお偉い方が銭を作れんし、何処かで偽の銭を作っても罰せないという事だ。


「そやから、明から銭を買うておる。それで勝手に使った銭を鐚線(びたせん)扱いしおる。贋金かもしれんから、価値が低いんじゃ」


 ……信じられなかった。手元に有る一文銭は確かに出来が明らかに違う。


 だから、鐚線(びたせん)は安く取り扱われるのか……。


「坊、鐚線(びたせん)が無くのうて、商売が楽になったら皆が喜ぶ。えぇ商人になって天下を動かしたれ。そうすれば、この末法の世が少しでもようなる……坊の『三好』っちゅう名前も、その為かも知れん……」


 俺は、この時自分の荷物でしか無かった『三好家』というものに誇りを持った。


 商売は益々繁盛し、明銭(みんせん)で十貫文も溜める事が出来た……9つの時だ。


 爺からは、もう免許皆伝じゃと太鼓判を押して貰った。


 ……おっ母にも弟にもひもじい思いをさせる事も無い。


 俺は商売人として、天下を買うてやる。いつの日にか、将軍様でさえ頭が上がらんような、大商人になって、天下を治める。


 それが俺の原点となった。



 気が付くと、夢を見ていたようだ。幼く幸せだったころの夢。


 あれからすぐに、一向一揆に攻められ、父を失い故郷に戻る事となった。


 堺は、十年ほどして根拠地を移動したときに、人をやって爺の行方を捜したが全く分からなかった。


 息子共々、一揆に襲われたのかもしれない……。


 十一歳で家督を継がされ、傀儡となるところを己の才覚で銭を集め、公家衆や商人達の後援を得て、若くして和睦の斡旋をしたと一目置かれる事になったのが、己の立志伝だ。


 あれからずっと銭とは何か? 天下とは何か? を問いかけ続けて来た。


 もうすぐ、あの世へのお迎えが来るかもしれない。


 儂の跡を継ぐ者に、その質問を与えねばならぬのかも知れぬ。


 一文銭を毎日ゆっくりと磨き、考えている。


 あの者達の忠誠を支払うために、必要な物を……。


 儂が、あ奴らに何を残せばよいのかを……。


 それが儂に課せられた最後の商売。爺よ、もうすぐそちらに行くぞ……。


 ちゃんと、三途の川の渡し賃は用意しておる。


 地獄でも銭が稼げるか、商売できるか考えるとウズウズする……儂の本質は商売人。


 極楽浄土に銭があるかは知らぬが、「三方良し」で人を喜ばせる、平和な世界があればそれでいい。


 それこそが、商売人の極楽浄土なのだから……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ