第18話.えぇ商売、させて貰いましたわ!!
一連の交易から、ようやくゴアに行く段取りが付いた。
東国の扱いは、伊勢長島の地から関が原を通り、金ヶ崎まで砦や柵を作って、絶対に通れない要塞とした。
武田家は、上野を治める事には成功したが、長尾家との血みどろの戦いは終わりを見せない。
今川家も北条家も動かないので、当分この状態は続く事だろう。
これなら、俺がフリーハンドで行動しても何とかなる筈だ。そう思って、朝廷との交渉に赴いた。
つまり、一万文字を収集した「日葡辞典」と新たに即位した際に行う「勅令」の一環として、ポルトガルとの同盟を要請して貰いたい。
そう言う話をする時は、俺と『近衞 前久』との直談となる。
……お互い、長い付き合いなのだ。
今回は、嫡男の仰木丸も連れての顔合わせとなる。
「まあまあ、三好の旦さん。お久しゅう……随分と偉うならはって、えぇ暮らしどすなぁ」
……ま、そう言う関係なのだ。
将軍を追い出したのも俺。本願寺を退去させたのも俺……。
ついでに言えば、朝廷に金を出して支えたり、譲位にかかる費用の負担をしているので、トントンである。
「そろそろ、わても隠居させて貰いとうてな……息子連れてきてまんねん」
「仰木丸と申します。この度はお初にお目にかかれて……」
ああ、まだ礼節が足りてない様だ。
京言葉は、難しいからな……このおっちゃんに教えてもろて、何とかしよか。
「こいつが元服して、わても三好の看板をようやっと降ろせまんねんわ……」
「ほう、それはええ話どすなぁ……それで、旦さんのホンマの目的は何でっしゃろかいな?」
流石は、海千山千の公家衆「近衞 前久」である。
こちらの意図を、読み切っているようだ。
「あんさんには、敵いませんな……わてが欲しいのは、ポルトガルとの同盟の勅書でおま。それに日葡辞典を付けて、カタカナ書きと本紙の二通必要でんねん」
……それが欲しくて「日明貿易」もしたし、南蛮人とのパイプも作った。
「本願寺」との因縁を考えれば、俺がやっておかなければならない『宿願』なのだ。
「よろしおま、その代わり幕府を開いて貰いたいんやけど……」
また、その話か……そりゃ、俺だって何とかしたいと思っている。
だが、こういう話はある程度の目途が立って後進に譲れる状態にしたい。
……いや、待てよ。
前例が大好きな朝廷としては、別に「征夷大将軍」である必要は無い。
そもそも、どうやって将軍職を返上させるか、悩んでいた所だ。
だが、こうやって後継ぎが元服しているのだ。
間違いなく「前例」はある……。
問題は、それで納得して貰えるか……である。
「よござんす、それでは三好政権を正当な幕府として、わてが『執権』になればよろし」
俺は、そう言い放った。
……その場が凍り付く。
何を言い出すのか……全員がそんな反応を示す。
良いじゃん、『執権』やった事あるだろ……鎌倉の頃だけど。
武家の棟梁じゃなければ良いんだろ……だったら、こいつが当主で俺が『執権』として親政を行う。
そう言う名目で、構わんだろう?
近衛前久が、少し悩んだ後で返事をする。
「ふむ、確かに……スジは通してますな。ちょっとお待ちなされ、確認だけしてくる故……」
あいつの京言葉も、すっかり消えてしまったか。
流石に、これを言い出してOKが出るとは思わんが……。
……そう思って半刻ばかり、待つ事になった。
仰木丸には、当主として……三好家の代表として……努めては貰うが、実際は久秀や伊都が政務を担当する。
良い年齢になれば、当主として活躍して貰えば良い。
そして、この案ならば俺が無茶をしても何とかなる。
……天竺までの船旅、無事に済むとは限らない。
一応の保険として、『執権』の役職を持ち出した。代理人という形であれば、誰がなっても良い、そう言う理屈だ。
近衛は、元々真っ青な顔をさらに悪化させながら、戻って来た……。
これなら、断られる……流石に……な?
「よござんす、そのお話承りました! 正式に朝廷からの「綸旨」として、回答させて頂きます」
えっ……マジで?
マジでやっちゃうの? ……本気?
俺、『執権』やらされちゃうの……いや良いんだけどさ。
「……父上、仰木丸も頑張ります故、しっかりお努めいたしましょう!」
そうか……そう言ってくれるなら、やるしかないか。
ゴアには、正当な立場で赴きたかったので、丁度良い。
「確かに承りました。えぇ商売させて貰いましたわい」
へっへっへ、と俺が笑うと、ほっほっほ、と近衛が返す。
「ほんに三好の旦さんは、おもろい事。すっかり嵌めさせられましたわ」
「……それでは、儂らはこれで『まいど、おおきに』」
仰木丸も『まいど、おおきに』と言って、挨拶を交わす。
いつもの締めの言葉である。
代々、三好の外交官は、こうやって話を纏める。
「ほほほ、そうそう。懐かしいどすなぁ……あんさんも久秀さんも、先代の三好の旦さんも、皆そういわはる……」
「ははは、これはしたり。わてら商売人ですからなぁ……」
そうそう、こいつは俺達の挨拶なのだ。
……外交というものは、目に見えない物を売買する。
だからこそ、こうやって挨拶をするのだ。
俺達は、しょせんは「銭稼ぎの上手い商売人」でしかないのだ。
……必ず、この言葉で締める。そうやって来た積み重ねがある。
いつも、そうやって来た……それが「礼節」というものなのだ。
俺達にはお似合いだろう……銭さえあれば、何でもする。
頭を下げるのも良し……無理を突き通すのも、また良し。
常日頃収めた「礼節」など、この程度の価値しかない。
それで、相手を動かせるなら幾らでもやってやる。
それこそが「商売人」のルールなのだ。
……俺は、俺達は極めた「礼節」で殴り合う。
そこには、いつもルール無用の見えない戦いが待っているのだから。
執権の話は、あいもかわらず「脳内プロット」による思い付きです。
前例は、鎌倉幕府の頃にやっているよね(ニッコリ
このお話は、三好家継承の儀の前に、やっておきたい内容でした。
三好が一族は、代々「商売人」として、朝廷に仕える。
だから、三好家である事を示したかったのです。
この後に継承に関わるお話をして、戦国時代編は終了となります。
西へ西へと向かう、大航海時代の始まりです!!
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しかしまあ、よくもおいが言葉を知らんと、創作出来るとな?
知らんわ、ワシもそこら辺は知らんど。ただ、「オリジナリティ」は出るやん?
そうですわなぁ……そちらさんには、えぇ書き方させてもうとります。
……そいで、わざわざ読みにくう、方言ばつこうとるんか?
そやで! この方が雰囲気(何でか変換できへん)が出るやろ!!
おまはんの言うことばも、中身もよぅわからしまへんで?
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ちょっとした歴史改変ネタを考えてみた。大坂夏の陣で千姫を助けた「坂崎直盛」という大名がいる。
宇喜多直家の甥っ子である。史実では、千姫を娶りたくて敵わず武士の面目を潰された上で切腹。
徳川家のやり口が汚すぎて、あれだが……もしも、もっと武士の面目を保つ代案があったらどうだろうか?
たとえば、千姫を娶るのは年齢的に無理があるとして、譜代・親藩として扱い「松平家」として扱うという褒美だったとしたら……歴史が変わるのではないだろうか?
石見一国を与えられ、譜代として残る坂崎家。間違いなく会津藩もビックリな幕府側として活躍するだろう。長州征伐や薩長同盟も変わるに違いない。
幕末の行く末まで影響するような「もしも~だったら」である。
別にそれほどおかしくもない……千姫を娶る代わりの褒美を用意して厚遇する。武士の面目は保たれ、忠儀の士として、名を上げる名門譜代。
バタフライエフェクト、という言葉もある。
「異聞幕末史 千姫を救った男」時間があったら、書いてみたいものである。