第17話.御伽小姓の面々と南蛮船
早速、科挙制度を行う事になった。
まだ、それ程広まってはいないが領国のあちこちにお触れを出し、受験者を集める。
とにかく、年に一度の試験として馴染んでもらって、次から本格的に稼働。
そう思っていたのだが……第一号が決まった。
それも若年の部である。
試験は、若年・元服後から二十一歳・三十歳までの三つの部で執り行われる。
中々、良い人材というのは現れないがこいつだけ別格だった。
公家衆に仕える武士の子供で、幼名を「与吉」という。
とにかく力が強い。あれよあれよと、相撲を勝ち抜く。
人文・礼節ともに十分すぎる成績を収め、満場一致で取り立てる事になった。
とはいえ、年齢の問題がある。
流石に、満八歳というのは若すぎる。
「その方には、我が嫡男である仰木丸の御伽小姓を命ずる!」
結局、そろそろご学友も必要だし、勉学や体力づくりで困る事は無かろう。
そう思っての配慮である。
将来、良い小姓になると嬉しいのだが……。
後二人、御伽小姓を付ける事にした。
一人は、宇喜多家の嫡男である「八郎」である。
本来「宇喜多秀家」の筈なのだが、この世界では生まれる事が無かった。
父親は「宇喜多直家」ではなく、弟の「宇喜多忠家」だからだ。
なので、血統的には「宇喜多詮家」となるのだ。
ともあれ、宇喜多家は親類縁者が優秀である。
将来に期待しておこう……お家騒動をしそうな相手もいないし。
もう一人は、蒲生家の嫡男である「鶴千代」だ。
間違いなく「蒲生氏郷」となる筈の、期待のエース候補である。
こいつなら、千代を嫁がせても構わない。
……愛妻家だろうし、将来の事もある。
利発そうな子供で、茶道に興味があるらしい。
それぞれ、三人共個性的な面々だ。
仰木丸とも、仲良くやってくれるのではなかろうか。
傍仕えをさせながら、共に学び合う学友にもなってくれる。
あと数年すれば元服を迎えるこの三人が、将来の主力看板となってくれると信じている。
マリアの子供は本願寺家を継がせるし、お登勢の子供は十河家に養子に出しても良い。
それぞれ三好家を背負って立つ、若者として活躍させたい。
……厳しい様だが、これもまた修行である。
仰木丸は、ここ数年全ての時間を休むことなく勉学と礼節に努めている……無理をさせたくはないが、本人の希望なのだ。
それが三好家を背負って立つ、嫡男としての役割であり、徒や疎かにしてはいけない。
俺自ら、指導に当たる……勉学・礼節の指導の際は「儂を父と思うな。先生と呼ぶ事!」と取り決めをした。
雨の日も風の日も、一日も欠かすことなく、俺の知っているだけの事を叩き込む。
熱を出した際も、時間は短くしても休む事は無い。
……もう時間が無いのだ。元服までに、全てを伝えなければ。
一点だけ、伝えていない事がある。
未来の事だ……それだけは伝えない。伝えてはならない。
本願寺の『本願』についても、固く口留めした上で伝えた。
これだけの重荷を背負って、俺の息子は生きていかねばならない。
親としては、苦渋の決断なのだ……。
御伽小姓の三人にも、同席させている。
四人とも競うように学び、あらゆる知識と武芸、礼節を極めようと必死である。
恐らく、この四人が元服を迎えたら、俺の役割は終わるのだろう。
……何が起こるのかは、分からない。
だが、無事に生きていられる保証もない。いよいよ、南蛮に向かって旅に出る事になるからだ。
南蛮船を作る構想は、三年前から続けていた。
フロイスが語る、ゴアまでの道のりは二年ほど……。
俺は、異国の船の方が優れていると、そう思っていた。
だが、チーム海賊たちとポルトガルからやって来る船を見て、もしかしたら勘違いをしているのでは? と思う事になった。
船大工や宮大工も参加させた……隆景はじめ、隅から隅まで船の設備を調べる。
その結果、船体部分のいくつかの特徴と、帆の張り方や運用について調べる事が出来た。
南蛮船の船体は、ナウ級と呼ばれる中型船。
これを五から一〇隻の船団を組んで、宣教師や商人がやって来る。
喫水線が深く、二から三本のマストを持つ帆船だ。
マストの数は多いが、船体は鉄の釘や鎹で木を組み合わせている。
……木工に関しては、日本の方が上だ。
釘が無くても、木組み細工で船を作る。材料も技術もふんだんにある。
材質は、それほど違いが無い。
という事は、マストと帆の張り方さえ何とかなれば、外洋航海は可能ではないか?
それが、俺達の結論だった。
もちろん、このサイズの船体を作る造船所の工夫はいる。
ドックとして、造船所のサイズを大きく、深く作る必要がある。
だが、仕組み自体は日本にもあるのだ。
潮の満ち欠けを利用して、海水を注入・排水すれば工期は短縮できる。
堺の港では、造船所を突貫工事で作り上げる。
恐らく、これよりも大きな船も作る事を考慮し、大きめに作る。
そして、二年の年月で造船所は五カ所が完成し、着々と西洋と日本の技術を組み合わせた船が出来つつある。
先行して作った船を、南蛮人の水夫とフロイス達を乗せて、堺~温泉津~上海~那覇を経由して、堺に戻る。
……随分と、航海時間が短縮された。フロイス達も驚いている。
この航海で、その性能の高さと日本人水夫への教育・測量器具の運用など様々な知識を得る事が出来た。
前任の宣教師が、来年にゴアに戻るという。
俺達がその船団と共にゴアに行き、親書と日葡辞典を渡そうと思っている。
リスボンに行くのは、その後だ。
無理だと思っていた、南蛮への旅路……長年の夢が叶う。
同乗するのは、隆景・九鬼・俺と鹿之助、キリシタン代表として「高山友照」とその息子「ジュスト」だ。
……こんな小さな子供を乗せるとは、と思ったが覚悟を決める。
まだ十三歳だが、元服させて「高山・ジュスト・重友」に改めさせる。
俺達の航海は、もう半年ほど経てば出航可能になる。
その前に、やっておかねばならない事がある。
仰木丸の元服と家督相続だ……。
正直、俺の存在価値はそこまで高くない。何も出来ない半端な当主なのだ。
……ならば、危険な航海を乗り越えて、俺にしか出来ない事をする。
三好家を絶やす訳には行かないし、死ねない理由も多すぎる。
それでも、俺の仕事は全て伊都に教えてある。
久秀と共に、後見人として問題が無いように、あらゆる事を伝えた。
万が一の事があっても、決して三好家が滅ぶ事が無いよう、準備をしてきた。
だから、俺はどうなっても良い……ありったけの夢をかき集めた、俺達の船は出航を待っている。
未知なる海への冒険は、もうすぐなのだ。
いよいよ、中盤の山場に差し掛かろうとしています。
ここからが本番……行くぞ、プロットの貯蔵は十分か。
次回、三好家継承の儀と三好長慶の最後を余すところ無く、書き切るつもりです。
作者にとって、一世一代の賭けになります。
ここさえ出来れば、もう思い残す事は……あまりありません。
シリアスに、泣きシナリオになる様必死です。
すこし投稿に時間が掛かると思いますので、よろしくお願いいたします。
そもそも、フォローして短編読んでコメントして、投稿して寝て、フォローしてコメント返しして投稿する。
行くぞ、なろうランカーは皆殺しだ。休んでいる暇はないぞ、隆景!!
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後書きでは、ネットでの作品紹介という体で、『歴史改変とは何なのか?』というテーマで、色々と紹介している。まあ、もっと面白い遊び方も有るよ! という案内である。
個人的に好みのものや、過去に流行ったもの~新たな発想が生まれるかも知れない。そう言う提案と思って欲しい。
歴史改変ものとして、正攻法だったり意外な価値観の変化などから、創作物を生み出す事だってある。
別に小説に限った話でもない。ゲームもその一つだ。
特定のゲームはある題材に従って、「もしも~だったら」を叶えるツールでもある。
別にあの弱小国で成り上がり! というものに限った事ではない。
一本のゲームに胸を膨らませた時代もあったのだ……2005年頃の作品だ。
第二次世界大戦をテーマに、どんな国のどんな事も出来るシミュレーションゲームが流行った。
別に、目的を勝つ事に絞る必要は無い。コンセプトとテーマがしっかりとしていればいい。
個人的に面白い世界改変ものとしての読み物『ハーツ オブ アイアンII 世界ふしぎ大戦!』
「https://www.4gamer.net/weekly/hoi2/001/hoi2_001.shtml」
その他、AARという実況プレイレポート
「http://hoi2aar.paradoxwiki.org/index.php?Hearts%20of%20Iron%AD%B6」
とにかく、ユニットのステータスではなく、レベルでも無くコマとしての兵器と外交、戦争を取り扱ったゲーム。文字通り、『何でも出来る!』
イタリア抜きでドイツを、強いイタリアを! 日本でソ連と戦っても良い。
綺麗なドイツも良いだろう。戦争せずに過ごすのもまた面白い。
戦争ゲームなのに……である。要は、どういうコンセプトで第二次世界大戦を過ごすか。
そこに尽きる……ゲームデザインという点では、面白いと思う。
単にコスパや超技術が飛び交う、戦場でなくても良い。それぞれに目的や関係性があり、やりたい事をすれば良い……そこには、ゲームのルールはあっても、遊び方の決まりも無い。
だからこそ、面白かったのだと思う……もちろん、縛りプレイも思いのままだ。
古い作品ではあるが、今でも通用する内容ではないだろうか?