第15話.南蛮航海への可能性は?
1565年……ある意味、平穏無事な五年が過ぎた。
俺にとっては、吸った揉んだの大騒ぎだったのだが、ある意味平和と言えるだろう。
四人の嫁のうち、伊都を除く三人を孕ませて、一男二女を無事に節句まで育てる事が出来たのだ。
「ただの呪い」と馬鹿にした、身代わりの人形が効いたのかも知れない。
ともあれ、ここ暫くはそう言う騒ぎも無く、のどかなものだ。
絶えずくっついて来る、伊都の存在を除けば、な……。
どうにも、二人目の子供を授かる事が出来なかったのが、辛いのか?
いつも一緒に居ると、『おうおう、見せつけてくれますなぁ、殿』などと言われるのも、もう慣れてしまった。
そう言う事情もあるが、俺と伊都があちこちの国を廻りながら、仕事の様子を伺う事になる。
……俺の部下達は、しっかりとした者で何も指示する事が無い。
島と鹿之助は、互角の戦いをするようになった。
経験不足の島を、常に困難な戦場を戦った鹿之助が鍛えまくったお陰だ。
雄利は、弓隊を率いて今日も朝倉家との小競り合いに駆り出されている。
朝倉家も、史実以上にしぶとい。
……主な原因は、浅井長政を筆頭に経験豊富な部下達が連携し、宗滴の薫陶を受けた兵士たちが支える。
寄せ集めの本願寺では、いかんともしがたい差がある。
ともあれ、実戦経験だけは何物にも代えがたいので、強行もせずに長引かせている。
……これもまた修行なのだ。
五年の月日は、あっという間に過ぎて膠着状態となった各陣営がもがいている。
武田家は、未だに上野の長野家をどうする事も出来ないでいる。
信玄の唯一の弱点でもある、城攻めだしなぁ。
聞く所によると、猛威を振るっているのが『剣豪部隊』だと言う。
そんな物、役に立つのかと思っていたが、とんでもなかった。
遠巻きに弓で何とかしようとしても、一直線に駆け抜けて刀の一振りで草を刈る様に、兵士が倒れるのだそうだ。
とんでもない長さの槍をぶん回して、一軍団を撤退させたとか……。
……お伽話の様な、そんな報告が甲賀衆からやって来る。
それにしても、長尾家も武田家もあの城を巡って随分と被害を被っている。
川中島の合戦が無いと思いきや、上野での名将・軍師の死者はヤバい。
死ぬほど欲しがった、勘助やら真田やらの良い武将達がどんどん死んでいく。
うちにも一人分けてくれないかなぁ……などと言っている場合でもない。
朝倉家のすぐ後ろは、越後の長尾家なのだ。
弱体化すると、こっちに被害が及ぶ。
どうにもできないまま、五年がたつ。
斎藤家は、竹中半兵衛を仲介して西美濃三人衆を調略した。
……とは言っても、道三側を守らせているだけで金が貰えるとなれば、ウハウハだろう。
そんな努力の甲斐もあって、未だに国境は小競り合い以上にはなっていない。
伊勢と尾張も同様……今川家は必死で内政をしながら、兵士を増やしている。
どうしてそうなったかと言えば……九鬼の担当が伊勢湾の商船だからだ。
南蛮人も、津島の商人も海賊行為を徹底されてしまえば、干上がってしまう。
そんな理由で大阪の街は繁栄し、尾張はただの農村と化してしまった。
織田信長には悪いが、絶対に南蛮船をそっちにやる訳には行かない。
硝石や鉄砲はこっちで独占しており、大金を積んでも他国に流れない様に関所を設けている……。
いわゆる「入り鉄砲に、出商人」である。
……税金対策は、しっかりと!!
徹底的なこちらの防諜活動で、今尾張や三河で商売する奴などいない。
結果として、こちらの商売圏に人が集まり、活気が出る。
五年前には、絶対にひっくりかえせないと思った東の強国も、今では五分に戦える。
……あと五年もすれば、絶対に勝ちに持っていける。
鉄砲の扱いにも、慣れてきたからな。
雑賀の小僧がもたらした、鉄砲の運用は素晴らしいものがある。
一度、小競り合いで大量の鉄砲を使ったが、兵士が吹き飛んだ。
……まあ、それに見合うだけの銭が飛んだので、それ以降はやっていない。
現代だと『十字砲火』とでも言うのだろうか。
左右両端から、一斉に射撃を繰り返すと、みるみる死人が出る。
鉄砲自体は、それ程改良していない……それでもこの威力だ。
うちの兵士の間では「敵の目の、白い所が見えるまでは撃つな!」と厳命している。
その距離でなら、竹筒の束を使っても貫通出来る。
……当然、鉄砲の弱点位は、織田の家臣連中も知っている。
当たり前のように準備された、竹束への対策なのだ。
一発撃つだけで、大金が飛ぶのはあっちも知っているから、お互い必死である。
そう言う具合で、普通ににらみ合いが続き、どちらも調略に応じる事も無い。
特に、今川家で奴隷のような扱いをされる尾張衆でさえ、こちらの内応に全く答えない。
「嫁さんを沢山囲って、腰を振っているだけの『なまくら侍』に、降ってたまるか!!」とは、信長の弁である。
……それは否定しない。
俺自身、何のとりえもない当主だしなぁ……。
ともあれ、平和な日々を送る事になろうとは……やる事が無いわけではないが、暇だ。
……そうそう、大内家は健在である。
大友家とここが抜けると、九州がどえらい事になるのだが、未だに何も起きない。
別に毛利家を止めている訳でも、積極的に外交している訳でもない。
ただ、石見の銀と明の「明銭」を交換する貿易で儲かっているだけだ。
大内家は、「勘合符」を持つ、唯一の大名家である。
石見で採れる、大量の銀の行き先は、南蛮人か明にしかないのだ。
国内での銀の大口需要は、ほぼ使い尽くした。
一方、日常で使える「銭」の絶対量が足りない。
今の『中国・四国・畿内』と言った大経済圏は、大変な「銭」不足なのだ。
かつて俺が「明銭」しか受け取らずにいたのも、それが原因だった。
……「永楽通宝」の為だけに、日明貿易を続けているのだ。
月に十万貫文もの「永楽通宝」を輸入し、何とか回している状態だ。
積極的に「明銭」と「鐚銭」を取り分けて、わざわざ狭い交易船の中に「鐚銭」を積む。その為に役人を置き、市場から回収するのだ。
……そんな無駄な事をしないと、この経済圏を維持出来ない。
そして、俺の担当は、もっぱら南蛮人となっている。
キリシタン・宣教師と仏教各宗派との関係は、最悪である。
俺が、キリスト教徒と一向宗ばかり贔屓していると、京での噂が絶えない。
こっちが、入って来る宣教師や南蛮人をなだめすかして、日々苦労しているのがわからないらしい。
やれ、土地を所有するな! 役職を貰うな! 物を貰う時は許可を取れ……と言ってお小言を教会に言う羽目になるのは、俺の仕事だ。
京と大和での布教活動を、朝廷への許可を得るための決まり事として、きっちりとやった結果である。
「ご丁寧様な事に」、本願寺のお堂とお向かいに作った教会には、あまり人が訪れる事は無い。
……肝心の修道士や宣教師がいないという理由もある。
それは、俺の今の目標というのが「日葡辞典」なのだから。
その為に、三年もの間、通訳や宣教師を呼び寄せて、隆景と一緒に苦労している。
……今の所、「五千文字」のポルトガル語を書物に写した……大変だったんだからな!!
宣教師は漢字が読めないし、通訳は文字が書けない。
あっちこっちで通訳をやり取りして、ようやく一文字の意味を理解する。
……誰もやりたがらない、この地味な仕事を文句も言わず頑張っているのは、意外にも隆景自身である。
外交も調略も全くできない、この『閉そく状態』の中で、意外な才能を発揮したのだ。
あいつの語学センスは、凄いものがある。
もう、簡単な会話なら、通訳も必要ない。
そりゃあ、毛利家の良くある戦国の『攻めた・殺した』の日々では、絶対に見いだせないわな……その才能。
ともあれ、今日も今日とてロレンスという日本人通訳と、『ルイス・フロイス』という日本好きの宣教師に、カタカナを教える毎日である。
漢字は無理でも、カタカナなら五〇文字だ!!
必死に書き取りをする彼らは、本国に帰れば物凄いエリートである。
欧州でも、トップクラスに頭の良い彼らへ日本語を教え、日本の事を教える毎日。
……船乗りや宮大工を集めて、どうにか『外洋航海』を夢見る日々でもある。
それなりに楽しく、新たな発見もある。
……長い間、叶えたかった『南蛮への旅路』を何とかしようと、必死に行動しているのだ。
俺は、決して腰を振るばかりではない!
……うん。信長君には、そう言っておこう。
ざっくりと更新するこのコーナー、三好長慶と松永久秀をただひたすらに格好良く!
そう言う感じは、出ているでしょうか。
二人とも、晩年のイメージが付き過ぎていますが、武将や大名ではなく、商人なら納得出来るのではないでしょうか。
役割的に、仲介を持ち込むための銭が必要なのです!!
自然とその役割は、武士が務めるのは難しく、商人が重要になります。
なので、私の創作ではありますが、二人ともそう言う気質を持っていた。
そう言う解釈で、投稿しております。
ご意見・ご感想などあれば、コメントをお願いします。
一週間待って下さい。皆さんが泣いて悲しむ「三好長慶」をお見せしますよ!!
こいは商売ぞ。寝首の掻き合いに道理などあらんど……使える手ぇば、何でん叩っ込まねば相手に申し訳なかど。
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読み物として面白く、本編が気に入らなくても後書きでも楽しめる。そう言う作品を目指したい。
例えばコミケ……久しぶりに行ったが、やはり楽しい。
アウラ様の薄い本を探したり、フリーレンのコスプレを見たり、バカゲーの様子を見たり……。
本を買うだけなら、Amazonでも秋葉原でも事足りる。コスプレや同人誌のイベントも多い。
それでもコミケでないと……という理由があるのだ、古いオタクにとっては。
特殊な価値観やオタク的思想、そう言ったコミュニケーションは、そうはいかない。
SCPのネタで『アイスバインちゃん』だの『あの作品はシュタゲだ!』とか、うどんの値段が戦争で上がったとか、高速道路の立体交差で盛り上がったりとか……信長がどんな作品でどう評価されているか、あらゆる文献を調べた人とか……。
スタッフの人が「こみっくパーティー」の南さんのコスプレをしていて、16bitセンセーションで盛り上がったのも楽しいなぁ。やはりあの作品を見てびっくりしたそうだ。
古いオタクのコミケは、午後からが本番……東4から捻り込んで東6まで男津波を避けて、評論を絨毯爆撃……東3でミリオタ・鉄っちゃんを探しながら、会話を楽しむ。
コスプレの東7は行きたかったが、どうせまとめサイトで色々ネットに写真が上がるので気にしない。
4時の終了まで、ぶらぶら時間を潰す。金が無くても楽しめる。
ミリ鉄の所に集まって、万歳三唱をする……この瞬間を味わう為だけにコミケに通っている。
凄い人数で一体感がある……年々増えてきたが、元々ミリ鉄のお遊びの一環だったのだ。
そのうち、そう言う儀式として定着してしまった。
こういうコミケの楽しみ方だってある。本よりも人との出会いが楽しいのだ!!