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第11話.求め、尋ね、新たな門を開く者よ!

 俺達は、誰にも聞かれない様に伏見城の一室を厳重な甲賀の者による警戒を敷き、今回の首謀者との話し合いを行う事にした。


 一見して見れば、松永殿秘蔵の「古天明平蜘蛛」を使って、『猪鍋という名のすき焼き』をする。現代人の俺からすれば、そんな感覚だ。


 そう言う、利休先生の数寄話……表立っては、そう言う話にしてある。


 だが、それをものともせずに平然と食らう「本願寺 証如」。


 ……そして、十字架を付けて「いえ、私キリシタンですから」と、断りを入れる彼の実の娘。おい、どういう事だってば!!


 そして、松永殿は「儂の『()()()()()()』がぁぁ!!」と、叫んでいる。


 実際に、現物を使って煮炊きさせているから、ここで話される事は絶対に解らない。分かる奴がいたら、そいつは頭がおかしい。


 ……何だよ、このカオスは……俺の緊張感を返してくれ!!


 というか、何だよ「()()()()()()」って。


 それは、数百年は先の概念だ……あんた、何者だよ。



 それはともかく、だ。


 ……この厳戒態勢は、そういう風に俺が仕込んだのだ。


 今からする話はあまりにも危険で、これでもどこから漏れるか知れない、秘匿すべき情報だと、俺の勘が働いたためだ。


 ……俺が掴んだ情報と実際の人間に聞き取り、照合しない事にはどうしようもない。そう思ったからだった。


 俺が、今までこの時代に来て初めて、死ぬほど後悔した決断だった。


「……松永殿の嫡男と、三好義継殿。そして三好三人衆が、将軍様と共謀して暗殺の計画、そしてお家乗っ取りを計画している。そう判断致しました」


 ……俺は、歪曲せず甲賀衆が入手した情報をそのままぶつけた。


 これは、殿にさえ極秘で行った調査だった。


 ……当然、調査する事自体に、問題がある行動だ。


 それを聞いて、松永殿の顔色が変わった。


 ……明らかに、何かを知っている顔だ。


「殿……最近、おかしゅうございませんか? お体が急に優れぬようで……何か事情が? それに、義興殿も同じく……顔色が尋常ではありません!!」


 松永殿がそう言うのだ……それは事実なのだろう。


 殿は、永い沈黙の後……重い口を開いた。


 今思えば、聞いてはいけなかった事だった。


「……儂と嫡男である「義興」に毒を盛っておるのは、間違いなく『()()()()()()()()()()本人』じゃ。儂自身、既に毒にて体を壊しておるから解かる……永い年月を掛けねば罹らぬような、僅かな毒……そのような物じゃ……身内以外に、用意出来る者はおらん!!」


 安宅殿が酒を飲む手を止めた……。


 信じられない、という顔でこちらを見る。


 長年、一緒に殿を支えてきた松永殿でさえ、信じられないという顔だ。


 実休殿は表情を変えない……もしかすると、理知あるこの方は、既に知っていたのかもしれない。


「……殿、これは本当なのですか……自らの家を滅ぼすような悪行を認める、という事に他なりません!!」


 俺は、思ったままの事を述べた。松永殿も実休殿も、安宅殿も……誰も答えない。


 答えられる訳が無いのだ。


 俺は、俺には……嫡男たる「三好 義興」を毒殺しようとし、当主かつ父親たる「三好 長慶」を暗殺する手引きをする、あの「三好 義継」という男が許せなかった。


 それは、俺が必死に守って来た事を侮辱し、否定するものだったからだ……。


「殿、我々にとって由々しき事態です。一致団結して、内乱を滅ぼして……この国を統一させねばなりません!!」


「是非も無し……儂とて気付いておったわ。息子共の異常に……それを無視した、儂への報いなのだろう。『戸島 大輔』よ。お主に頼みがある……そちの若さと知恵なくば、叶わぬ事なのだ……」


 そう、殿が俺に語り掛ける。


 ……俺にそれを背負え、と言うのか? 無理だ、そう思った。


 だが、にっこりと微笑んだ慈母の表情で、彼女は微笑んだ。


「……ええ。それこそ神の御心……必ずや、神のご加護がありましょう!」


 ……まるで預言者かと思われるように、はっきりとそう答えた。


 いや、おかしい……彼女の考えは『異常すぎる』のだ……。


 ……生まれと信仰、なぜか二つを結びつける『何か』がおかしいのだ。


 どうして、そのような事を許す……?



 俺は、その時気が付いてしまった……知らねば良かった、と後から死ぬほど後悔した。


 だが、聞かずにはいられなかったのだ。


「なぁ。証如の爺よ……何で、仏教徒のアンタが子供を作って肉を食い、娘にキリスト教を信心させているんだ? おかしいだろう、普通は止めさせる筈だ!!」


 俺は、現代日本人の感覚として、そう言った。


 ……仏教徒と浄土真宗、似て非なるものだと思う。


 なぜ、このような教えがこの日本にのみ信仰されるのか?


 俺の問いに、証如と名乗るこの破戒僧は、暫く口を開かなかった。


 ……彼の長い、()()()()があった。


 その雰囲気に誰も、何も言えなかった。それほど重い沈黙だった。


 まるで、ここが誰にも聞かれる事の無い、密室である事を再確認するようでもあった……。


 そして、険しい顔に戻った、本願寺の僧正である証如は言った。


「そなたに、我らが『本願』の神髄を伝える……それはな『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』という……異国の経の一節じゃ」


 それを聞いて、俺は驚いた……それは、まさに『()()()()()』そのものだったからだ。


 ……どうして、この時代の本願寺が「()()()()()」の一節を、それも『本願』として語り継ぐのか?


 ……俺には、どうしてもわからなかった。


 それは、もはや仏教ではない。異教を受け入れ、それを実践している彼らは一体何者なのか。


 何故、()()()()()()を名乗らないのか?


「不思議そうな顔をしておるな。無理も無い、これは西洋の経典じゃ。これを聞いた伴天連の坊主がおれば、ここが彼らの求めた国だ、と喜ぶじゃろうて」


 ……どこかで聞いた事がある。そもそも、大航海時代とは遥か遠方にある、理想のキリスト教国「()()()()()()()()()」という国を探し求めていたのだ。


 何故、そんな物をわざわざ探そうとした理由は分からない。


 そして、もしこの日本がそうだったとしたら……。


「そうじゃ、お主の思っとる通りじゃ。この国に異教がはびこっておると知られれば、奴らの食い物にされる。じゃから、秘密なのじゃ」


「どうして、その教えを思いついたのですか?」


 俺は、自然とそう尋ねる。



 そんな物、勝手に思いつく筈は無い。誰かが学んだのだろう、と。


「儂も詳しい事は知らん。開祖が末法の世で、救われる為の『何か』を求め、異国の経を読んだのではないか……そう思っておる」


 ……確かに『他力本願』という理念は、一神教と思われる節がある。


 だからと言って、それを知った俺にどうしろと?


 今、教団を皆殺しにすれば良い、というものでもない。


 かと言って、この秘密を外国人に教える訳にも行かない。


 そんな事をすれば、この世の終わりとなる。


 ……カソリックの植民地? それとも、約束の地として移民が来るのか?


 そんな事、御免被る。


「……この事、他言無用ぞ! 今から、本願寺一派は俺に従って貰う!!」


「ふふ、そう思うておった。この秘密、墓まで持っていくには重すぎるのでな。ワシの娘をめとれ。こ奴しか、本願寺にその秘密を知る者はおらん」


 この破戒僧め!! 自分の心の責を、娘に背負わせやがったな!


「クソ、このくそ坊主! 安心しろ。てめえの妄言は、全て貰い受ける!」


 俺には、それしかこの事実を背負う事が出来ない。覚悟を決めるしかない。


 ……生まれた子供のみに、その事実を伝えて未来永劫隠しておく。それしかない。


 日本が、その事実を知るのは、まだ数百年は早い……。


 自らの知恵によって、宗教そのものを裁く事が出来る、そんな世の中……それまでは秘しておくべきだ。


 ……そして、それを叶えぬ限り、子々孫々まで民衆を騙し続ける事になる。


「とりあえず、京都に本拠を立ててやる……石山御坊から退去しろ。あそこは、新しい拠点として使うからな。坊主もこちらに渡せ……今後は「一向宗」とだけ名乗れ!」


 ……証如は、これは妙手! とばかりに喜んだ。


「ふはは、強欲じゃのぅ……ワシは、良い婿を得たわ。これで、無事に極楽浄土へ行けるわい」


 彼女は、自らの行く末も知らぬように、きっぱりと言い放つ。


「お父様、宜しゅうございましたね。これも、神の導き……ご加護があらんことを!!」


 ……やめろ、おい。


 この国を亡ぼす気か、全く……このキチガイ共め!!


「朝倉家には、一矢報いたいのだろう? まずは、伊勢と大和を取れ。さすれば、加賀百万石はくれてやる……そこで、幾らでも念仏を唱えろ!!」


 ……残る手段は、隔離しかない。加賀という地さえ与えれば、最悪日本全てを渡さずに済む。



 後世、俺は世の中の宗教を塗り替え、()()()の代表・()()()()()として侮蔑されるだろう……。


 それでも構わん。残された手段など、もう何処にも無いのだ。


「殿、三好家も一連托生ですぞ! こうなれば、我らが三好家が本願寺を支配するしか、この国を守る手立てはありません!!」


「うむ、是非も無し。実休よ、そちの娘を嫁がせて三好家を継がせるぞ……儂等の息子では、この事態を収拾出来よう筈も無い故な」


「分かり申した。(それがし)が従えば、家臣一同納得しましょうぞ!!」


 実休殿がそう言って、安宅殿にも同意いただいた。これでほぼ決まりだ。


 ……大殿、いえ。もはや、『元当主様』と呼ばねばならんとは……その覚悟、死ぬまで背負い続けまする。


「申し訳ありません、このような事になるとは……どう詫びれば良いか」


「……謝るでない、我らが『殿』よ。それが、お主が選んだ道でもある。そして、我々にはそれしか無かった。そうであろう……?」


 「三好 長慶」である、かつての大殿は静かにそう言う。


 それが、その言葉が、どれ程に俺の心をかき乱すか……この場にいる者が、それを一番よく知っているだろう。


 しかし、残された道はない。本願寺と三好家……二つの衣鉢を俺が継ぐしか手段は無いのだ。


「今、この時より儂が三好家の当主である……我らに背く、不届き者を討つべし!!」俺は、もう戻れない道を選んだ。


『……ははっ!』


 皆が頭を下げる。俺はそれに応えるために、丁寧に頭を下げて「三好家」を継ぐ覚悟を決めた。


 ……俺は、当主としての一文字を継ぎ、新たな名である『三好 義輔(よしすけ)』にならねばならない。


 その覚悟を以て(もって)、皆に頭を下げ続けた。

驚愕の事実、という名の茶番。


……とはいえ、あながち嘘という訳でもありません。


東洋に流れてきたキリスト教自体は、歴史上存在します。


()()()()」という名をご存じか?


 どのような形かは知らないが、何らかの形で「アジアに流れたキリスト教」があった。


そして、大航海時代の初期には「プレステ・ジョアン」を探すという目的がポルトガルにはありました。


もし、間違って「浄土真宗=キリスト教」と認められたら? という歴史改変なのです。


間違いなく、ポルトガル人の耳に入り物凄い勢いで征服された可能性がある。


……それ位、ヤバい説なのです。


それを開祖の子孫が語る……ギリギリ、アウトですよ……全く。


なので、この話では「加賀本願寺」を滅ぼした朝倉家を倒す手伝いの為に、「三好家」が同盟を組んだ、そう言う形を取っています。


……実際には、全く逆なんですけどね。


とはいえ、シリアス路線とギャグ路線を行ったり来たりしながら、この流れで天下統一=海外に対抗出来る勢力を目指す。そう言う方向性は決定しました。


このまま行くと、アジア諸国のポルトガル勢力を討ち滅ぼして、ヨーロッパ上陸ルートという、ステキ未来が待っています。


その先陣は、織田信長! というのも楽しそう。


※作者、マジで書籍化で書きおろしの為に、サクサク物語を進めております。本気です。やりたい事を書き切って、外伝的な部分を書かずにいるのです。オマケを取っておく。そう言う方針でございます!!


一方、この破戒僧たる『証如⇒跡継ぎの顕如けんにょ』がレギュラー入りしそう。


マリアの宗教観……本願寺+プロテスタント+エセヴィーガンという出鱈目なものだ。面白そうなので、色々と混ぜた。現代の感覚とは、勿論違う筈だ。


そこら辺をクローズアップしたお話も考えている。クリスチャンなのに、一夫多妻も「神のお導き」で許容して、本願寺で読経を済ませて、教会で祈りを捧げるとか……ちょっと変な感覚なのだ。


この面白坊主と娘が語る開祖「親鸞」と「法然」という、もう一つの「歎異抄たんにしょう」というトンデモ歴史も番外でやりたいなぁ。


※顕如では、年齢的に娘がいない為に「親の証如」と相成りました。史実では1554年に死んでいるけども……ちょっと寿命を延ばして、ね。


 多分、これを伝えて満足して成仏しそうw


―――――――――――――――――――――――――――


本物のキチガイというものは、とてつもなく面白い……関係ない所から見る分には、という奴である。


「~の主役は我々だ!」という作品を見た事があるだろうか。本屋に割りと並んでいる。


当時のインパクトはすさまじかったのだ。それがこちら。

【HoI2】第二次世界大戦の主役は我々だ!part5【ゆっくり実況】

「https://www.nicovideo.jp/watch/sm15973200」


いやあ、ゆっくり実況の淡々としたモノローグから、美しい戦列……そして凄まじいプレイヤー同士の掛け合いと裏切りや頑張り。


そう言ったものを一切、ぶち壊しにするキチガイ。誠におぞましい!!


だがそれが良い……やはり、当時のインパクトは凄まじい。十年近く見ていない筈なのに、感動してしまう。

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