01
お久しぶりの投稿です。
エタらないように頑張りたいけどもうエタりそうです。
頑張ります。
酷い夢を見て目が覚めた。
SF映画でしか見たことがないような白塗りの部屋の中で、これまた白い手術台の上に寝かされて身体を機械に弄り回されている。そんな、妙にリアルで気持ちの悪い夢。
何度も何度も繰り返し見せられる悪夢は、いくら見慣れたとはいえどその不快感を拭うことは出来なかった。
酷く乾いた喉を潤す為に、懐にしまってあった水筒を取り出して、ゆっくりと液体の流れを感じとるように喉に流し込む。
「おいおい新汰、現場に着く前からそんな調子で大丈夫か?」
「普段からアホ面で空を眺めてるだけのお前でも、流石に初任務では緊張するのか!」
一緒に輸送ヘリに乗り込んでいる部隊のみんなが口々に俺に対して軽口を吐いてくるが、心配が故の言動であることは理解出来るため、特に腹が立つことは無かった。
「そりゃあ、さすがの俺だって緊張くらいはしますよ。安心してください、そこまで抜けてることは無いはずなので!」
本当だと言いがな、という中村隊長の笑い混じりの声につられ、部隊員の多くから笑いが漏れて空気が緩む。
ふと窓の外を覗くと、眼下に広がるのは崩壊したかつての東京都。
瓦礫と無数の理解不能な構造体で埋め尽くされた、あまりにも混沌としているおかしな場所が今回の俺たちの任務地だ。
「……きれい」
隣に座っていた越智後さんが窓の外を見つめて恍惚とした表情で呟く。
確かに、それらの由来を知らずに見てみれば、巨大な植物や異質な構造体たちのその様子は、写真集やガイドブックにでも載せられるくらいにはそこそこに美しく見えるような気がする。
「そろそろ目的地点に到着するぞ。今回は新人2人の初遠征だからな。お前らしっかり面倒見てやれよ〜?」
中村隊長が隊員たちに声を掛けると、口々に彼らは、面倒を見るのはアンタの役目だろうが、こいつらと立場が変わらん俺達に押し付けるな、などと抗議の声が漏れる。
元々皆軍人でも自衛隊でもなんでもない、一般の市民がアラン事件後に調査院に所属し、志願してここに配属されているという経緯はあるので、やる気こそあってもこのように雰囲気は緩めなのがこのチームの特徴、というのは母から聞いた話だ。
「はいはい! ヨージさんもバキンさんもそんなこと言っちゃうと、私たちクソ雑魚三銃士は即乙っちゃいますよ!! なるべくみんな仲良くしておいて、お互いにカバーできるようにして行かないと!」
元気よく他の隊員達にそう声をかけたのは、越智後さんと同じく研究者として参加している、佐藤さんだ。
やたらと明るい性格で、そのためにみんなのムードメーカー的なところがあるとても親しみやすい人なのだが、大事なところで落ち着きが無いのがなんとも言い難い。
「そう、それだよ俺の言いたかったことは! よく言った、でかしたぞなずな! そういうことだから、2人のことはあとは任すわ!」
ガハガハと笑いながら、資料に視線を落として真剣な表情へと戻っていく隊長を見ると、なんというか、そんなことは全くもって感じる必要は無いのだろうけど、上の立場の人間に面倒くさい新人を押し付けられたからいやいや対応しました、みたいな風に思っているのではないだろうか、などと無駄にネガティブに考えてしまう。
……事実それはほとんど間違いではないと思う。俺には調査院の事実上のトップである母の一存でこの部隊へと配属されたという少々触れづらいだろう経緯がある。
加入してから2週間足らず。まだ馴染むという程の交流も出来ておらず、かなり居心地の悪さを感じているというのが正直な感想で、この独特な完成された空気感に今から内気な自分が馴染んでいくには、相当な時間と労力が必要だろうことは想像に難くない。
「隊長、目的地に到着しました。今から当機を回収するので、各員パラシュート装備お願いします」
輸送ヘリを運転してくれていた柴田さんが皆にアナウンスすると、全員がその場で立ち上がり、各々の荷物の最終点検を始める。
「全員準備はいいな? このまま真下の倒壊したビルの側面に着地する。気ぃ抜くなよ」
中村隊長の声に各々が返事をすると、それを聞いた柴田さんが「では、10秒後に回収します。衝撃に備えてください」と淡々とした声で再びアナウンスを行う。
そしてカウントが始まり、場に沈黙が訪れると共に、異様に長く感じた10秒は呆気なく終わりを迎え……
突如として先程まで乗っていたはずの輸送ヘリがその姿を消し、足場をなくした隊員全員がアランエリアの上空へと投げ出される。
(聞いてはいたけど、やっぱりいきなり実践はだいぶ無理あるって……)
頭の中でぶつくさと文句を言いつつ、パラシュートを開こうと事前に演習した通りの手順を行う。
行ったのだ。
……だがしかし、どうしたものか。何がどうしてかパラシュートは微塵も開く素振りを見せない。
やっっっばいなこれ……
地上に到着するまでは後約30秒ほど。
このまま硬い地面と衝突すれば、見るも無惨な、ろくに原型をとどめていないゼリー死体になることは間違いないだろう。
大してその辺の知識というか雑学は持っていないけれど、自分の体がペシャンコに潰れてしまう姿だけは何となくイメージとして頭に浮かんでいる。
(一か八か、やるしかないか……)
まだ人間大程の物を実験台にして成功した例は無いが、今自分に考え付くものはそれしか無かった。
(座標を細かく指定している暇は無い。下には誰もまだ降りていないから隊員のみんなの付近を指定するのも無理……地面までは最初の予想通りならあと十数秒。座標を自分の真下550m程に指定……その場の物質と自分の位置を指定。交換実行!)
気がつくと自分は地面に膝から下が刺さった状態で埋まっており、自分の目の前数メートル先には、地面にぶつかって壊れたのだろう、つい先程までは固まっていたような雰囲気のある石の破片がある。
恐らくあれは自分の足の形をしていたのだろう。その状態を見るに、砕けた音を聞いた覚えもないので、自分は少しの間気絶していたのかもしれない。意識がそのまま永久に飛んでいかなくてよかった。更に言うなら頭に当たらなくてよかった。
初めての人間サイズの交換だったが、無事に成功してよかった……今日の俺は幸運だな。
自分の足の周りを覆うビルの外壁を目の前の砕けた石片で叩きながら、何とか足が動かせるだけのスペースを確保し引き抜く。
思いの外劣化が激しかったのか、簡単に砕くことが出来た。
上を見ると降下中の他の面々がまだ親指の爪ほどの大きさで頭上の空に浮かんでおり、あまりに早く落ちすぎてしまったことにかなり不安が募る。
まさか気絶していた間にも降りてきていないとは。むしろそんなに長く気を失っていた訳ではなかったということだろうか。
しかし、お願いだからヤツらがこちらに気づくまでにみんな降りてきてくれと願うことしか出来ない。
「お願いだから幸運ついでにこのまま来ないでくれよ〜」
ポツリと独り言を呟くとまあ不思議。あなたの立てたフラグを全力疾走で取りに来ましたと言わんばかりに、奥の森から何かがドタドタと音を上げて走ってくる姿が見えた。
幸運でも何でもねえや。嵐の前の静けさってやつだっただけか……
「まずい、インベーダーだ……皆さん聞こえますか! 先行して降下していた本宮です。地上にインベーダーを確認しましたので降下地点の変更を提案します!」
急いで緊急時の連絡を行ったが、誰からの応答もないまま場にはインベーダーの足音だけが響く。
彼らの姿のようなものはぼんやりと確認が出来るので、恐らく機械の故障などで対応出来なくなっているのだろう。
「ウソだろ?」
気の抜けた声が喉の奥から自然と漏れ出る。
インベーダー。
世界の虚からもたらされた謎の粒子にあてられて変異した人間の成れの果て。
公には世界の虚から這い出てきた異界の化け物ということになっているが、あれはある意味俺たちの未来の姿であることは間違いない。
粒子に当てられた人々は、強力な現実改変能力、現実侵食能力などと呼ばれる力を持っている。
それらをわかりやすく説明するなら、自由自在に現実の出来事を改竄、進行させることが出来る魔法のような力と例えるのがわかりやすいだろうか。
実際目の前の巨大な犬のような化け物は、先程までは快晴だったこのビル周辺の天気を、この廃墟感に似合うような特大音量の雷と豪雨に変えてしまった。
おい待て、まだ上に人残ってんだぞ!
『██████!!』
単語とも取れるような、しかし意味は全く理解できない遠吠えが、崩れかけているビルを激しく振動させる。
「ほんとに勘弁してくれ!」
初めての任務の一番最初のフェーズで、訓練時に接敵したら死ぬと思えと言われてたような化け物にあうことになるなんて……
なにか悪いことでもしてしまったのだろうか。今から反省しても間に合わない?
おふざけはさておき、もう隊長たちのことまで構ってはいられない。全員自分のことは自分でなんとかしてもらわなければ。
「まだ不安定だし、アランエリアではあまり使いたくなかったんだけど」
地面を見回してビルの側面に窓を見つけると、先程と同じ要領で石片を使って叩き割り、中に侵入する。
床に固定されていたらしいデスクの側面に立つと、そのまま床に手を触れ、時間を6年前に指定する。
そして、ビルの時間を逆行させる。
徐々に真っ直ぐに元の形に修復されていくビル。
屋上方面を陣取っていたインベーダーは、うまくいけばこのまま地面に叩きつけられることになるだろう。
しかし実際はそんなに簡単な話では無いようで。
『██████!』
落下し始めたインベーダーが再び遠吠えを放つと、周囲の木々が急成長をし始めて、インベーダーの元へ無理矢理その枝を伸ばしていく。そして、鳥の巣のような形を作り上げると、インベーダーはその中に落下していく。
「マジかよ……」
巣に向かって猫のように回転して着地したインベーダーの姿を見て、じわじわと自分の死が近づいているのを感じる。
逃げるにしたって単純な速度では負け、そうでなくても地形を自由自在に操ることが出来るあちらの方に地の利があることは明らかだ。
「ここまでかぁ」
掠れているような、囁いているようなか細い声が自身の口から漏れ出たことに気づき、あまりの情けなさに、小さく笑いながら涙が溢れ出す。
自分よりも遥かに大きいものの時間を逆行させたことによる反動もあり、能力自体も使うことが難しそうな、倦怠感に近い感覚もそれに
目の前のインベーダーが大きく口を開いたかと思うと、その口腔になにか、赤黒いマグマのような塊が集まりだす。
塊に合流することが出来なかったそれが巣に落ちると、接点を消し飛ばすようにどんどん地面がえぐれていった。
……一体どうしてそんなに危ないものをこちらを向きながら集めていらっしゃるのでしょうか。
というか溶岩が地面を滑るように流れるサンプル映像を思い出した後にこれをされると、当たればどちらにしろ死ぬだろうとはいえども、想定外の特性に身の毛がよだつ。
足がすくんで動けないなんて状況、小説でしか見ないし、なんならそんなこと起こらないだろうとなんとなく思っていた。
しかし、実際このように体験をしてしまうと、創作の中だけのものであって欲しかったという、諦めを含んだ感情がじわじわと染み出てくる。
一体どのくらいの時間が経ったのだろうか。ゴポゴポと荒い音をたてて大きくなるそれが、良い勢いでこちらに向かってきたと同時に、視界が白い光に包まれ、目に激痛が走る。
「イッ゛!?」
強烈な痛みにより、悶えながら声にならない悲鳴を上げたところで、俺の意識はプツリと幕を閉じてしまった。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
また次回も読んで頂けると幸いです。
よろしくお願いします。