第九話 魔法実践
翌日、王宮に行くと早速魔法についてミュリーに教わることになった。
「許可もなく勝手なことを言われるなんて、おかげで教育の日程が狂いました」
とため息を吐きながら言っているが、鞭をふるってくる様子はない。参加自体で叩かれたり、拒否されることはなさそうだとホッと息を吐く。
「流石に、魔法が全く使えないままでは、私の名前にも傷がつきます。とはいえ、無造作に教えるわけにはいきませんね、昨日と同じです、復唱して下さい」
うっ、また何かしら縛る気なんだろうか、とはいえ杖をちらつかせられると、何も抵抗することができない。
「ミュリーに対して攻撃することも、魔法で呪いを解いたり、傷を治すこともしません」
言われた通りに福証をする。魔法で呪いを解かない、ということは、やっぱり呪いは魔法で解けるということなんだろう。といっても、わざわざ呪いを解く必要がない気がしてくる、自分が傀儡になっていく様子に寒気がしそうだ。
「さて、まずは魔力が流す感覚をつかみましょうか、こちらに触ってください」
そういわれたら、青い宝石のついた杖を手渡され、その杖を掴む。ズンッと自分の中で何かが引っ張られていく感覚におそわれた。その流れる感覚に合わせて宝石が輝き始める。けど、これ疲労感半端ない。確か、魔力は使い過ぎたらだめだと、フラメウが言っていたはず。そう思って杖から手を放そうとすると上から手をおさえられた。
「何勝手に離そうとしているのですか。まだ、放してもいいなんて言っておりませんが?」
うわぁ、やばそうでござる。すごい、貧血でも起こしてるかのようにクラクラしているのですが。放すことは許されず、体に力が入らなくなり、その場にへたり込んだ。立とうとしても、足に力が入らず立つことができない。その状態になると、ようやく杖が回収され手放すことを許された。
「魔力は平均より高めといったところですね」
そう言ってミュリーがしゃがむと、急に自分の足にアンクレットを付けられた、少しサイズが大きいがぽわっと光ると、足にフィットするようにサイズが縮んだ。
「そのアンクレットは外すことができません。一種の魔封じです。私の意思で魔力を封じるも、アンクレットを通して罰を与えるも思いのままです、一度味わっておかれますか」
絶対に嫌である。慌てて首を振ると、何もせずにミュリーは立ち上がった。
「大人しくされていればよいのです。さて、前準備も終わりましたし、魔法の実践に移りましょう。魔法に関してはあとで資料を渡すので、翌日までに覚えてきてください。テストをしますから。間違えたら間違えただけ罰が厳しくなりますよ」
うへぇ、覚えるの苦手なうえに、これ帰ってからだよね。今日休む時間をとることできるのか? いや、できそうにもない。
「これがお嬢様の杖です、最初は信号魔法ですね。杖から、赤い球が上空に打ち出されるのを想像して、魔力を流し込むのです。さぁ、やってみてください」
タクト型の杖が手渡される。シンプルなものではなく、小さい宝石が散りばめられていた。杖はともかく、この状態で魔力を流し込めと? まだ足に力も入らないんですが。試しに魔力を流し込もうとするが、流れる魔力の勢いもなく、魔法が発動するほど流れ込みそうにもない。
「なにだらだらとされているのですか?」
そういうと、鞭を取り出し見せつけてくる。ビクッと体が震えて、考えるよりも先に全力で魔力を杖に叩き込む。気持ち悪く吐きそうになるが、どうにか杖に魔力がたまった。それを上に向けて一気に打ち出すと、赤い球が上にうちあがる。
「良いでしょう。次は順番に攻撃魔法を覚えていきましょう。手本を見せますので、相殺すれば良いです」
ん? 相殺? だいぶ嫌な予感がするぞ。
「まずは、水の魔法から行きましょうか」
そういうとホースから噴出されたような水がこっちに飛んでくる。動くこともできず、お腹に水を受けた。勢いがあるせいか、鈍器で殴られたような衝撃に倒れたまま咳き込む。
「できるようになるまで終わりませんよ」
そういうと、容赦なく次々と体に叩き込まれていく。魔力が足りない上に、慣れていないせいか具体的に想像して魔力を流すという工程に時間もかかって間に合わない。だんだんと、ミュリーの杖が視界に入るたびに、頭が真っ白になって何も考えられなくなってきた、体の震えもおさまらない。魔法を使おうとする気力も無くなっていく。
「水の魔法一つにいつまでかかっているのですか。本当に出来損ないですね」
あぁ、そうか。何も出来損ないだからできないのか。
「流石にこれ以上外傷が増えると死にますね。やり方を変えましょう。今からお嬢様を水の泡に閉じ込めるので、泡を破くイメージをして杖に魔力を込めるのです」
といえば、泡が体を包んできた。呼吸ができずに息苦しくなっていく。
「げほっ、はぁはぁ……」
意識がなくなりそうになった瞬間泡が消えた。その場でむせた後に、必死に息を吸う。すぐにまた泡が体を包んだ。どうにか破らないといけないのだが、どうせやっても無駄だという思いが頭を支配して、何もすることができない。結局、授業の最後まで成功することはなかった。
「また、翌日ですね。では、言っていた資料です、翌日までに覚えてきてください」
立てる程度に魔力を流し込まれ、腕を掴んで立たされた。その状態で本が手渡される。辞書のような分厚さが3冊分だ。覚えるどころか、1日で読み切れるかどうかさえ怪しい。明日がどうなるのか、暗い気持ちになりながら、屋敷に戻った。