第五話 教育係
翌日から早速王宮に呼ばれた。向こうで先生になる人と顔合わせをして、あいさつの練習。その後、王妃様にご挨拶。挨拶後、また先生とマナーの勉強。それが終わったら王子とお茶をして帰宅、という流れのようだ。いずれは、王妃様から直接、いろいろな指導があるらしいけれど、そこまでは先生に教わることになるようだ。
「……、あれだけやっても婚約が白紙にならなかったのほんとなんで、無理だって、勉強漬けの毎日とか」
じたばたベッドで少し暴れてみる、こちとら庶民だぞ、庶民舐めんな、礼儀作法とか知らんわっ。それに加えて、婚約者になったということは破滅に一歩近づいたわけで。ぐぅ、どうにか王子の前でおバカ路線を貫くしかない。
「はしたないですよ、お嬢様。ほら王宮に行くのですから、しっかりと準備なさらないと、座ってじっとしてください。あ、それから、私は王宮についていくメイドから外されました、侯爵夫人のメイドが監視にくっついてくるようです。お気を付けくださいませ。勉強中は難しいでしょうが、それ以外では、できるだけ王宮の人の目がある場所にいるようにしてください」
うっ、まさかのフラメウはついてこれないのか。振り返ると、不安そうにこちらを見ている。こっちもめちゃくちゃ心配だよ。
「子供に言うことではないとは思いますが、王妃様は国の中でとっても偉い人です。王妃様には侯爵夫人も逆らえません。つまり、王妃様にかわいがられるようになれば、侯爵夫人もお嬢様に手を出しづらくなります。気に入られるように頑張ってきてくださいませ」
上手く立ち回れってか、確かに子供に言うことじゃないわな、まぁでも、確かにその通りだ。王妃なら、女性の社交に与える力は絶大のはず。味方にすれば、今後の生存率はぐっと上がると思う。
「が、頑張ってくるわ」
身だしなみを整えれば振り返りそう言った。フラメウはにっこりと笑うと頭を撫でる。部屋をノックする音がして、部屋から出ると、母付きのメイドがたっていた。叩かれているときに笑いながら見ていた監視役の一人だったか。母には確か、キャシーと呼ばれていたかな。そのまま馬車に連れられてのせられる。他の人の目がなくなると、メイドは腕を掴んできた、傷口があってかなり痛い。意地悪く笑ってるから、これは多分わかっていて掴んでる。
キッと睨みつけたら、袖をずらされ棒のようなもので腕を叩かれた。
「っぅ!?」
「言い忘れていましたが、奥様からお嬢様に躾をする許可を頂いております、先生も奥様と近しい方でしっかりとお嬢様を躾けるように言い渡されています、反抗的な態度は慎まれた方がよろしいですよ、そうでないと」
ピシィ! ピシィ! と何度も腕を叩かれる。
「こうやって、何度も痛い思いをすることになりますよ。良いですかぁ、お嬢様。これはお嬢様のためです、お嬢様の悪いうわさはあちこちに広まって、味方なんていません、そんなお嬢様でも一人前になれるように、躾けているのでございます」
幼女をぶったたく教育があるか! この人格破綻者が!! とおもうが、繰り返し言われるうちに、言われていることが正しいような錯覚に陥る、言葉がとても近くに聞こえて、ぐるぐると頭を廻っている感覚が気持ち悪い、自分の思考をまるで上書きされているかのようだ。
「ついたようです、躾はまた後で」
スッと、袖を戻されると馬車の扉があき、王宮へと入っていく。まださっきの気持ち悪さが拭われない、何かされたんだろうか。少しおぼつかない感じになりながらも、案内についていき部屋に入る。
「ティア様でございますね、私、ティア様の教育係を努めます、ミュリー・コロンでございます。ミュリーとお呼びください。では、さっそくあいさつの練習を致しましょう、王妃様の挨拶で粗相をするわけにはまいりませんから。良いですか? ドレスをこう掴んで、片足だけ後ろに引きゆっくりと腰を下げます。この際に、決して背筋を曲げないように。今回挨拶をするのは王妃様なので、深く腰を下げ頭も下げること、また、許可があるまでその姿勢を崩してはなりません。では、実際にやってみましょう」
手本を見せられながら説明を受けた後、見様見真似でやってみる。これ、思った以上にキツイ上に、傷口がめっちゃ痛いんですが!? とりあえず形を作ると思いっきり鞭で叩かれた。
「背中が丸くなってます、それに腰が十分に降りていません、もう一度」
ここでもまた鞭か!! この世界の人はなんだ、幼女を痛ぶるのが趣味なのか。勘弁してほしい。もう一度繰り返すと案の定、また鞭が飛んできた。
「言ったところが直っておりません、本当に侯爵夫人が言われた通り、出来の悪い人ですね」
言われただけで、ホイホイできてたまるか!! とめっちゃ言ってやりたいけど、言ったら絶対鞭が飛んでくる、とにかくやらなきゃ私の体がもたない。
でも、繰り返せば繰り返すほど、足が疲れてプルプルするし、傷も増えてあちこちジクジク痛む。良くなるどころか、やる度悪化している、結局上手くできず、疲労困憊のまま挨拶に向かうことになった。