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第三十六話 ヒロインの正体

教室につき、その後講堂での長い話を終えてまた教室へと戻ってきた。本格的な授業は今日はないけれど、自己紹介などは今日済ませてしまうようだ。ざっと教室を見回すと、エテとエリクは別クラスで、殿下とニュアとヒロインが同じクラスになるようだ。


ちなみにゲームだと、エテと殿下とヒロインが同じクラスで、悪役令嬢は殿下とクラスが分かれている代わりにエリクが同じクラスにいた。この辺の差異はなんなんだろうか。そんなことを考えていたらいつの間にか自分の自己紹介の順番が来てしまった。スッと立ち上がると、当然ながら周りの注目がこちらに集まる。こ、この大勢の中、私は中二病な言葉を口走るのか……。絶対に空気が凍る、死ぬ。い、いや、でもいじめ問題に巻き込まれて、面倒ごとにはなりたくない、これはやるしかない。


「ティア・アウローラと申します。ぐっ、こんな時に限って右目が疼きますわね。失礼、私、右目に呪を纏わせることにより、雷の力を得ましたの。時々目が疼きますけれど、その呪に触れない限り他者には影響を及ぼしません。不用意に呪について触れないようにお願いしますね」


いいきったぁー!! もう、いますぐ床にしゃがみこんで転げまわったり、全力疾走で教室を飛び出したい衝動が激しいけれど、どうにか詰まらず言って涼しい顔で座ったぁー! 殿下、あの、笑いをこらえ切れていないですよ。そしてニュアの残念な子を見るような目が痛い。何故かヒロインは頭を抱えながら机に顔を向けている、お前は何があった。そして、他の人は顔を見合わせながらひそひそと何かしゃべっている。予想できていたけど、この空気、ほんとにつらい。


「え、えーと、では次の方お願いします」


何も触れずに、次の子に自己紹介を回した先生ナイスすぎる。次の子がハッとして立ち上がり、とりあえずさっきの空気は霧散して、きちんと無難な自己紹介が続いていく。少しづつ平常心を取り戻したころには、自己紹介をしていない人も少なくなってきており、ヒロインに順番が回っていた。


「ミレーユといいます。貴族ではないので家名はありません。右手に黒炎、左手に氷の力を宿し、ドラゴンを封ずる使命を背負った聖女です。よろしくお願いします」


ぐあぁぁぁぁぁ!!! 古傷!! 古傷がえぐられるぅぅぅぅ!!! それ、私の中二病時代の設定なんですけどおぉ!? 聖女設定は違うけど、大体同じ、なんでヒロインにそんな設定がくっついているの!? せっかく落ち着きかけていた空気がまたざわついたのだけれど。


そのあとのことはよく覚えていない、とにかくヒロインが何故か私の中二病時代の古傷をえぐったあと、放心状態のまま学園での一日が終わってしまった。


「いつまで放心しているの? ほら、帰ろう?」


くすくすと笑いながら殿下に軽く肩をたたかれ、夕方になっていることを知る。いや、これ、放心しないほうが無理だよ。とは思いつつ、いつまでもいるわけにはいかないので立ち上がると、目の前までヒロインが歩いてきた。


「……、優華」


こっちに来て初めて呼ばれた、前世での自分の名前に思わずヒロインを凝視してしまう。


「なんで……」


なんで、自分の名前を知っているのか。さっきの自己紹介での、中二病の設定。私が作った設定を知っているのは一人だけ。頭に知り合いの顔が浮かんできた瞬間にヒロインの手を握った。


「殿下、申し訳ありません、失礼いたします」


そのまま走って二人になろうとしたが、殿下が視界の隅にうつり慌てて挨拶して、空き教室へと向かう。


「美香、だよね」

「やっぱり、優華だった。あの設定でまさかとは思ったけど。何勝手に人の古傷えぐっているのよ、もう少し大人しく自己紹介をするはずだったのに、確かめるために、お互いに傷口を広げあう結果になっちゃったじゃない」


美香だ。私が知っている美香だ。そう思った瞬間に、じわっと涙がたまるのを感じた、次々と涙が溢れて止まらない。思わずしがみつくように抱き着いてしまった。


「ちょ、な、いきなり何!? まったく、久しぶりに会えてうれしいのはわかるけど、そこまで泣く? 調子狂うなぁ。それとも、こっちで何かあって抱え込んでた? あなたって自分の事は碌に話さないもの。それに、ゲームでのティア・アウローラって虐待されてた悪役令嬢じゃない。殿下と仲が悪そうには見えなかったけど、家庭環境はどうなの? 嫌なことされていない?」


背中を撫でて宥めるようにしながら聞いてくれるミレーユの様子に少しづつ落ち着いていった。


「……、うれしくてつい、ごめんね。大丈夫。ほら、殿下との関係性も変化しているように、家族との関係性も違うから」


虐待の話がどこまで呪いの影響を受けるかわからず、それならと心配かけないように何もないように言ってしまった。


「それならいいけど。何かあったらすぐに言ってね。こっちに来て戸惑ってばかりだったけど、事情を知ってる優華もいてくれて心強いし、それに地震の後どうなったか気になっていたから。こっちに来ているってことだから、まぁそういうことなんだろうけど、どっちにしろ元気な姿が見れて、また会うことが出来てよかった。これからよろしくね」



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