第三十四話 サプライズ
「言える範囲でざっくり説明するとね、勢力が二つあるんだ。一つは、王子である私を時期王にと望む勢力、もう一つは王弟、私の叔父を時期王にと望む勢力がある。私の婚約者候補であるティアやその家族はもちろん、王子派になるんだけど、教会が王弟派でね。表立って何かをしているわけではないから、他の王子派が治癒魔法の習得に行くことはあるんだけど、ティアに関しては、私から見て重要人物に当たるわけだから、手を出されない保障がないんだ」
なるほど、というか思い出した。王弟に会ったときに、なんかのエピソードで出た気がしていたけど、かなり特殊な条件のバッドエンドだ。実は出すのが最難関と言われているので出したことはないけど、攻略情報は見たことがある。
そのエピソードだと、王子と王様が退けられ時期王に王弟がなり、教会が権力を得て、王子が退かれる過程でヒロインも亡き者にされたはずだ。おそらく今の話は、このバッドエンディングにつながる話なのだろう。
「わかりました、治癒魔法を教会で習得しようとするのはやめておきますわ」
ヒロインが亡き者にされるぐらいなのだ、現時点で私が近づくのは相当危ないと思っていいだろう、そう思って了承すると殿下は、とてもホッとした様子だった。
「っと、真面目な話になっちゃった。そんなつもりはなかったんだけどな。ニュア嬢も、エリクも一回訓練を止めてもらえるかな、今日のために用意したことがあるんだよ、ティアと一緒に私についてきて」
そういうと、殿下は私の手を引き先導するように歩いていく。さらっと手をつながれてしまった。
しばらく城内をあるくと、部屋の扉の前についた。部屋の扉の前ではエテが腕を組んで立っている。
「だいぶまったんだけど」
「ごめんね、ちょっと色々話していたらね。この部屋でちょっとやりたいことがあるんだ、ティア扉を開けてみてくれる?」
殿下は手を離すと、そっと私の背中を押した、振り返ると殿下に催促されたので、おずおずと扉をひらく。
「……、ケーキですか? それにこの内装」
華やかに部屋中飾り付けられ、真ん中のテーブルにはケーキがおいてあった。部屋の隅にはプレゼントの箱が置かれている。
「誕生日パーティーをあの記憶のまま終わらせたくなくて。僕が個人的に君の誕生日パーティーを用意したんだ。招待客は、今ここにいる全員。招待をうけてくれるかな」
流石にこの場面で否といえる人はいなかった。全員が部屋の中へと入り、椅子に座る。
「ティアお誕生日おめでとう。これは、改めてのプレゼントね、時間がなかったからいろいろ作る時間が無くて、普通のものにはなっちゃったんだけど」
いったい何をつくるきだったんだろうね、すでに殿下の開発した杖なしで魔法を使えるネックレスを貰っているのに。思わず苦笑をしつつ、殿下からのプレゼントを受け取る。
「誕生日にもドレスを頂きましたのに。ありがとうございます、殿下」
そっと、リボンをほどくと中からは、小さな花束を抱えたクマのぬいぐるみが出てきた。
「これはキキョウの花ですね、ぬいぐるみもかわいいです」
ふんわりとした手触りで、触っているとどことなく気持ちが凪いでくるかのようで、自然と口元が緩む。
「喜んでくれたみたいでよかった、じゃあみんなでケーキを食べようか。二人きりも考えたんだけど、せっかくのパーティーだったからできるだけにぎやかにしたかったんだ。急に誘ってごめんね、用意を手伝ってくれたエテも、急な招待を受けてくれたエリクとニュア嬢にも感謝しているよ」
にぎやかにしたいという言葉の通り、いろいろ用意していたようで誕生日ケーキを食べた後はゲームをすることになった。
「よし、じゃあ次はババ抜きで遊ぼう。同じものがあったら真ん中に出してね」
そういわれて、同じ数字を真ん中に出してい……
「あの、なんでか場にジョーカーが八枚ほどでているのですけれど」
おかしいな、ジョーカを一枚だけにしてジョーカーが手元に残るゲームではなかったのか、そして一つのトランプセットにジョーカーが八枚あるのも聞いたことがないのだが。場に出ているジョーカーに目を奪われた後、手札に視線を戻すとジョーカーが三枚あった。おかしい、ジョーカーは一枚ももっていなかったはずなのに。
「「あ、ごめん、つい普段の癖で」」
エテと、殿下の声が被った状態で苦笑しながら言ってくる。いったい普段どんな遊びをしているのか。そのとなりでは、エリクがわなわなと肩をふるわせている。
「またやったな、なんだよこれ、一人だけゲームがちがうだろっ!!」
そういってみせられたエリクの手札には、実に様々なジャンルのカードがもたれていた、もはやトランプでさえない。
「とりあえず、最初に私が上がりましたわ」
「「えっ!?」」
騒いでいるエリクの隣で、次々とカードを2枚揃えて場に出していくニュア。カードを他の人から抜き始める前に、勝者が決まってしまった。殿下とエテは、どうやってニュアが上がったのか分からなかったのか、二人でぎょっとした顔をしている。
「まさか、同年代でイカサマ負けするとおもってなかったんだけど」
「まぁ、イカサマなんて人聞きが悪いですわ。殿下を謀ったり致しませんわ」
といいながら、ニュアは挑戦的ににやりと殿下とエテの方を見て笑っている。そこからのゲームが三人の独壇場だったことはいうまでもない。




