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第三十二話 書庫の鍵

屋敷に戻るまでの間、母親はずっと不機嫌だった。帰ったらどうなることかと思ったけれど、何事もなく部屋に戻らされ、ほっと息を吐く。


「お嬢様、貴女様に触れさせないと大口をたたいたのに、この始末です。申し訳ございません」


部屋に戻り私が椅子に座るなり、アントラが跪いた。


「三人を庇いながら一人で二人なぎ倒せという方が無茶です、それに、だれも死にませんでした。感謝しています、アントラ」


三人庇いながら、一人でどうにかできたほうがびっくりだ。あの状態で全員生還できただけで十分すごいことだろう。それに、誰か死んでいたなら、巻き込んでしまった罪悪感でとんでもないことになりそうだ。重傷を負わせてしまったことに変わりはないけれど、だれも死ななかったことがいくらか心の救いになっていた。立つように伝えると、申し訳なさそうにしつつもアントラは立ち上がり、普段のように控えていた。


「お嬢様、ご無事で何よりでした」


フラメウにぎゅっと抱きしめられる。母親に抱きしめられたときのような冷え冷えとしたような感覚ではなく、ほんの少しだけ息を付けるようなそんな気持ちになった。


「さぁ、お嬢様、お疲れでしょう? 今日は早めにお休みくださいませ」


紅茶を飲みながらゆっくり過ごした後、早めに寝るように言われた。頭がぼんやりして、疲れているのが分かるため素直にうなずき布団にもぐって目を閉じる。


“数少ない味方には迷惑をかけてまでどうして生きているのですか?”


ほんとうにどうしてだろう?


“あなたなんて産まなきゃ良かった”


あぁ、こっちは前世の母親か。別に仲直りはしたんだけど。今世の母親にも同じことを思われていることだろう、どこまでいっても私は望まれないのか。かわるがわる、いろんな人の顔が出てきては罵倒してくる。耳をふさぐことも目を閉じることも出来ない。


「お嬢様!!」


体をゆすられて目を覚ました、気が付いたら外が明るい。あぁ、夢だったんだ、とても気分が悪い夢を見た。


「旦那様がお呼びです。着替えたら参りましょう」


母親から呼び出されなかったと思ったら、珍しく父親からの呼び出しみたい、いったい何の用事だろうかと思いながら服を着替え、アントラとフラメウを連れて父親の部屋に入る。糸目の物静かな雰囲気の見知らぬ女性が部屋の中にいた。


「来たか。体は問題ないようだな。あぁ、部屋にいる人物について、先に紹介しておこう。ジェインがいなくなったから、その代わりの護衛だ」


心底要らない。また、嫌な護衛じゃなきゃいいけどなんて思いながら、流石に要らないとは言えないので相槌を返しておく。


「レティ・ハーモットと申しますわ、よろしくお願い致します、お嬢様」


にっこりと笑って挨拶をいうと、アントラと同じように部屋の端に控えた。


「誕生日会の騒ぎで少なからず名に傷がついた。幸い、王族からの覚えがめでたいので、殿下の婚約者から降ろされるようなことはないだろうが、他家からの手出しがあったり、今回のような騒ぎがまた起こる可能性もないとは言えない。本来であれば、家を継がないお前に見せるつもりはなかったのだが、他家に婚約者の立場が奪われるようでは困る。そこで、書庫の閲覧許可を与える、より勉学に励むように」


そういって、書庫の鍵を手渡された。もしかして、エテが言っていた珍しい魔法の書物がある書庫だろうか。というか、本当にこの人、名声のことしか頭にないのだろうが。娘が大けがした翌日にいうことがこれなのだから溜息を吐きたくなる。用事はもう終わったようなので、早々に部屋を退出して自室に帰る。


「お嬢様」


自室に入り、扉を閉じた瞬間にずずっと、レティが私の目の前に立つ。それをみて、フラメウが警戒したように私の側に来た。レティは、私をじっとみながら手をだした。


「今日は殿下が城でお会いになるそうですよ! そこでですねっ、こんなリボンをつけられたりしませんか? あ、こんなアクセサリーはいかがでしょう♪ こんなかわいらしい姿にアクセサリーをつけたらどれだけ映える事でしょう、もうそ……、想像しただけで私はっ、あぁ、どれだけ楽しみにしていたか、おわかりになりますかお嬢様!! さぁ、いますぐおめかししましょう、この時のために私、たくさん用意したのです!!! 私、とても幸せですわっ」


手にはフリフリなリボンがあった、それだけでは足りないと思ったのか、いったん手を引っ込めると、次々とアクセサリーを出し始める。あ、警戒心たっぷりだったフラメウがずっこけた。怖い顔をして、アントラが近づいてくる。


「レティ! お嬢様が驚いているでしょう、貴女の勢いでお嬢様に接してはいけないとあれほど、あ、ちなみにそちらのラベンダーのブレスレットがとてもよくお似合いだと思います」


おまえは、レティを止めに来たのか、この事態をさらに混沌とさせにきたのかどっちだ! あぁ、なんか頭が痛くなってきたなんて思い、頭を押さえつつ口をひらく。


「あの、レティ? あいさつした時と印象が違うのですけれど?」


物静かな雰囲気というのを訂正させてもらおう。実にうるさ……、騒がしい。いや、ジェインのようなのが来るよりましなんだけど。


「旦那様の前でしたから、我慢していたのです。我慢していた私に、お嬢様を飾り立てる褒美をくださいませっ」


ずずいっとレティが、にじり寄ってくる。その勢いに思わず後ずさると、怒りを込めた表情をしたフラメウが、私とレティの間に立った。


「レティ、さっきから黙って聞いていればあなた……。お嬢様を飾り付けるのは私の仕事です!!!」


私がずっこけることになった。


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