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第二十九話 傷一つ許さない(アントラ視点)

今回は、アントラ視点で話が進んでいきます。

わがまま放題の癇癪持ちの令嬢、それがお嬢様の評価だった。とはいえ、関わることはないだろうし、人の噂も気にする性格ではないためそんなに気にしてはいなかった。ある時を境に、勤勉、優しいと良い噂も流れ始めた。そしてその頃に、ひょんなことから、お嬢様の護衛をすることになる。


お嬢様に出会って、目を見てどことなく危うい人に感じた。


恐怖、絶望、諦め、警戒、虚ろな様子から読み取れそうなものはこれぐらいのものだろうか。少なくとも、子供がこれだけ覇気がないのも珍しい。フラメウに対する感情については、さっきの感情は薄れて戸惑いが強くなっているように見える。なんというか、優しくされなれていないという感じがする。フラメウ以外の屋敷の人からは悪意を感じた。父親からは何も感じなかった、無関心なのだろう。


護衛になって少し経った日に、お嬢様は誕生日を迎えられた。少しどうかと思ったが、短刀を渡すことにした。特殊な魔法陣が組んであって、悪意がある人に投げるだけで発動するようになっている。屋敷内に悪意を持つ人が多い、少しでも護身になればと思った。まさかすぐに使う事態になるとは思いもしなかったが。


誕生日会は何事もなく進んでいるかのように思えたが、事態が一変した。見知らぬ使用人がお嬢様に近づいてきて、飲み物を渡してきた。咄嗟に飲むのを止めて、侯爵に報告をする。すぐに閉鎖する話になったが、どうにも侯爵の顔色が悪い。


そんなことをおもっていたら、目の前で侯爵が倒れた。こちらも気持ち悪い、どうにも視界がグラグラする。誕生日会で私は何も口にしていないのだが。どうにかお嬢様をこの会場から……、そう思ったところで意識が途絶えてしまった。


目を覚ますと、殿下のご友人であるエテが解毒してくれていた。


「あ、起きた。ニュアよりは起きるの早かったな、あ、状況を説明します。といっても、割と最悪な状態なので端的に。毒が空気中にまき散らされていました、飲み物と食べ物自体にも毒が仕込んであります。どの毒も意識を奪う程度で、致死性は高くないです。で、皆が倒れた後に、ティア嬢が飲み物を渡してきた使用人に連れ去られました。エリクもその時一緒に。とりあえず、ニュア嬢が、ティア嬢を知っていて回復魔法が使えるので、起こして助けに向かわせました。けど、全く戦力が足りないので、加勢しに行って下さい。地図はこれで」


何故、場所が分かるのか、事態を全部把握しているのか聞きたいことはいろいろあるのだが、とりあえずお嬢様が攫われたということと、場所が分かるならそんなものは後回しでいい。説明が終わる成り、脱兎のごとく走る。これ以上、お嬢様が悪意に晒されてほしくはない。


無事でいてほしい、そう願ったが遅すぎた。着く頃にはひどい傷を負って、誰かに追い詰められているところだった。


「お嬢様!! 短刀を!」


咄嗟にそういうと、短刀を投げてくれたようだ、相手が怯んだ瞬間にお嬢様と相手の間に入り込む。よくみたら、同じ護衛のジェインじゃないか。本来護るべき立場が、お嬢様を傷つけていることに頭が沸騰するほどの怒りを覚える。


冷静になれと、自分に言い聞かせる。怒りで視野が狭くなるようなことがあってはいけない、お嬢様も怪我をしているが、一人は意識がないレベルの重傷、一人はこの状況で精神的に参って涙を流している。護衛対象は三人、こちらは一人。ジェイン以外の敵がまだいるのかは不明、視野が狭くなればそこをつかれて、護衛対象を失うだろう。


冷静に確実に、ジェインの攻撃を弾く、間違っても後ろにいる三人がくらうことのないように。あぁ、同い年の子供は涙まで見せているのに、お嬢様は涙も流されない、いつものように虚ろな目をしている、精神状態がすごく心配だ、早く決着をつけて側に、そう思えば思うほど焦りが出てきて視野が狭くなる。


冷静になれ、ジェインは隙をみせればすぐにお嬢様たちを狙おうとする、お嬢様たちに攻撃をする暇を与ないぐらいに攻撃を仕掛け続けて、こちらに意識をやらざるを得ない状況を作り続けないといけない、そのためにすばやく剣撃を繰り返すが、ジェインの剣に何か仕掛けがあるのか剣が交わるたびにずしりと体が重くなるのを感じる。大きな攻撃に転じることも難しく膠着状態が続いていく、そのときに別の気配がした。


最悪のタイミングだ。しかも、最も今お嬢様に近づいてほしくない人でもある。まさか、ここで前の教育係が出てくるとは。会ったことはないが情報は確認している。お嬢様が尋常でないほど怯えているのがみえた、それと同時に魔法がお嬢様に飛ぶのが見える、咄嗟に体がお嬢様の元に向かおうと動いてしまった。


「よそ見ばかりしているなよ」


剣を受け損ねて、肩から刃が入る。もう少しかわすのが遅れていたら、首に刃が入ったことだろう。あぁ、くそっ、守りに行くこともままならない! 幸いにもお嬢様は自身の魔法で身を守ってくれたようだが、護衛対象ありで敵が護衛対象を挟むようにいるという状況は最悪に等しい、援軍が来ないと間に合わなくなるぞ、内心舌打ちをしたい気持ちになった。


剣をうけてなおさら体が重く、思うように動かなくなり、攻撃を仕掛けるどころか防戦一方になる。自分の後ろ側では、たっぷりと毒を含んだ言葉がお嬢様に対して向けられていた。あぁ、やめろっ、それ以上そんな言葉をお嬢様に言うんじゃない! 冷静にいくらなろうとしても、怒りを抑えきることが難しく爆発しそうになった瞬間、お嬢様が何かを祈り倒れた。


低い地響きが鳴り響くと激しく大地が揺れる。あまりの揺れにバランスを崩したがジェインも同じようだった、咄嗟に剣を捨て杖を持ち、バランスを崩しながらもジェインへ雷を飛ばす。


「よそ見しているのは、お前でしたね」


反応できずに、雷を浴び倒れたジェインにもう一度電撃を飛ばす。次は防ごうとする気配もなかった、とりあえず意識はない、しばらく起きることもないだろう。教育係の方に視界を向けると、お嬢様の周りに何か障壁でもあったのか、教育係は大きく弾き飛ばされ、揺れのせいで体を起こすこともできず這いつくばっていた。しかしその手にはしっかりと、杖が握られている。ぶわっっと、殺気を強く感じるとともに、教育係から魔法がお嬢様に向かって放たれた。


咄嗟に同じ強さの魔法をぶつけて相殺をする。冗談じゃない、これ以上お嬢様を傷つけられてたまるか。相殺をしながら、大地を這うようにお嬢様達の近くに行き、すっぽりと覆うように魔法の障壁を作り上げた。何十にも、何十にも丁寧に障壁を重ねていく。視界が揺れるのは、大地が揺れているせいなのか、魔力が枯渇する勢いで障壁を作っているせいかもわからない。


教育係は立ち上がっていた、では揺れているのは大地ではなく視界か。ぐわんぐわんと痛む頭をおさえつつ、無理にでも立ち上がり、お嬢様の前に立つ。


さぁ、こい。全部の障壁がたとえ壊れたとしても、全ての攻撃を受け止めてやる。飛びそうな意識を叱咤して、じっと障壁にぶつけられる魔法を睨み続ける。


……いつまでそうしていたかわからない、障壁が一枚、また一枚と壊され徐々にこちらに攻撃が到達しそうになっているのを見ていると、人の気配が増えた。


「あらあら、ボロボロですわねアントラ」


知り合いの声にふっと口元を緩ませた。あぁ、援軍だ。そう思った瞬間、意識は暗転した。

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