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第二十八話 対面

祈った瞬間辺りが眩しく輝いた、思わず目を閉じると、真っ白い世界にいた。あちこちに映画のフィルムのようなものが浮いている。


「前世の記憶を所持するとやっぱりこっち側に来てしまうことになるのでしょうか?」


ふわっと、目の前にシスターのような恰好をした金髪の女性が現れた。独り言らしきものを何やらぶつぶつと言っている。最初に祈る様に言ってきた声によく似ている気がした。


「あなたは一体?」

「アリアです、といっても今回がイレギュラーなだけで、本来人間と関わり合いを持つ存在ではないので、あまり意識しなくて良いですよ。私が、あなたの人生の中でなにかをすることはありません、私の人生は別の時間軸、別の世界で既に終了しているんです。とはいえ、こうなっては幸せになれるツボを売りつけれる相手もいませんし、見守るだけって私の性にあわないんです、なんていったって善良なシスターですから。暇なのと、人の被り物をした化け物は私が最も嫌う存在ですから、ちょっとこらしめれないものかと苦難が多そうなあなたにひっそりと憑りついていたわけです」


その場で、くるっと回転しながらにっこり微笑むとアリアはそういった。一度動くのをやめると、スッとツボを私に差し出した。なにやら、とてもキラキラとした笑顔をむけている。


「これ、幸せになれるツボなんです、一個30万のところをなんと今ならたったの15万でお譲り致します、こんな幸運滅多にないですよ、いかがですか?」


雰囲気だけは、とても神聖なシスターに、なんだか怪しい商売を繰り広げられている。今は一銭も持っていないが、あったとしても買わない。というかそのツボどっからでてきた。


「あるいは、こちらのハンカチ。ツボより効果は薄いですが幸せになれますよ。こっちの上質なハンカチは、なんと守護者が現れます、まぁ、どれも現実にもっていけませんが」


次々と、ツボとハンカチでアリアの周りがいっぱいになってしまった。シスターではなくマジシャンの類のようにも見えてくる。


「って、ここはどこ!?」


思わずアリアのペースに呑まれてしまったが、思えば戦いの真っ最中だったはずだ。何故か、今の今まで記憶のかなたまで飛んでしまっていたのだけれど。


「あぁ、よかった。私ほど重症だったわけではないようですね、きちんと現実を覚えていらっしゃるようで良かったです。もう少し商売をしていたかったのですが仕方ありません、説明しましょう。一種の精神世界、あなたの心の中です。心の中には、こんな風に過去におきた事が永遠と流れているんです」


アリアは、フィルムを指さしながら言った。前世の記憶の方だ。美香と楽しく談話しながらお昼ご飯を食べている。


「あなたが意識すれば、悲しいフィルムは見ずに、幸せなフィルムだけを見て、ずぅっと楽しい記憶と一緒にこの世界にいることが出来ます。この世界は、世界を拒絶し傷ついた心をどうにか守りたいあなたが閉じこもるためのスペースですから。本来世界を拒絶しようと、死ぬほど心が傷つこうと、こちら側にやってこれるほどではないのですけど、前世の記憶があるでしょう? 記憶というのは便利な反面諸刃の剣です」


ふっと、悲しげにアリアは笑った。笑顔だけでよくこんなに表情を表わせれるものだ。


「前世の記憶があると、常人にはありえないものが残ってしまうんです。それは死の記憶。人は前世の記憶を便利なのにどうしてもっていかないのか、そういうシステムだからといってしまえばそれまでなんですけど、死の記憶そのものが、魂にとって耐えがたいものだから通常はもっていかないんです。死んだはずなのに生きていることになっている、前の器とは違う器に入ってしまっている、魂は矛盾にとんでもなく大混乱をおこすわけです。一つの魂に一つの人生が鉄則です。それが魂のキャパというものです。それを超えたところで、魂が爆発したりはしませんが、非常に不安定になるわけですね。そこにストレスやらで負荷がかかると、本来やってこれないはずの精神世界に迷い込む結果になるわけです。つまり今のあなたですね」


一通り喋ると、アリアは言いつかれたようにその場に座った、じっと記憶のフィルムを見つめている。


「とりあえずここにいれば、あなたの心が傷つくことはありません。まぁ、肉体は現実世界にあるのでちょっとわかりませんが、ここにきてしまった以上、自力で出れるようなものじゃありません、誰かが呼びに来てくれるのを気長に待ちましょう」


ほんの少しだけ気だるげな雰囲気でゆっくりと伸びをした。時折、光の玉がアリアの側に来るとアリアはその光の玉に対して、懐かしむように目を細めている。


「その光は?」

「これですか? 私の守護者のようなものです。説明していくときりがなくなるので、あなたに関係ありそうなことだけ言いましょうか。まぁ、こっちで話した内容なんて、ほぼ向こう側では忘れてしまいますけれど。貴女の世界で近いのは光の粒子でしょうか。まったくの別物ではあるのですけれど。守護者は、守護対象を守りたくて存在しています。光の粒子はいわば大地の守護者になるのでしょうか、大地に住まうものを守りたくて存在している者です。魔法というのは、その粒子を使役して現象をおこすもの、ざっくり過ぎる説明だとそうなりますね。もう一つできることがあって、大地が守りたがっているのですから、ただ大地が守ってくれるようにお祈りすればよいのです」


少しだけ投げやりな雰囲気でそういった。


「例えばですけど、あなたは、“あ”の発音が“あ”ときこえるようになるにはどうしたらいいか、と聞かれて分かりますか? わたしにとってはそれぐらいなんてないものなんです。大地がこちらを守ろうと動いているから、具体的にどう守ってほしいかを伝えているだけのものなんです、お祈りというものは。普通の人はそんなことできないからやり方を教えてほしいといわれることもあるのですけど、本当にただただ、伝えているだけなんです。あなたも祈ればできたでしょう? 私が憑りついたことで私の力があなたに影響を与えているせいでもありますけど。あ、お呼びがかかりましたね」


ピシッと、白い世界に亀裂がはしればアリアはそちらを眩しそうに見上げた、アリアの視線につられて亀裂をじっと見つめると、亀裂からまばゆいばかりの光が差し込んでいる。


「亀裂に向かえば、貴女は元の苦しい現実へと逆戻りです。こっちにずっと閉じこもることもできますよ、さぁ、お好きなほうを選んでください」



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