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第二十五話 逃走

薄暗い場所にいる、ここはどこだろうか。頭が鈍く痛み、頭をさすりながら体を起こす。じゃらりと何かが擦れるような音がしてそちらを見た。手に、手錠がついてそこから鎖が伸び、杭かなにかに繋がっていた。


「力づくじゃ外せなかったんだ、とりあえず目が覚めてよかったです」


エリクが隣にいたようだ。起きたこちらを心配そうに眺めている。たしか、エリクはあのとき使用人を探しにその場から離れたはず。そのあと何があったのだろうか。


「使用人を探しにいったんです。そしたら急に何かに殴られて、気が付いたら」


ここにいた。ということなのだろう。あれ、そういえば、私の隣には王子がいたはずだ。王子の姿を探すが周りに姿が見えない。


「あの、殿下は運ばれてこなかったのですか?」

「いや、殿下は見ていません」


別の場所にでも連れていかれたのだろうか。それとも殿下を襲うつもりはなかった? いや、でもそれなのに殿下がいるような場所であんな大掛かりなことをするだろうか。考え込んでいると、扉が開く音がした。


「ミュリー……」


扉から姿を現したのは、かつての教育係だった。杖を向けられてひゅっと息をのむ、体に嫌な汗が流れるのを感じた。


「お嬢様のせいで、教育係を解任されたどころか、私はあちこちで立場を失いましたわ。お嬢様は責任を取る必要があるとは思いませんこと?」


まったくもって思わない、自業自得じゃないかといってやりたいが、喉がカラカラと乾いて声が出ない。


「まぁ、その前に聞きたいことがあります。お嬢様は一体殿下に何をされたのでしょうか? 何かに弾かれて触れる事さえかないませんでした。お嬢様が何かしたのでしょう?」


弾かれた? それが本当なら、殿下を運ばなかったのではなく運べなかったことになる。何かをしたような記憶はないし、魔法は意識がなくなれば発動できないし、離れたら影響もなくなるはずだ。


「とぼけるおつもりですか? 殿下が纏われていた障壁からはお嬢様の魔力を感じました。まぁいいです、お嬢様が口を開きやすいようにして差し上げましょう」


お腹に鈍い痛みが走る、勢いよく水をぶつけられたみたいだ。授業の時のことが頭によぎれば、ガタガタと震えが止まらなくなる。


「お、おい! あんた、何やってんだよ、正気かよ!!」


エリクが、怒鳴り声をあげながら鎖をどうにかしようと、手に力を入れていた。それでもやっぱり外せないのか、顔を歪める。


「うるさいですね、黙らせても良いのですよ。あぁ、でもお嬢様は痛めつけられるのは慣れていらっしゃいますよね。お友達が傷つけられる方が喋りたくなるかしら」


杖がエリクの方に向けられた。サッと、エリクの顔が青ざめる。やめてと叫ぼうと口を開いた瞬間に首元で何かが揺れたのを感じた。そうだ、ネックレスで簡単な魔法なら使うことが出来たはずだ。


「や、やめてください……、全部お話しますから」

「あら、話す気になったようね」


にっこりとして、こちらに近づいてきた。この距離なら、と電撃をミュリーに飛ばす。ミュリーはぎゃっとカエルが跳ねたような体の動きをし、意識をなくした。あまり威力は強くなかった、すぐに目を覚ますのではないかと慌てながら、エリクの手錠の真ん中にかまいたちを飛ばす。上手く手錠が左右に分断されたようだ。


「あ、ありがとう、って直ぐに逃げるぞ、ティア嬢の手錠も早く」


丁寧な態度はかなぐり捨て慌てた様子で伝える、急いで自分の手錠と鎖も風で切った。が、その瞬間じゅっと背中が燃えるような感覚に悲鳴をあげながらのたうち回った。


「よくもやってくださいましたね」


ミュリーの意識が戻ったようだ。杖の先端に火の玉がある。再度それを振ろうとしたが、エリクがミュリーを突き飛ばした。


「いくぞ」


グッと腕を掴んで先導して走る。扉を開けると、森に出た。もしかして、メファールの時に迷い込んだ森だろうか。


「どこにいけば……、とりあえず小屋からは離れるぞ」


後ろから、ミュリーが来ているのを見れば慌ててその場から走って逃げるが、子供の足なうえに背中も痛くあまり速く走れない。


「逃がすぐらいなら、さっさと殺すべきね、殺せば殿下にかかった余計な魔法も消えるでしょう」


巨大な渦巻きがこちらに向かってくるのが見えた。さすがに簡単な魔法だけでは防ぐことができないだろう。急いで逃げるが、何かに引っかかりその場でこけた。


「お、おい、大丈夫か? 急げ、渦巻きが」


足を止め声をかけるが、目の前に渦巻きが見え、慌てた様子になる。すぐに立ち上がろうと地面に手をついて立ち上がろうとした瞬間、手に何かが当たった。これにひっかかったのだろう、視線を向けると見慣れた杖が目に入った。失くしたフラメウからもらった杖だ。


ぐっと、力を込めて握れば、どことなく力が湧いてくる気がした。立ち上がれば渦巻きに向けて杖を向け振る。


巨大な渦巻きが巻き起こり、それをぶつけて相殺した。ばしゃああぁぁと、雨のように渦巻きの水が散る。


「こちらに来てくださいませ!」


女の子のこえがすると、ミュリーの顔の周りに煙幕がはられていた。振り返ると赤髪が見える。ニュアだっただろうか、どうしてここにいるのだろう。


「説明している暇がないことはわかりますでしょう!? はやく!!」


確かに、今はそんな場合ではない。煙幕が薄くなってきているのが見えれば、慌ててニュアについていった。

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