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第二十四話 変色

「ほら、ティア嬢が緊張しているからあっち行きなよ」


普段のにこやかな笑顔で、殿下は幼馴染のエリクをしっしっと追い払うかのように手を振っていた。


「心配しなくても取りやしないよ、敵に回すの怖すぎるし」


苦笑いしながら王子にそう返す。バリバリににタメ口だが、王子が気にしているような様子はない。気心が知れた仲ではあるのだろう。ゲームでも、この二人、仲が良かったはずだ。


「あ、噂の魔法使いですね」


また一人増えた。これも攻略対象だ。侯爵家長男、エテ・ジュウィエ。エリクと違ってあまり動くのは得意ではない。その代わりに頭がよく、よく本を読んでいる。魔法もかなり器用に使えるようだ。こちらも、殿下とは親密な風に描かれていた記憶がある。ゲーム内だと、ヒロインに勉強を教えたり、おすすめの本を教えたりしていたようで、本の話で盛り上がるうちにヒロインに惹かれる。そんな中、ヒロインがいじめられているのを知り、情報や証拠を集めることで悪役令嬢断罪に貢献する。


「エテ・ジュウィエです。よろしくお願いします。ところで、アウローラ家といえば、珍しい魔法の書物を何冊も所持していると聞きました。ぜひ今度読ませてほしいです」


アウローラ家にいますが初耳です。なんで家の人よりも家の事情に詳しいんだ、本だからか、本の虫め。初対面あいさつでいきなり本について話題になると思わなかったよ。


「え、えぇ。機会がありましたら」


無難な社交辞令を返しておく。社交辞令で言っているのが分かったのか、エテは何か考えているような様子だった。


「エテ、ティア嬢に何かしようとしていないよね?」


凄みのある笑顔で、王子がエテに詰め寄っていた。怖いのだが、エテは気に留めている様子がない。


「家人に気に入られるか、令嬢が欲しいものを用意したら、交換条件で見せてもらえないかなと」

「ティア嬢が欲しいものは私が渡します。ティア嬢は何が欲しいですか?」


くるっと、こちらに向き直るといつもの笑顔で尋ねてくる。欲しいものと言われても難しいんだが。王妃にも言われたな。


「そうですわね、私の魔力を増幅させるようなものが欲しいですわね、来るべき日に備えなければなりませんもの」


欲しいものは特にないのだけど、王子の期待のまなざしが重くてそれっぽいことを言ってみる。


「すぐには難しいけど、研究してみるよ」


杖の代替品と言い、結構私関連で忙しくなってないだろうかこの王子。それだけいろいろしてくれるとさすがに私も自惚れるんだが。ヒロインが現れないならなぁ、もう少し自惚れておけるのだけど、ヒロインが出てからの王子のリアクションを確認してからじゃないと、流石に不安だ。


しばらく挨拶が続いて、あいさつの列が途切れた。もう一人攻略対象がいたはずなのだが、攻略対象の姿はない。どうやらパーティにはでていないようだ。挨拶が途切れたところで、会場にある料理に手を付ける。相変わらず味が分からない、周りが美味しそうに舌鼓しているだけに少しだけ残念に思う。溜息を吐きながら、使用人が配って回っている飲み物を飲もうとした。


「お嬢様お待ちください」


黙って控えていたアントラが急に声を出し、腕を掴んできた。


「先ほどの使用人、この家で見たことがないのですが」


言われてみれば見たことがないような顔だった気がする。といわれても、使用人を全員自分が把握できているかどうかも怪しいし。と、おもいながら使用人の姿を探すべく辺りを見回すが姿が見えない。


「その飲み物、少し調べようか」


エテが近づいてきてグラスをとると、何かの粉を入れた。グラスの中の飲み物が赤色に変化する。


「何かまでわかりませんけど、何かしらの薬品が含まれているようです」

「ちょっと探してくる、さっきの使用人だな」


エリクが、さっきの使用人を探すためにその場を離れた。


「わたしはすぐに、出入り口を封鎖するように伝えてまいります」


アントラは、犯人が逃げないように封鎖することにしたようだ、侯爵に事情を伝えに言っている。

それにしても、急にこんな事件が起きたせいか、頭がクラクラとする気がする。


「令嬢? もしかして……」


エテが、こちらをじっと観察した後に、料理に駆け寄り粉を振りかけたが、具合悪そうにエテが倒れた。次々と、会場にいる人が倒れる音がしていき、あちこちで悲鳴が上がる、アントラと侯爵も倒れていた。料理は赤色に変色をしている。


視界がぐらぐらと揺れ始めた、倒れかけたら殿下が慌てて支えてくれたが、殿下の顔色もあまりよくない。殿下は料理をまだ食べてなかったはずなんだけど。


「料理以外にも毒がどこかに……、だんだん毒が強くなっている気がする、離れよう」


あまり力の入っていない手で、腕を引っ張り連れて行こうとするが途中で殿下が倒れた。がしっと、力強く肩が捕まれた。背中に棒状の何かが押し付けられひやりとしたような心地になる。


ビリっと痛みが走ると視界が暗転した。


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