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第二十三話 お誕生日会

メファールでの事件も通り過ぎ、しばらくすると雪がちらつく季節になっていた。忘れていたが、この悪役令嬢の公式設定の誕生日は冬である。これまで、全くもって祝われた記憶もないのだが、称号を賜った令嬢として、あちこちで噂になっていることで、お祝いがないというのはどうにも外聞が悪いらしい。加えて、称号を賜り婚約者としての立場が安定したことで、お近づきなりたい貴族が沢山いるようだ。政治的な意味で父は非常に乗り気であり、全くもって迷惑なことに誕生日パーティが開催されることになった。


下心たっぷりな友達とか怖すぎてほしくない。見ず知らずの人が沢山お祝いに来ると思うと気分も萎え気味だ。


「今からでも、ボイコットできないかしら」

「諦めてください。殿下も来られていますし、できるわけないでしょう。それに、私はうれしいですよ。理由はなんであれ、お嬢様の誕生日を盛大にお祝いすることが出来て、お嬢様をお祝いしてくださる方もいるのですから」


ドレスを着せながら、フラメウはにこにこ上機嫌に笑う。髪を綺麗に結われて、髪には王妃からもらった髪飾りを、首元には殿下考案のネックレスがついている。ちなみにドレスも殿下から誕生日プレゼントで送られたものだったりする。殿下の髪の色は青みがかった銀髪であり、それに近い色合いのドレスになっている。ネックレスも相まって、非常に落ち着かない。


「さぁ、着替えは終わりましたよ。お嬢様、お誕生日おめでとうございます」


そういって、刺繍されたハンカチが渡された。細かいレース編みがしてあり、手が凝っているのが見て取れる。


「ありがとう、すごくうれしいわ」


知らない人ならいざ知らず、フラメウに祝ってもらえるのはうれしい。杖みたいに無くさないようにしようなんて思いながらハンカチをじっくりと眺めた後にしまう。


「お嬢様、時間になりました。準備がお済でしたら参りましょう」


部屋がノックされアントラの声がしたので、フラメウと一緒に部屋から出る。


「お誕生日おめでとうございます。とてもお綺麗ですね。殿下もすごく喜ばれることでしょう」


ジェインとは違って、アントラとはそこそこ友好的な関係が築けている。何か乱暴をすることもなく、だいたいは上機嫌に何かを話していることが多い。母の手のものではないのか、虐待の場面はアントラがいないときにしかない。おかげで痛めつけられる回数はすこぶる減った。アントラが休みの日はえげつない事態になるので、できれば休まず働いてほしいものである。


「こちらは、私からでございます。ぜひ護身用にお持ちくださいませ」


アントラからは短刀をプレゼントされた。ってちょっとまてぃ、七歳の令嬢に短刀をプレゼントする護衛がどこにいるんだよ!! ここにいたわっ。フラメウも少し顔を引きつらせていた。


「女性へのプレゼントに短刀はいかがなものかと思いますよ」

「護身の道具はいくらあっても良いかと思いまして」


短刀だけ渡されても、いざというとき使える自信全くないんだけどと言いたいが、会場についてしまった。動揺した顔を、笑顔に付け替える。扉が開かれると、びっくりするくらいに人がいた。大人ばかりではなく、同い年ぐらいの子も沢山いる。中にはメファールに参加していた子たちもいた。


「あれが噂の……」

「えぇ、あの年齢で殿下を救い称号を貰ったそうよ」

「陛下と王妃様のお気に入りだとか」

「あら、あのドレスとネックレス、殿下の髪と瞳の色ね」

「雷と呪を纏いし守護者だったか」


あの、ひそひそ声しっかりときこえていますから! あと称号で呼ぶのはぜひやめていただきたい。それ罰ゲームだから。


「ティア嬢、誕生日おめでとうございます」


にっこりと笑って、エスコートをするために手を差し伸べてきたのでその手を取る。よく見たら、殿下もネックレスを付けていて、私の瞳と同じ赤い色をしている。あぁもう、顔に熱がたまってしょうがない。少しぽわぽわするような感覚のままエスコートを受け、あいさつ回りをしていく。


「殿下とアウローラ様にご挨拶申し上げます。私は、ニュア・イリュジオンでございます。以後お見知りおきを」


あいさつ回りの中で、見覚えのある赤髪の少女が挨拶をしてきた。何で見覚えがあるんだったか。ゲームの中で見たことあったっけ? と少し考えこんでいると、ふっとどこで見たかを思い出した。


「川を風でとびこ……、ええと、よろしくお願い致しますわ」


メファールで川を風の魔法を使って飛び越え、着地に失敗し痛がっていた子である。おもわずそこまで言いかけてしまった、嫌みなことこの上ない。途中で口をふさいだが、何を言いたいかわかったらしい。ニュアの笑顔に凄みを感じる。笑顔を崩さないのは殿下の手前だろう。


「覚えていただいて光栄でしてよ。ぜひ、これから仲良くしていただきたいですわ」


笑顔だが、嫌々言っているのがわかる。なんというか凄く素直な子だ。おそらく親から仲良くするようにとでも言われているのだろう。多少の罪悪感を感じながら、他の人にも挨拶をしていく。


「おっ、噂の侯爵令嬢ですね。前々から会いたかったのですが、殿下がなかなか会わせてくれなくて。お初にお目にかかります。エリク・オービニエと申します」


殿下以外の攻略対象きたあぁぁ!! エリク・オービニエ、乙女ゲームの攻略対象。騎士志望の侯爵家の三男である。殿下の幼馴染で明るくフレンドリーで正義感の強い性格をしているが、敵と断定した相手には容赦ないとも。頭はあまり良くないが怪力の持ち主である。学園でヒロインがいじめられているのを助けているうちに、ヒロインのことを知っていき恋に落ちていく。


ちなみに、悪役令嬢断罪の際には、その怪力を生かして悪役令嬢をとっつかまえる怖い人だったりする。少し喉がカラカラと乾く感覚になりながらも挨拶を返す。もしかして、この誕生日会、学園入学前の攻略対象たちとの顔合わせだったりするんだろうか。気が重すぎる。

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