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第二十一話 昔話

結局、上機嫌な母親がひたすら話すものだから、食事が終わったのはずいぶん後になり、あまり休めなかった。今日から、王宮での勉強が再開するというのに。はぁ、とため息を吐く。


「今日は、お勉強が終わった後、殿下とお茶をして、そのあと王妃とお茶会をすることになります」

「お腹たぽたぽにならない? それ」


アントラの言葉に、ひくっと顔をひきつらせた。流石に出されたものに手を出さないわけにもいかないし、どっちのお茶会でも飲んだり食べたりすることだろう。何故、同じ日に二回も茶会に行くのか。というか、一回にまとめてやろうと思わなかったのだろうか。されたらされたで、王子の前の中二病演技を王妃が目撃することになってしまうのだが。


「流石にその辺りは、配慮してくださると思いますよ」


馬車の中では、ひたすらにアントラが話しかけてくる。おかげでキャシーたちは口をはさむ暇もなさそうだった。仕事中にずっと喋っているのはどうかと思うが、少なくとも護衛として機能していることに間違いないだろう。おかげで絡まれることがめっきり減った。


王宮につくと、ディーダがホッとしたような様子で迎えた。


「元気な顔を見ることが出来て安心致しました。顔色も良いですね、お嬢様が運ばれた時はとても顔色が悪かったのでございます」


どうやら、意識がない間の様子を見ていた一人らしい。目が覚めたのを聞いていても、実際に見ないと安心できなかったのだろう。


「それから、あまり気分はよろしくないでしょうが、こちらをどうぞ。ネックレスはございますが、試作段階でございます。流石に杖を持っていないのはよろしくないと存じます」


そういうと、杖を布で包んでいる状態で渡してきた。急に杖が視界に入らないように配慮してくれたのだろう。キャシーにもらった杖は砂になったし、フラメウにもらった杖もはじき飛んだあと返ってきていない。杖が好きなわけじゃないが、フラメウがわざわざ渡してくれたものを失くしてしまったことだけは少しひっかかっている。


「そういえば、殿下の話によると、お嬢様は杖がない状態で魔法を使われたとか。詳しく聞かせていただいてよろしいですか」


魔法の書物にも、授業で習った内容も、杖が必要だとあった。ようは魔力を通したりためたりしやすいものを媒介する物が必要がなのだ、人体だけでそれらはうまくいかないらしく、杖が媒介するのにちょうど良いものらしい。ネックレスも作られているが、それもおそらく魔力を媒介しやすいように工夫をしているのだろう。


そうなると、何も使わずに魔法を使ったあの状況はかなり異質なものになるのかもしれない。素直に離しても大丈夫なのだろうかと思わず様子を窺ってしまう。


「魔法は杖を使うもの。それが常識でございます。ですので、襲撃者も杖を弾いて無力化を図ったのでしょう。ですが、杖が無くても魔法が使えるとなれば、そのあと身を守ることが出来ます。お嬢様は殿下の婚約者なのですから、使える力であるならば鍛えたほうが良いと思われます」


じっと、真摯に瞳をのぞき込みながらそう言った。ディーダなりに、私のことを考えてくれた結果らしい。


「光の粒子が見えたのです、ただ祈る様に声がしました。どうやったのかはっきりと覚えていないのです、ただ手に沢山光が集まってきて。でも、もぅ光は見えません」


何がどうなって、あんな現象が起きたのか自分でも説明がつかない。ただ、ディーダはそれを聞いて何か思い当たることがあったのか、じっと考え込んでいる様子だ。少しして、口を開く。


「その昔、魔法使いの数は今より少なかったのですが、その頃の魔法使いは、杖を必要とせず、ただ祈れば魔法が発動できたようで。その魔法使いたちは、大地に宿る魔力を見ることが出来る不思議な目を持っていたそうでございます。大地に宿る魔力は意思を持っており、その不思議な目を持って大地に呼びかけ、願うことで、大地は願いを聞き入れ魔法を起こしていたそうです。そして、大地に宿る魔力の意思に反することをした場合、大地は怒るといわれているのです。実際は、もう少し長いのですが、そんな感じの昔話がございます、魔法を悪用してはならない、母なる大地に感謝せよという意味で書かれていたものなのですが」


つまり、あの光の粒子は、昔の魔法使いが見ていた、大地に宿る魔力だとでもいうのだろうか。


「確かにその話では杖が使われていませんね。でも、どうして光の粒子はすぐに見えなくなってしまったのでしょう。物語では、それを見るためには特別な目が必要とありますけれど。そんな特別な目がついたり取れたりするものなのかしら」

「私にはこれ以上のことは分かりません、ただ、そこまで特別な力になると、どう鍛えるのがよろしいかもわかりませんね」


光の粒子が見えたら、また別なのかもしれないが、流石に見えてもいないような現状では、その力を鍛えるよりも、普通に魔法の腕をあげるほうがいいだろう。何もわからずやるのは、非常に効率が悪すぎる。勉強しないといけないことは魔法だけではないのだから、流石にそこまで時間を割くことはできない。ディーダもそれが分かっているのか、少し残念そうにしながら、授業にうつっていった。


最近では、国の歴史やら、過去の事件なんかを勉強するようになってきたので、座って書いたりすることも多いが、前ほど緊張することも無くなってきていた。相変わらず勉強自体が好きなわけではないのだが、流石に鞭でバシバシ覚えさせられていた頃に比べると天国のようだ。


「お嬢様はよく話を聞いて下さるので、教えがいがあります。以前ほど怯えている様子もございませんね」


授業が終わると、そう言ってきた。流石にここまでくるとディーダが虐待まがいなことをしないぐらいの信用はしているので、怯える必要もない。そういえば教育係が変わった日以降、ミュリーの姿も見ていない。そのことも安心する要因になっているのかもしれない。


でも、こういうのってフラグだったりしない? 思わずあたりをきょろきょろ見回してしまう。


「どうかなさいましたか?」


とりあえずミュリーが出てくる様子もなくホッと息を吐いた。


「いえ、ミュリーのことを思い出していて」

「ご安心ください、教育係が変更になった後、ミュリーと殿下がお話されたのですが、そのときに殿下のお怒りに触れて、王宮に出入りすることが禁止されています」


初耳なのですが!? いったい、どんな会話をしたのか非常に気になる。私の知らないところで動き回りすぎじゃなかろうか王子は。純粋と思っていたけれど、ゲームの通りしっかりと腹黒のようだ。

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