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第十八話 なけなしの勇気を

一人の魔力で六人分の攻撃を防ぐのは無理がある、障壁にヒビが入り始めた。


「殿下、障壁がある間に逃げて助けを呼んできてください、あまり長く持ちません」


何格好つけているんだろう、無理もいい所だ。でも、人が死ぬところを見たくない。だったら逃げてもらうのが一番いい。王子なんて一番守られていないといけないような人だ。こっちは死んだところで、王子ほど大事にはならないだろう、そもそも死んだ方がこの世界から消えることが出来ていいかもしれない。死んでも大丈夫と想えそうな理由を必死に頭で唱え続けていた。でも、王子はその場から逃げ出す様子はなかった。あぁ、もぅもたない。


パリーンとガラスでも割れたかのような音と共に障壁が消え去る、飛んでくる沢山の氷柱に目を閉じた。体を押し倒された感覚に目を開ける。王子が覆いかぶさるようになりながら、私を押し倒していた。


「な、なにをやっているんですか」


氷柱のいくつかが王子に突き刺さっている。かなり痛そうに眉を寄せていたが、王子はふらふらとしながら立ち上がり私の前に出る。


「命を奪いたいのはどちらですか。私であるなら、ティア嬢に手を出すのはやめることだ。そうすれば逃げも隠れもしない」


怪しい人たちの口元がにやりと笑ったのが見える、どうやら狙いは王子の方だ。


「どうやら私のようですね。私が逃げても追われて捕まってしまいます、でもティア嬢なら逃げれるかもしれません。それに魔法もティア嬢の方が上手なので、逃げれる可能性が高いです。逃げてください」


私の方を振り向いてにっこりと笑った。そのあと怪しい人たちに向き直り、背筋がゾクッとするような怖い瞳を向けていた。表情は取り繕っているが、足や手が小さく震えている。格好つけはここにもいたらしい。


逃げたなら、生きることが出来るかもしれない。ゲームのシナリオにも何度か暗殺未遂があったことが描かれていた、ゲームシナリオ通りなら、私が逃げたところで王子が死ぬこともないだろう。おそらくゲームの中のティアは逃げたはずだから。だったら、下手にシナリオをかき回すよりも逃げたほうがいいんじゃないんだろうか。そんなことを思いながら口を開く。


「御身は、一番に守られるべきでございます。命を捨てるおつもりですか」

「あはは、死ぬのは困りますね。一応王子なので、大騒ぎになりそうです。なのでそんなつもりはないんですよ。ただ、こんな時に見捨てて逃げるような王子をティア嬢は信用して心を開いてくれるのですか? 信用できないでしょう。だったら見捨てたりしません、心の傷を癒すと決めたのです」


見捨てればいいのに、私はどうせこの世界が嫌いなんだから。フラメウも王子も、なんでそんな必死になるのかなぁ、だれの記憶にも残らないぐらい存在が薄ければ、何の未練も無くなるのに。この理不尽な世界が死ぬほど嫌いなのに、そこにいる人たちを嫌いになれないのはどうしてだろう。優しさに縋りたくなるのは、甘えたくなるのは何故だろう。


あなたを、見捨てて逃げたくないのは何故だろう。


「殿下、私が何者かお忘れですか。呪と雷の力を受けし、最強の魔法使いでしてよ。そんな私が殿下一人を置いて、どうして逃げ出さなくてはなりませんの?」


痛いのは怖い、杖が怖い。私の足だって震えている。でも、はったりだって、違う自分を演じれば一歩足を踏み出せる気がする。素直な言葉が出せないけれど、友人の設定だったらいくらでも口から出すことが出来る。


王子の前に立つことが出来た、杖を構える。けれどサラサラッと、前の家庭教師のミュリーに渡された杖は砂のように崩れていった。足のアンクレットから、ビリビリと痛みが走るのが感じる。


まさか、ミュリーも加担しているのだろうか。フラメウからもらった杖を出すが、魔力が動く気配がない。アンクレットには魔封じの効果もあると言っていた、間違いない、ミュリーは王子を殺そうとしている。ミュリーが加担しているなら、母も関係あるかもしれない、母の邪魔したらどうなるだろう。


「って、今更か」


今更、王子を放って逃げるわけにもいかない。それに多分、見捨てたら後悔する。見捨てなくても後から後悔するかもしれないけど。どっちも後悔しそうなら、もぅ突き進むしかない。魔封じが効かないくらいに魔力を動かせたなら。電撃がこちらに向かって飛んでくるのが見えた。渾身の気合を込めて魔力を杖に注ぎ込もうとする。


アンクレットがブチッと音を立てて外れた。一気に杖に魔力が流れ込めば、杖がバチバチと音を鳴らす。巨大な電撃がまっすぐに飛んで行った。相手の電撃を飲み込み、敵へと向かう。


「なんちゅー威力だ」


焦ったような声がする、四人ビクビクと感電している様子が見えた。残った二人から、強い敵意を向けられる。もう一度魔法を使おうとして、力が入らず膝から崩れ落ちた。この感覚覚えがある、魔力の使い過ぎだ。


「ティア嬢、顔色が」


膝から崩れ落ちたのを見て、王子まで顔色を悪くしていた。魔力を使い過ぎた私に変わり、飛んでくる魔法から身を守るべく障壁魔法を出している。けれど、やはり魔法が苦手なのだろう、薄すぎる障壁はあっという間に消えかかっている。


ここまでだろうか……?


障壁が壊されると、電撃が手に向かって飛んできて、杖を弾き飛ばされた。王子も杖を飛ばされたようだ。


精神的に限界なのだろう、むしろよく気丈にしていたほうだと思う、王子の目には涙がたまっていた。それでもなお、前に出て庇おうとする。敵は勝ちを確信したのか、さっきのおかえしといわんばかりに大きな電撃を飛ばしてきた。


――祈って――


そんな声が響いた気がした、周りの動きがゆっくりと見える。ぶわっと、全てのものに光の粒子があるように見えた。


――祈って――


声に反応するように、手が自然と組まれた。光の粒子が一斉に手に集まってくる。僅かに自身に残っていた魔力が無理やり引っ張り出されるのを感じ、目があけれないほどの、眩しさが辺りを包んだ。

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