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第十七話 メファール開幕

手を振り払ってから、フラメウとはぎくしゃくしている。勝手にぎくしゃくしているという方が正しいかもしれない、フラメウは普段通り接しようとしているのだけど、私が勝手に気まずさを感じて避けている。王子に関しては、あの日以降会っていないまま、メファールの日がやってきた。広場の真ん中に同年代の参加者たちが集められ、その周りの椅子に保護者等の観客が座っていた。同年代の参加者の中には王子もいる。


参加者はこちらを見て何やらひそひそと話していた。悪評は参加者の家族を通して伝わっているのかもしれない。


「知ってる? わがまま放題の令嬢らしいわよ、関わるとろくなことにならないって聞いたわ」

「私は、すごい魔法の腕の持ち主って聞いたわ、それに王宮でも勤勉で、優しい令嬢だって」


おっと、なんか悪口以外が混ざっているぞ。王子の方から視線を感じた、満足そうに微笑んでいる。これは、王子が何かしら手を回したな。どんなうわさをどこまで広げているのか、非常に不安である。司会らしき人が前に出ると、ひそひそ声はなくなり静かになった。


「時間になりましたので、メファールを始めます。これから、参加者の皆さんを王宮所有の森に魔法で転移させます、転移が終わり次第開始してもらい、森のどこかにあるブローチを探してもらいます。見つけた場合は緑の信号弾を魔法で打ち上げてください、帰還の指示を出します。制限時間が過ぎた場合や妨害などの違反行為が見られた場合は、強制的に転移により帰還することになります。また、何か問題が起きた際や、棄権をしたい場合には、赤の信号弾を魔法で打ち上げてください、騎士が常駐していますのですぐに騎士が向かいます。メファールの様子は魔法で映し出されますのでゆっくりご覧ください。それでは、転移をしますのでその場から動かないでください」


司会が喋り終わると、杖が取り出された。視界から杖を外すためにうつむくと、地面が光始めた。アニメとかでよく見る魔法陣のように見える。そのまま目も開けれないくらいに眩しく光ったと思うと、目の前の景色が森に変わっていた。参加者は急なことに驚いた様子だったが、すぐに落ち着くと宝さがしに向かったみたいだ。


「ティア嬢もいかないと、他の子に先を越されてしまいますよ」


周りの様子を観察していたら、王子にそういわれた。ちゃっかり手を握ってきている。


「ティア嬢の魔法があると心強いです、一緒に行きましょう」

「これって、人と一緒に探して大丈夫なのですか」


お宝は複数あるから取り合いにはならないだろうが、人と探すのはご法度だったりしないのだろうか。


「むしろ助け合うことを推奨していますよ。色々な仕掛けがあるから」


どうやら問題ないらしい。無理やり断る理由もないので一緒に行くことにする。しばらく歩くと、大きな川に道が遮断されていた。もしかしたらどこかに橋があるのかもしれないが、少なくとも視界に移る範囲に橋らしきものは見えない。これが最初の障害ということだろうか。


「大きな川ですね、どうやって渡りましょうか」


地の魔法を使って道を作るか、風の魔法で川を飛び越えるが無難なところだろう。氷の魔法で川を凍らせるのは、魔力を沢山必要としそうだ。飛び越えた後の着地した時の安全性を考えたら、地の魔法で道を作るのか一番よさそうだと思い、川の上に道を作り上げる。道を通ればサラサラと道は消えていった。ちゃっかり王子も私が作った道を使ってついてきている。


「さすがティア嬢ですね、魔法の発動がスムーズです」

「当然でございます、私の力をもってすれば造作もございませんわ」


他の子も各々魔法を発動して乗り越えている。


「いったぁ……」


赤毛の女の子は、風で飛び越えることにしたようだ。着地に失敗したようで、とても痛そうである。うん、風の魔法にしなくてよかった。また、進んでいくと上からネットのようなものが降ってきた、風の魔法でネットを切り裂く。王子は火の魔法で燃やしていた。その後も仕掛けが続くが、殺傷性のないような安全な罠が続いている。


「ほかの子が見えなくなってきましたね」


とても順調に進んでいるおかげか、他の子よりも早く進むことが出来ていた。結構な障害も乗り越えたし、ゴールも近いのかもしれない。そんなことを考えていると、足元がなんとなくチカッと光った気がした。


「ん? 今何か光りましたか?」


王子も光った気がしたようだ、辺りをきょろきょろと眺めている。特に森に変わった様子はなく、鬱蒼と木が多い茂っている。


「私もそんな気がしたのですけれど、特に何かが変わった様子はありませんわね」

「念のため気を付けて進みましょうか」


そういわれて辺りを警戒しながら進むことにする、視界の端に氷柱らしきものが飛んでくるのが見えたような気がした瞬間、体が突き飛ばされてその場に倒れた。王子と自分がいた場所に氷柱がささっている。王子がとっさに突き飛ばしてくれたようだ。


「これ、下手したら大変なことになっていますよね?」


けっこうなサイズだし、足ではなく胸のあたりを目がけて飛んできていた気がする。先端もとがっており、刺さったら軽傷では済まないだろう。これまでとは違って明らかに危険な罠に眉を寄せる。王子もどことなく顔をこわばらせていた。あまり時間をおかずに電撃が飛んでくる、とっさに電撃をぶつけて相殺をした。これは緊急事態と思っていいだろう、信号弾を飛ばそうと思ったら王子が赤の信号弾をあげていた。


「おかしいです。こんな危険な罠を仕掛けることはないですし、なにより護衛がついてきているはずです、暗殺をたくらむ人がいないとは限りませんから。だからこの状況なら、出てきてもおかしくないのですが」


人が出てくる様子はなく、周りはシーンとしている。


「とりあえず、危険な状態だと思うので信号弾を飛ばしました、すぐに騎士が来るはずです」


少しすると、足音が近づいてくる。が、顔を隠しており騎士のような身なりにも見えない怪しい人が六人やってきた。王子が庇うように私の前に手を伸ばしながら後ずさりをしている。


「騎士ではありません、騎士の顔は覚えています」


小声で王子がそう言い警戒を促してきた。次の瞬間、ぶわっと強風が吹き体が木に叩きつけられた。痛みに思わず蹲る。王子も蹲っている様子が見えた。足音が近づいてくるのが聞こえ、慌てて立ち上がる。無防備もいい所だ。王子の方に駆け寄り腕を引っ張った。いきなり引っ張るなんて無礼極まりないが、この場合は仕方ないだろう。手をひき走って逃げまわるが、大人の足に叶うはずもない上に、魔法が次々と飛んでくる。よけ切ることが出来ずに、足にかまいたちが辺りその場に倒れこんだ。血がどくどくと流れ出ていて熱い。


「ティア嬢、大丈夫ですか」


王子が慌てて傷口を抑えて止血しようとしてくれているが、その間にも怪しい人はこちらに近づいてきている。氷柱が大量に飛んできたので慌てて障壁を作り身を守る。


「騎士は五分以内には来れるはずなのですが」


明らかに五分以上経過している、助けを期待することが出来ないかもしれない。氷柱の勢いが止む様子のないことに歯噛みした。

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