第十六話 世界で一人きりに
王宮でがっつりと呪いの話になって、お家で何も起きないわけがなく、母親に呼び出された。
「また、面倒を増やしてくれたわね、まぁいいわ、護衛はいずれ付けないといけなかったもの。そこにいるジェインが護衛よ」
護衛らしき人にがっつり肩を抑えられてんですが、これ、絶対護衛とは言わない。
「周りが優しくしてくれるからって、調子に乗られると困るのよ、定期的に体に叩き込んであげないと。とはいえ、以前みたいに傷がしっかり残るのはまずいかもしれないわね。まわりの態度が寛容になっているもの、まぁ、やり方はいくらでもあるわ」
杖が視界にうつると、鈍器で殴られたような衝撃がお腹に来る。思わずむせて倒れこみたくなるが、肩を掴まれてるせいで倒れこむことが出来ない。いくら風圧でも痣ぐらいはできるぞ、証拠残さないんじゃなかったのか。
「知っている? 一応治癒もできるのよ、こうしたらわからないと思わない?」
にこやかな笑顔で、これまでの傷がきれいに塞がれていく。痛みも嘘のように消えた。まさか、治癒魔法をこの人使うことが出来たのか、呪いと言い、治癒魔法と言い、実はやたらとハイスペックらしい、非常に迷惑だ。直されては魔法を叩きこまれ、直されては魔法を叩きこまれを繰り返す。潤む瞳に、護衛の口元が楽しげに歪んでいるのが見えた。この母の周り、加虐趣味の人が多いな。肩を掴む手に力が入っていく、折れそうなほどに痛い。自然と、肩に手を伸ばして外そうとすると、背中から思いっきり蹴られた。床に勢いよく倒れこむ。
「あとで傷はふさいであげるから、あなたのやりやすいように叩き込んであげなさい」
うん、護衛の顔が実に楽しそうだ、剣の鞘で容赦なく叩き込まれる。体に限界が来ると、気を失う前に治癒がされる。治癒が解禁されると、際限なくいたぶられるのか。治癒で絶望度を上げてくるのはほんとにご勘弁願いたい。これ、どうにか自分で意識を飛ばしたい。
魔法の中に、意識を奪うものがあったはず、洗脳と同じで精神系の魔法だっただろうか。やったことないけど、自分にかけるならできるんじゃないだろうか。そう思った瞬間杖に手が伸びる、護衛の手が伸びてくるが取り上げられる前に魔法が完成する。意識がスッとフェードアウトした。
目が覚めると、きちんとベッドの上にいた、フラメウが涙目でこちらを見ている。
何だか景色がぐらぐら揺れていて、とても気持ち悪い、吐き気がする。
「お嬢様、精神系の魔法をいきなり自分に使うとは何事ですか、とても危ないことなのですよ!!」
怒鳴られて頭に響いて、とても痛い。声を抑えてほしい。というかフラメウが感情的に怒るのは珍しい、そんなに危なかったんだろうか。手で頭を押さえている様子を見ると、フラメウは声を抑えて話し始めた。
「精神系の魔法は調整が非常に難しいのです、加減を間違えると、精神が壊れて廃人化してしまうこともあるのですよ。なので、普通精神系の魔法は対処法は勉強しても、使い方を勉強することはあまりないのです」
相当やばい魔法だったらしい、気分が悪い所を考えると、魔力の加減を間違ったのだろう。だからなんだというのだろうか、意識を飛ばせないなら、ずっと痛みに耐えるしかない。大人しく耐えていろというのだろうか、妙にむしゃくしゃして、口から攻撃的な言葉がついて出そうになる。
「ほかに良い方法があるなら教えてよ、痛いのは嫌いなの」
どうにも抑えきることが出来ずに、一言だけ零れ落ちた。フラメウは、口をつぐむと苦しそうに眉を寄せる。苦しいのは私であって、フラメウじゃないでしょ?
「怒鳴ってしまって申し訳ありません、とても心配だったのです。お嬢様が目を覚まさなかったらどうしようかと。これまで、お嬢様が無理やり意識を飛ばすような手段をとるようなこともありませんでしたし。なにかあったのですか?」
「普段の虐待に治癒魔法がセットで無限ループ」
答えるのも嫌で、投げやりに返すと、フラメウの顔が歪んだ。いつものように抱きしめようと伸ばしてきた手を反射的に叩き落してしまった。
「あ……」
流石にそこまでするつもりはなかった、ただ優しくされるのもしんどいと思っただけで。傷ついたようなフラメウの顔に、ズキンと胸が痛んだ。謝ればいいのに、言葉が出てこない。出来たのは顔をそらすことだけだった。
「ほかの方法は何か考えてみます。今日はもうゆっくりと休んでください、精神系の魔法を使われたので、自分で思っているよりも疲れておいでだと思います」
怒ればいいのに、気に入らなきゃ詰ればいいのに。そしたら気兼ねなく怒鳴り散らして、とっとと死んでやるのに。味方が欲しかったはずなのに、今は味方がいなければ、悲しむ人がいなければ、何も気にせず命を捨てれるのになんて思ってしまう。いっそ嫌われを目指してみようか、この世界にいたいと思わないなら、死亡フラグを回避することにも意味はないのかもしれない。だったら何の未練も無くなるぐらいに、周りに嫌われて、疎まれて一人で楽に死ぬことが出来たなら。それが一番いいのかもしれない、そんなことを思った。




