第十四話 冗談じゃ済まない
「あそこにいらっしゃいますね。お嬢様は、藁人形の方を見るようにしてください。殿下は魔法の練習中ですので、杖を持たれています」
しばらく王宮内を歩いていくと、王子がいる部屋についた、魔法の練習中のようで、ディーダが教えてくれたので慌てて藁人形の方を見る。
「挨拶はしなくてよろしんですか?」
王族に挨拶もせずに見ているのはかなり無礼な気がするのだけれど。
「今は例外でございます。魔法の最中に話しかけられると、集中力が散ってむしろ危ないのでございます。何より殿下は、お嬢様ほど魔法の扱いに慣れていません」
藁人形を見ていると、火の粉のようなものしか藁人形に届いていなかったり、水の勢いが弱くて藁人形よりも前に落ちていたりしていた。お世辞にもうまく扱えているとは言えない、おかしいな、ゲームだと人並みぐらいには仕えていたはずなんだけど。
「どうしても、向き不向きというのがございます。殿下の場合は、杖に魔力をためるまでスムーズにできても、そこから放出する際に、魔力がばらけてしまっているため、貯めた分だけの威力で攻撃をすることが出来ないのです。ばらけやすい魔力の性質を持つ人も結構いられるのですよ、それでも殿下は大変努力しておいでです。あ、こちらに気付かれたようです」
藁人形を見ていたから分からないが、こちらに気付いたようだ。体だけ向き直して杖を見ないように気を付けながら礼をとる。
「あ、きてくれたんですね。顔をあげてください、あ、ご、ごめん……。杖をしまいましたよ、ごめんなさい。その、メファールにも無理に参加させてしまったみたいで」
顔をあげると、杖が視界に入り、反射的に体がびくりと揺れると、申し訳なさそうにしながら王子が杖をしまい謝罪してきた。これは、杖が苦手なこと王子にも話がいっちゃたなぁ。というか、流石に幼子がしょんぼりしている姿は少し胸が痛い、いや、この世界では同い年だけどさ。
「謝罪は必要ございません。力を持つものの宿命でございます。呪のせいで人よりも苦難は多いですが、それは殿下のせいではございませんの。殿下がメファールに誘われずとも、私の力に、運命が手繰り寄せられ参加することは免れなかったでしょう」
「お、お嬢様?」
おぉう、ディーダが困惑しているよぅ。そうだろうなぁ、あとでなんて言われることやら。
「そうですか、無理はしないでくださいね。ディーダと一緒に来たのですね、ディーダとはうまくいっていますか?」
「い、今のところは?」
上手くいっているというのだろうか、とりあえず現状だけで行くと、前ほどやばそうではないから返答を間違ってはいないだろう。
「せっかく来てくれたので、一緒にお茶でも飲みましょう。あちらの椅子に座ってください」
椅子をすすめられたので座ると、みるみるうちに、茶会の準備が整えられていく。流石王宮の使用人たちは仕事が早いなぁ。目の前に美味しそうな、紅茶とケーキが並んでいる。相変わらず食べても味を感じないけれど。なんだか、食べている様子をじっと王子に見られている気がする、まずそうに食べたりはしていないはずなんだけど。
「あまりおいしくありませんでしたか?前はもう少し、口元が緩んでいたように思ったので」
おぉう、めっちゃ観察してるじゃん。口元をそんなまじまじ見ないでいただきたい。というか、王宮で出されるものにケチをつけるとか絶対にやっちゃまずいよね? これ、なんて返すべきなんだ。
「いえ、とても美味しいです。ですが、右目が疼いてしまって、せっかくのケーキが堪能できていませんの」
困った時の中二病ワード、右目より、心の古傷が痛んでいるよ。とはいえ、そろそろ連発するのにも慣れてきたなぁ、慣れたくはなかったけど。
「右目に纏われた呪いですね、前はひどく痛がっていましたが、今は大丈夫なのですか?」
「い、今はその疼く程度で、そこまでではございませんわ」
後ろから、ディーダの視線が突き刺さってる気がする、違う意味で辛いです、王子あまり触れないで、お願いだから!!
「そうですか、痛みが強くなったらすぐに言って下さいね」
「お話の途中に申し訳ありません、お嬢様は呪いにかけられているのですか?」
ぬおぉぉぉ、深く突っ込まないでぇ、どこまでが呪いに対して大丈夫なワードかもわからないよ!
「え、えぇ、しかし詳しくはいえ……っ」
ビリっと体に痛みが走る、どうやら呪いが反応したらしい、最初は嘘で始めたのに、いつの間にか本当になっているのはほんとに困る。
「術者によって口封じをされているのであれば、無理にしゃべると危険が伴います。現代で、呪いが使えるような人がいるという報告を受けたことがないのですが……」
「王様に報告をしようとしたんですが、言葉が出なくなって。呪いの影響なんでしょうか」
おぉっと!? なんか話がだんだん大事になってきている気がするよ。二人の目がものすごく本気に見えるけど、あんまり大事になると私の手に負えなくなってきてしまうから!
「そうなるとなかなか厄介ですね、でもお嬢様から王子に呪いについて伝わったことを考えると、抜け道がありそうです、お嬢様の身の回りに、お嬢様を呪うような人がいるなら、早めに色々調べたほうがよさそうです」
後ろにはキャシーもいるから! これは、話が呪いをかけた本人に筒抜けになりそうです。




