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第十二話 新たな教育係

目が覚めると、今度はちゃんとベッドの上にいた。フラメウが椅子に座ってベッドに突っ伏しているのが見える。傷の手当てがされてるから、おそらくフラメウがしてくれたのだろう。


「んん……、あ、お嬢様。おはようございます」


ぎこちない笑顔でいつも通り挨拶をくれる。フラメウは、何か言いたげにしながら、また口を閉じていた。


「もうそろそろ時間ね、準備してくれる?」


今日から新しい教育係が王宮に来るはず。王妃も来ると言っていたのだから、体調はともかく遅刻するわけにはいかない。フラメウもそれは分かっているのか、すぐに準備をしてくれた。キャシーが呼びに来て、キャシーと王宮に行く。部屋に向かうと、おばあちゃんと呼ぶのがよさそうな老婆がいた。


「侯爵令嬢であられる、ティア様ですね。私は、ディーダ・カロンと申します。ディーダとお呼びください。この後王妃様がいらっしゃいますので、王妃様に挨拶をしたのち、お嬢様の今の状態を確認するために、問題をいくらか解いてもらった後に、所作や魔法の実演をしていただきます」


とりあえず、普段ボロボロになっても大丈夫なように着替えさせているような服はない、流石に王妃様の前でたくさん叩かれることはなさそうだとホッと息を吐いた。少しして王妃がやってきて挨拶が終わった後、問題紙が手渡される。


やべぇ、半分以上わかんない。解きながら、分からない問題の多さに手が震えてくる。ミュリーだったら、こんなに間違えたらいったい何回叩くのか。後半はミミズが張ったような文字を書くだけで精いっぱいだった。


「お、終わりました……」


紙を渡して、じっと顔色を窺う。真剣な様子で紙を見ているけど、顔をしかめたりする様子はなさそうなのにホッとした。立ち振る舞いや所作についても言われた通りを行う、途中で何度か止められて注意点を言われることもあったけど、鞭が飛んでくることはなかった。


「立ち振る舞いの確認はここまでで良いでしょう、次は魔法ですね」


ディーダが杖を取り出すと、体の震えがおさまらなくなった。やっぱり魔法ということはまた、痛い思いをするのだろうかと頭が真っ白になる。


「落ち着いて、杖を見るのが怖いのですね? 見なくても良いのですよ。お嬢様が魔法を試されるための的を出すだけです。お茶でも飲まれてください」


見なくていいと言われても、もしも急に攻撃されたら? 構えていなかったら余計に痛そうで、杖にくぎ付けになった目が離れなかった。


「キャシーでしたね、お嬢様を部屋の外に連れ出して御上げなさい、その間に的を用意いたしましょう」


そういわれると呼ばれるまで、部屋の外に出された。再度呼ばれると、藁人形のような的が置かれていて、ディーダの手に杖はなかった。


「大丈夫です、もう杖は持っていませんよ。魔法を使うことはできそうですか」


目線に気がついたのか、ディーダは両手を見せながら魔法を使えるか聞いてきたので、頷き的の前に立つ。少し深呼吸をして気持ちを落ち着けようとしたが、魔法をイメージするとまた頭が真っ白になり、冷や汗が止まらなくなった。だんだんと息苦しくなっていく。あぁ、でも魔法を使えなかったら、どんなに罰を受けるだろう。何かしないとと、イメージが不十分なまま魔力を込めたら、自分の意思に反した量の多さが杖に流れ込むのを感じた。


「な……なにこれ……」


自分の持った杖が禍々しく光っている、そのまま魔力が放出されると、一気に藁人形が爆発を起こした。一度で止まらない、何度も何度も。


「お嬢様、杖を手放してください!」


ディーダの叫ぶ声がして、慌てて杖を床に捨てると魔力の放出が止まった。


「魔力の暴走でございます。魔法を使うときは、気持ちを落ち着けて、決して慌ててはいけませんよ。さぁさぁ、そんな悲壮な顔をなさらないで。誰も怪我をしておりませんし、お嬢様くらいの年頃で魔力を暴走させてしまうことはよくあるものなのですよ」


諭すようにゆっくりというと、落ち着けるように背中が撫でられる。じんわりと、なにかの熱が体にしみこむように感じると、バクバクとしていた心臓が少しづつ静かになっていった。


「お嬢様、問題用紙についてですが、よくできておいででしたよ。いくらか苦手分野は見て取れましたが、分野によっては、同い年の子供が解くには難しい問題も解かれていました。立ち振る舞いについても、日々の努力がうかがえます。魔法については、ゆっくりとしていきましょう。メファールまでまだ少しは時間がありますから、焦らなくて大丈夫ですよ。王妃様、今日確認したところ、大きな問題は見当たりません。ですが、過度な緊張や、杖に対する恐怖心など、精神面が心配でございます。しばらくの間、ゆっくりとしたペースで学ばせてもよろしいでしょうか」


及第点ぐらいには思ってくれたのだろうか。王妃様はずっと険しい顔をしてこちらを見ているから、もしかしたら、ディーダにとって及第点でも、王妃様からしたら、悪印象を植え付けたかもしれない。そもそも、やんごとなき人の前で魔力の暴走って、普通に罰せられてもおかしくないようなことじゃなかろうか。


「学園に入るまでに、どうにかなるのであれば、問題ありません。ティアに合わせておやりなさい。確か、ティアには家庭教師もいましたね」

「私が大丈夫と思うまで、できれば、家庭教師もやめていただきたいです。この怯え方は、尋常ではないように思うのです」

「ディーダがそういうのであれば、私から、侯爵に家庭教師をとらないようにいっておきましょう。私はディーダと話があります。ティアはもう帰りなさい」


どうやら、咎められず、家庭教師もいなくなる結果になったみたい。ディーダが、王妃の前だけで演技をしているわけでなければいいけど。そんなことを思いながら、屋敷へ帰った。

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