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第十一話 考えたくない

最大限努力はしたけれど、一日で全部覚えれる都合の良いチートを持ち合わせていませんでした。それでも、フラメウのおかげでいくらかマシなのだけれど。今日も部屋には鞭の音が響く。


「覚えるまでおわりませんからね」


早く覚えようとすればするほど、頭が真っ白になっていく。文字を書く手が止まると余計に叩かれる。勉強だけにとどまらない、立ち振る舞い、魔法の特訓。だんだん何を勉強しているのか分からなくなってきた。


叩かれたり魔法をぶつけられる記憶以外、授業中の記憶がない。そして、授業が終わるとまた、たくさん本を積まれて、明日同じことの繰り返し、そんな毎日が続いていく。王宮に行くと、ひそひそと声が聞こえる。出来の悪い婚約者、いったいどこから広まり始めたのか、どこに行ってもばかにするような目がつきまとってくる。


「これを見せられた、これぐらいお前より年が下の子供でも解ける子がいるくらいだ」


父親に呼び出された。ほとんど間違いの答案用紙。ずっと後ろで鞭ならされていたの。それだけで何も考えられなくって、何も答えられなかったの。


「おまけに、魔法も大してうまくないそうだな」


他の人の杖を見るとね、何も頭が回らないの、自分の体守るのに精いっぱいなの。


「ミュリーが嘆いていたぞ。私もとんだ恥をかいた」


出来損ないの子供を持つと大変だね、でもあなただって父親として何もしてないでしょ。


「流石に様子を見ながらなんて悠長なことは言えない、家でも家庭教師を雇った。しっかりと勉強するように」


家でも? 家でもずっと叩かれるの? これ以上は無理だよ?


新しく来た家庭教師も、ミュリーみたいな人だった。ずっと、ずっと鞭の音が聞こえる。最近は寝てても叩かれる夢を見るの。頑張っても頑張っても、状況が悪化しかしないの。もぅ何にも頭が回らないの。


死亡フラグ回避? 死んだほうが楽なんじゃないのこんな世界。生きれば生きるほど、この世界がどんどん嫌いになってゆく。生きれば生きるほど心が凍り付いて、何もかも汚れて見えてしまう。


「お嬢様、あの……、いえ、傷の手当てをしますね」


フラメウは、毎日手当てをする。最近は手当てのあと、抱きしめてくるようになった。たまに抱きしめられた後、肩が濡れているの。どうしてフラメウが泣いているんだろう。最近私は泣かなくなってきたのに。その分フラメウが泣き虫になった。


メファールの日が近づいてきたある日、急に王妃様に呼び出された。今日の王宮での勉強は取りやめになるらしい。王妃にあまりいい記憶はないけど、鞭で叩かれる時間が減る、それだけでもうれしい。


部屋に入れば、カーテシーをする。最近はずいぶんとカーテシーの姿勢にも慣れてきた。


「そこに座って頂戴」


今日は早々に、姿勢を解く許可が出た。言われた通りに椅子に座ると、目の前にお茶やお菓子が置かれる。食べるように促されて口に入れる。最近は味も感じないから、どんなにおいしそうな見た目でも、砂利を食べているような感覚なのだけれど。


「……。ミュリーは、貴女の指導係としてどうかしら、うまくやっているの?」

「はい、ミュリーは素晴らしい指導者です、毎日毎日丁寧に教えてくださいます」


あぁ、また、考えるより先に口からついて出る。


「そぅ。だけど、ミュリーの口から、貴女を褒める言葉を私はまだ聞いたことがないのよ。王宮でも、貴女についてあまり良い噂を聞かない。今日は、どうしたものかと思って貴女を呼んだのよ。でも不思議ね、カーテシー、随分と綺麗になっていたわ。テーブルマナーも問題ないように見えるわ。六つの子供なら、十分褒められて良いと思うわ。いえ、褒められるべきだと思うのよ。それに、貴女を見ていて子供らしい溌溂さがないのもどうかと思うわ。明日から、教育係を変えます。その上で明日は授業に立ち会いましょう。それから、定期的にお茶に誘うのでそのつもりで」


教育係が変わる……? あぁ、いや、ミュリーじゃなくても家庭教師も私をたたいてきたんだ。出来が悪いのも本当、変わっても叩かれない保証なんてない、期待して駄目だったらつらい。


「今日はもう下がっていいわ」


下がる許可が出たので部屋から出る、そのまま屋敷に帰って少しするとミュリーが来た。母もいる、どっちも顔が真っ赤だ。


「いったい王妃様に何を言われたのですか」

「王妃様にわがままを言って教育係を変えてもらったそうね!」


別に何も言ってない、なんて言っても無駄なんだろうなぁ。


「っぅ!?」


怒りのまま力任せに鞭で叩かれているのを感じる、思わず呼吸が止まるほど痛い。一打でも辛いのに、場所が重なるとまるで叩かれてるところが焼かれているかのように熱くて痛い。目の前がくらくらとしていく感覚に、早々に私は意識を手放した。

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