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第一話 大地震

ビー!ビー!

スマートフォンからけたたましい音が響き揺れが始まる。


最近はやけに地震が多い。今日もかなんて思いながら、教室の自分の机の下に潜り、隣にいる友人の美香と目をあわせて最近多いねなんてくすりと笑う。


ほら、すぐに収まった。揺れは多少強かったけれど、物が落ちたりバランスを崩すほどじゃない。また、いつも通り退屈な授業が再開される。


大学受験には合格したし、もう勉強するのはぶっちゃけ面倒くさい。早く終わらないかなぁ、なんて思いながら授業を受けていると、低い地響きが響き始めた。


地響きが強くなるにつれて教室の中もざわざわと落ち着かない様子になっていく。急にドシン! と大きく教室が揺れた、まだ収まらない、さっきとは段違いの揺れの大きさに時間。


再び机の下に潜りこんで現実味のないまま少しぼんやりとする。蛍光灯が落ちて割れる音が響くと、心臓がバクバクと嫌な音を立てているのを感じ始め、耳障りなほどの悲鳴があちこちで飛び交っているのが耳に入り始めた。頭上で大きな音が響くと、天井や壁が倒壊していくのが視界に入る。


すさまじい痛み、重み、視界の暗み、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い……。誰か、助け……。


「お嬢様? お嬢様っ」


体が揺さぶられる感覚に目を覚まし、布団を跳ねのけるようにして飛び起きた。べったりと嫌な汗をかいていて気持ち悪い。


今のは夢だったのだろうか?いいや違う、夢じゃない、頭に駆け巡る記憶が、逃避することを許してくれない。


私は地震で死んだんだ。死んだ、押しつぶされて、意識がなくなって。隣にいた美香はどうなったのだろうか?家族は?いったいどうなった!?


「お嬢様どうなさいました?」

「うるさいっ、今は一人にして!!」


いつもの癇癪かとため息を吐きながらメイドは去っていった。そんなの今はどうでもいい、全部耳障りだ、あぁ痛い、痛い、痛い。姿が違う、見える景色が違う、そんなことだってどうでもいい。みんなの無事が知りたい。あぁ! あぁ!! いったいどうしたらみんなの無事がわかるのだろうか。あの後いったいどうなったのか。頭がガンガンとわれそうに傷んで目が熱くなる。


こんなところにいるからみんなの無事が分からない!なんでこんなところにいるのか。私がいる場所はここじゃない、ここであっていいはずがない、やり場のない思いが体全体を巡る、体全体を使ってこの場所を否定する。


布団の落ちる音、花瓶が割れる音、枕が窓に当たる音、ドレスが床に投げつけられる音、紙の破られる音、辺りにいくら物が散乱して、息が途切れ途切れになろうとも、全く頭が回りやしない。


「何をしているの? まったく騒々しいわね」


パンッと乾いた音が響いて、右頬がじわじわと熱くなってくる。また、音が響いた。次は左の頬が熱くなってくる。頭から何か液状のものがかかった、熱い。熱さは私に訴えてくるのに、それらはまるで他人事かのように関心が動かない。


頭が全く回らない。


「いつもは叩けば、怯えて大人しくなるのに、何私を無視しているのかしら」


また音が響く。あぁ、うるさいうるさいうるさいっ!!!。頭がただでさえ回らないんだ、邪魔をしないで!! 美香がどうなったかを必死に思い出しているのだから。美香は隣にいた、間違いなく隣にいた。いつものあの席だ。地震が起きる前、天井が落下する瞬間、そうだお互い顔を見合わせて物が邪魔で見えなくなって、美香の声が急に聞こえなくなった。そうだ、急に声がしなくなった。それは、つまり。


「奥様っ、もうおやめくださいませ!」


「まだよ、ちっとも反省していないもの。しっかりとわからせてあげないと。どうやら平手じゃ足りないみたいね、鞭を持ってきなさい」


こんなのあんまりだ。違う、違う、死んだわけがない、死んでいいはずがない。大丈夫、美香は生きている、生きている生きている生きている生きている……。だって、そんな死ななきゃいけないような悪いことしていないじゃない、家族もそうだ、災害が何だ、そんな簡単に人が死んでたまるか。大丈夫誰も死んでいないって。


なんだ、そっか、だれも死んでいないのか。死んでないならこんなに焦る必要ないじゃん。大丈夫、大丈夫、大丈夫。


少しでも油断すると嫌なことばかり浮かび上がりそうになるのを必死に抑えて、言い聞かせ続ける。大丈夫、大丈夫、大丈夫。


皆生きている、みんないきている、ミンナイキテイル。


ぐるぐると言葉と一緒にようやく頭が回り始めた。急に痛みが自分のこととして襲い掛かってきた。熱いのは頬だけじゃない、全身がまるで焼けるように。


ピシィ! と鋭い音と共に、熱さがさらに増す。視界には床が見えている、だんだんとそれはぼやけてかすんで暗くなって。


意識はそこで途絶えた。





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