不良登場
さて、バスターミナルのチケット売り場を覗いてみると、かなりの人数が並んでいた。
来週が三連休だから、旅行にでも行く人が多いのだろうか。
俺は、あまりに様々なことがあったせいで空腹を忘れていた。
思い出したように腹がなり、チケット売り場を見たことで安心もしてしまい、食べ物を買うためにコンビニへと足を進めていた。
季節は秋。完全に日も暮れた。
暗がりの風は冷たい。
なんとなく、寂しさとこれでやっと実家に帰れるという嬉しさがあった。
「父ちゃん、母ちゃんこんな俺を許してくれ」
空に向かってそう言った時、いや、別に親は死んでいないということに気づいて、自分で笑ってしまった。
さて、コンビニの明かりが見えた時、俺は嫌な予感がした。
下品な笑い声、しかも複数人の喋り声が聞こえた。
賽銭泥棒の俺が言うのもおかしいが、俺の嫌いなタイプの人種だ。
不良、ヤンキー、暴走族。
それっぽい雰囲気の高校生くらいの男子4人組が道を塞ぐように、たむろしていた。
俺はこういう場面に何故かよく遭遇する。
別にパシリとかじゃないが、学生時代。何度もああいう連中にだる絡みされた。
大人になったも、パリピ系の後輩にいじられ、道端の不良に突然肩を組まれ「飲みに行こうぜ」と誘われたりした。
自分でも分からないが、今日もそんな予感がした。
「松田さん。今日はいいカモが多っいっすね」
リーダーはおそらく松田。かなり体格がよく、何故か鉄パイプを握っている。
「ああ、次のもやるぞ」
まずい。俺マークされている。
俺は道の端によると、俯き早足でそこを通過しようとした。
ニタニタと笑う取り巻き3人の顔が見える。
こうなったら人間終わりだと思った。
賽銭泥棒がいっても説得力はゼロだが。
「おい、そこの兄ちゃん」
人生終了の音が聞こえた。
とりあえず無視した、なぜなら俺はお前の兄ちゃんではないからだ!
そう、奴らに言えればいいのに。俺はビビって何も言えない。
「聞こえてんのか!」
取り巻き3人は俺を囲む。そしてしっかりと体を抑えられた。
「あの、警察呼びますよ」
俺のダサい抵抗だ。警察を呼んだら俺も逮捕される説はある。
「松田さん。こいつビビってますよ」
「そうだな。優しく金だけちょうだいしろ」
すると俺のポケットというポケットを探り始めた。
「やめてくれ、実家の母親が病気なんだ!今日帰らないと一生後悔する。1万だけでいいから残してくれ」
この期に及んで、命乞いならぬ、お金乞いをする俺。そして、勝手に母親を病気だと嘘をつく俺。
目の前の不良を越えるクズだ。
すると腹に鈍い痛みが走った。
松田が笑いながら俺を殴る。
「兄ちゃん。ごめんな、こんなとこ歩いてるのがわりぃんだよ。母親には兄ちゃんが死ねばいつでも会えるけどどうする」
何も言えない、痛みを堪えるので必死だ。
俺はその場に崩れ落ちるように倒れた。
「じゃあな兄ちゃん」
歩いて去っていく4人。
耳元にチャリンと音がする。
手を伸ばすと、松田が投げたのだろうか。
5円玉が残されていた。
俺はスーツの汚れを払い。
ビルの壁にもたれかかった。
残金は5円。
チケットの購入は不可能。完全に詰んだ。
そんな時、人は神頼みしたくなるものだ。
目的もなく歩いていると、「大国神社」と書かれた鳥居の前に、俺は立っていた。