表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/42

第5話 初夜

「お待たせしました。どうぞ!」


 アノヨロシが仰々しく案内してくれた寝室に入る。ダブルサイズのベッド。シーツや布団カバーは清潔感のある淡い色合いだった。ゆとりのある広さ……スイートルームだろうか?

 俺ひとりで使っていいのかな……。すごく贅沢をしてる気分だ。


「ありがとう。じゃあ、おやすみ」


 ベッドに身を投げて目を閉じる――。


「アノヨロシも休んでおいてね」

「はい」

 彼女の返事はとても小さく、しかし柔らかかった。

 ベッドの上に、なにかがポスンと乗っかる。俺の背中になにか……まてまて、まさか!?



 まさかっ!?



 あわてて振り向くと、アノヨロシが眼前にいた。


「うお!?」

 おどろいて飛びおきる!

「わっ!?」

 相手もおどろいてる!


「な、なにしてるの?」

「オーナーの言うとおり、眠ろうと思って……」


 俺は『休んでおいて』と言った。もしかして『一緒に寝よう』と解釈したのか?

(普通はいやがったり戸惑うよな……?)

「あ……」



『ひとつ。ニューリアンは所有者の命令に絶対服従である』



「そうか。命令だと思ったんだ」

「私、まちがってましたか?」

「なんて言えばいいんだろう……どこで休むかは、君が選んでいいんだ。必要じゃなければ休まなくてもいい」


「自由にしなさい、と?」

「『しなさい』じゃない。君は自由だ」

「……」


 アノヨロシはポカンとした顔でこちらを見た後、もじもじしながら言った。


「オーナーって変わった人ですね。私のこと、どんなふうに見えてるんですか?」

「かわいくて、頼りになって、いい子で、一緒にいると安心する相手……かな」


「~~~~っ! もー! そんなこと言われたら……もっと素を出していいのかなって……思っちゃうじゃないですか」

「もちろん!」


(ああ、もとの感じにもどってくれた)


 缶詰めを食べ終わったあたりから、話し方がよそよそしくなっていた。ニューリアンのルールを話して意識をしたのか、自分はモノだと言いきかせるような口ぶりだった。

 俺はそんな関係いやだ。純真でまじめで、我が強くてちょっとだけ跳ねっかえりな彼女と、ありのままのでいたい。

 


「もう1回だけ聞きます。後悔しませんね? 私が廃棄処分されたのは『性格に大きな問題あり』と判定されたからなんですよ?」

「『問題あり』ね……理由を当ててみようか。命令をいやがるとかそういう感じでしょ」


「な、なんでわかるんですか!?」


 あまりに思ったとおりの返事に笑ってしまう。

「すごく自然に話せてたから。俺の時代にいてもぜんぜん違和感ないよ。その……掟なんて、教えてもらうまで想像もできなかった」


 出会ってからずっとスムーズに会話できているのは、彼女が人間らしいからだろう。

 むしろ、今まで知り合った女の子のなかで、いちばん相性がいいかも……。あ、いや! 個人的な意見だけど!

 とにかく仲良くやっていきたい。それが俺の素直な気持ちだ。

 


「アノヨロシ、いい? 俺が命令……いや、頼みごとをしたとき、『いやだな』とか『必要あるの?』って思ったら、それを正直に言ってほしい」


 小首をかしげて考えたあと、ゆっくりうなずくアノヨロシ。


「よかった。じゃあ、今後のために練習をしてみよう。今から頼みごとをするから、自分の思うままに反応してみて」


 俺の考えはこうだ。

『無茶なお願いをして、ぜんぶ断ってもらう』



 さっきの缶詰めを100個食べてほしい。この宇宙船をなんとしても飛べるようにして。全客室のベッドメイクをして……などなど。


「できるわけないですよ~……」


 お願いをこばむうちに、語気から少しずつ『我』があらわれてきた。


「……やる意味あります? オーナー、ムチャなことばかり言って、変なの」

「そう、そんな感じ!」


 両手のサムズアップで好感触をつたえる。よほどおかしかったのか、彼女はふいに笑いはじめた。

「ふふ……あはははは。ほんとうに変な人!」


 つられて俺も笑う。いいな、こういうの。

 よし、最後にもうひとつだけお願いを断ってもらったら、こんどこそ寝よう。すこし緊張するな。今ならちゃんと拒否してくれるに違いない。


「つぎでラストオーダー! 今日はいっしょに寝てほしいな……」

「あ、はーい」




 あれ?




「電気、消しますよ?」



 え? まってまって? 断るべきシーンだろ!?

 おかしい……なぜ素直にしたがうんだ?


 部屋のなかが真っ暗になった。ベッドのわきにある、小さなオレンジ色の明かりが、枕もとをわずかに照らすだけだ。


 アノヨロシは布団のなかに入ってしまった。


「……おやすみなさい、オーナー」

「お、おやすみ……」


 気がつくと、手が汗でびっしょりになっていた。服のすそで入念にふく……もう覚悟を決めるしかない。き、切り替えろ! 暴れまくる心臓の鼓動をおさえて。そして心おだやかに眠る方法を考えるんだ!


(そうだ!)


 俺は寝返りをうって、彼女に背を向けた。顔をあわせなければ、多少は気がまぎれるだろう。ダブルベッドでよかった。あるていどの距離を保てるから。


 ほら……窓があるぞ。外もすっかり夜みたいだ。街の明かりなんてものはない。瓦礫だらけの荒野なんだから、当然さ。


 ひとつだけ、地平線のうえに『タワー』が見える。イルミネーションが鮮やかできれいだな。あれは俺の時代のものじゃないな……見覚えがない。何メートルかな?

 あそこの周辺にシティっていうのがあるのかな。明日になったら行ってみようか。


 などと考えていると!

 


 ふにっ。


「ん?」

 背中になにか当たってるような? あ、肩になにかが乗ってきた――腕? 腕だ。

 つまり! アノヨロシが抱きついている!


(うおおおおおおおお!?)


 いつの間にか密着状態になっている。

 やわらかいふたつの感触に、全身がこわばる! おちつけ、おちつけ!

 耳をすませば、スースーと寝息をたてているのがわかる。無意識の行動なんだよ。なにか深~~~~い意味があるわけじゃないんだ!

 あ、うなじが……吐息でくすぐったい。


 だめだ! 『俺タワー』が建築されてしまう!


 眠れ、眠るんだセイジ!

 ひつじが2匹、ひつじが3匹、ひつじが5匹、ひつじが7匹、羊が11匹……!




 こうして、西暦2333年、俺の初めての夜がふけていった。

つづく






ここまでお読みくださり、ありがとうございます。


作品への応援をいただけると、大変はげみとなります。


今後ともよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 300年前。今で考えるなら江戸時代の人間の価値観って今だとどう扱われるんだろうって思った。変人程度で済むのかな。
[良い点] おやおや・・?これは何やらおもしろ・・いや、仲睦まじくなる予感?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ