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29ー幕間 博霊隊、オリビア輸送任務

 日が落ちて暗闇に包まれる森の中、オレたち博霊隊はオリビアさんを連れて移動を開始した。


 砦防衛のためにケーちゃん先生から連合軍へ援軍を要請する大役を任された。

 援軍が届かなければ、砦はダークエルフ率いる大軍勢に蹂躙されてしまうだろう。オレたちの任務失敗は砦で仲良くなったエルフや小人の死。失敗するわけにはいかない。


 砦にはケーちゃん先生がいるとはいえ、あの性格だと万が一の場合になればエルフを切り捨てかねない。やっぱり絶対に失敗は許されない。


 まずは目的地の方角を確認しましょうというオリビアさんの提案で坂道を登っていた。森の中には目印がない。どこもかしこも同じような木々が並んでいる。川に出れば辿っていけるが、その川までが遠かった。


 しばらく森の中を走ると見晴らしのいい場所に出た。


「見て。すごい数。あれ全部敵?」

「大きく迂回したほうが良さそうだよ」

「ああ、そうしよう。オリビアさんもそれでいいですか?」

「お任せします」

『チューイ! チューイ! 頭上に注意!』


 ケーイチ、ケージ、ケーゾウが一斉に警報を鳴らす。木に密着して頭上を見上げる。


 白いドレスを着た女性が、モンスターに囲まれて空中を移動していた。


「翼も無いのに飛べるだなんて、あんな魔法があるのか」


 白いドレスの女が纏っている異様な空気。たぶん以前出会ったスーツの化物と同類だ。


 騒ぎたてる三匹を落ち着かせる。息を潜めて白いドレスの女が通り過ぎるのを待った。

 見つかったら終わる。ケーちゃん先生と同様、あれは敵に回しちゃダメな存在だ。


 連中はなんだか急いでいる様子だった。下を見ることもなく早々と通りすぎてくれた。


「よし、急いで離れよう。オリビアさん、透明化してオレの背中に乗ってください」

「はい。お願いします」


 邪魔になるから肩に乗るケーイチを頭に移した。

 オリビアさんをおんぶする。肩に手の重みを感じたところでオレも透明化した。


「ケーイチ、オリビアさん、しっかり捕まってください」

『ヒャッハー! いけいけー!』


 頭頂部が痛い。髪の毛が引き抜かれそうだ。


「ケーイチ、痛いからもうちょっと優しく掴んでね」

『ゴーゴーゴー!』


 返事はなかったけども、(りき)みは緩んだ。

 ごめんなさいはできないみたいだ。そういえばケーちゃん先生も謝るのが苦手だった。今の態度で性格をしっかり受け継いでいるのがわかった。


 準備が整ったら急いでその場を離れる。

 急な事態に対処できるように、三人の距離を一定の間隔に保って移動する。足元に気をつけながら、足音にも注意して走った。


『チューイ! 頭上に注意!』


 パッと空が明るくなった。上を見なくても異常さが伝わってくる。

 伝わってくるのだけど。自分の真上にあると思うと、どうしても立ち止まって、上を見ずにはいられなかった。


「あのレベルと戦えるのかい……?」


 自分で抑えられないくらい膝がカクついている。いつも気丈なサキですら同じ有様だ。ユーキは絶句している。オリビアさんも震えていた。

 

 多分、あの白いドレスの女の仕業だ。じゃなきゃ、偶然ここに巨大隕石が落ちてきたかだ。


『無理無理! 勝てんぜあれは!』

『むーりー』

『三人の心を一つにするんだ! うおおお!』


 三匹がはしゃいでるけど対抗しようとはしていない。ケーイチとケージは完全に諦めてる。


「ケージ。どうにかして」

『無理なもんはむーりー』


『そんなことない! やればできる! 三人の心を一つにすればいける!』


「ケーゾウの言う通りだ。やればできる! ケーイチがんばって!」

『ふぁーあ少し休もうぜ』


「同じ奴から出てきたとは思えないほどバラバラだね」

『うわーん!』


 兄弟に無視されてケーゾウが泣き始めた。サキが抱っこして慰めてる。


 おちゃらけたケーイチ。面倒臭がりなケージ。泣き虫のケーゾウ。


 本当にバラバラだ。産まれたばかりなのに性格形成が早すぎる。多分ケーちゃん先生の記憶を受け継いでいるんだろうけど、だとしたらどうしてこんなにもバラバラなのか。早くも育児の大変さを思い知った気がする。


 巨大隕石がいつまでも衝突しないと思ったら、どうやら大きさを見誤っていたようだ。隕石は思っていた以上に大きかった。被害がどこまで広がるのか想像もつかない。あれだけ意気込んでいたケーゾウですら『やっぱり無理だったかも』と意見を変えるくらいだ。


 唯一の逃げ道といえばダンジョンゲートだけだ。でも、隕石が落ちる前に出られるかどうか。ここから草原エリアまで間に合いそうにない。


 諦めかけたその時、足もとから黒紫色の光が湧き上がってきた。


「進もう。オレたちにできるのはそれしかない」


 誰もが真上の隕石に気を取られる状況を上手く利用しない手はない。


 みんなで頷き合い、黒紫色に染まる景色のなかで移動を再開した。

 多分この黒紫の景色を作り出したのはケーちゃん先生だ。あの巨大隕石に対抗するための措置と思われる。

 三匹が能力の記憶を受け継いでいるとしたら、早々に諦めていた三匹と最後まで足掻くケーちゃん先生の違いはなんなのだろう。


 しばらく森の中を駆けると偶然敵拠点に着いた。

 敵は出払っている。檻に入れられた捕虜以外は人が残っていない状態だった。

 この状況は捕虜を解放する好機だ。大勢での移動は危険だけど、救出を優先して錠前を壊していく。


「捕虜には各自で逃げてもらって、私たちは引き続き連合軍の拠点を目指しましょう」


 オリビアさんが冷酷に言い放った。

 捕虜を見捨てるような提案ではある。でも、たしかにそうすれば、オレ達の位置を特定されにくくなる。それに今は事態が切迫している。


 後ろ髪を引かれる思いではあるが、オリビアさんの提案に賛成して捕虜に説明した。


 反発はあった。助けておきながら最後まで面倒見ないなんて無責任にも程がある。同行を懇願する捕虜もいた。


 正論だ。けれど今は構っていられない。



 捕虜との言い争いを終わらせるかのように、空で巨大隕石と黒紫の球体が衝突した。


 夜空に光の円が広がり、強烈な衝撃波がここまで届いた。遅れて地響きが鳴り、木々が揺れる。


 辺りが静まる。すると、視界に収まらないほど巨大だった隕石が、まるで元から無かったように消え去っていた。


 あれと同じことが三匹にもできるとしたら……


 改めてケーイチと向き合う必要がありそうだ。放任主義はできそうにない。

 だが今はケーイチと真剣に話す時間も無いから後回しにしよう。


 とりあえず隕石落下で人生強制終了なんてことにならずに済んでホッとした。

 


 オレの予想が正しければ、全ての敵は砦へ向かっている。砦を落としたあと、そのまま森エリアから撤退する可能性も考えられる。

 見張りを残していない。捕虜だけを残している。拠点を空けたままにする。もう拠点に戻る気がないとしか考えられない。


 普段は敵に見つかりやすい手段だけれど、敵がいない今なら河原に出て、素早く移動できるかもしれない。


 思ったことを三人に相談し、今後の行動を修正していく。

 敵の動きがおかしいと感じていたのは他の三人も同じだったようで、試しに河原ルートを選択することになった。


 砦に戦力を割いているとしたら、もし見つかっても敵は少数の可能性が高い。少数が相手なら勝てる。いざとなったら頼りになる三匹がいる。


 オレらが連合軍拠点に早く到着すれば、空っぽになった敵拠点から捕虜を救出する余裕も出てくるはずだ。急げば急ぐほど人命が救われる。


 そんなことを考えたら河原ルートしか選べなくなっていた。

 捕虜の数人がオレ達の会議を聞いていたらしく、これからの行動を説明すると素直に聞いてくれた。

 各自で連合軍拠点へ向かうことを捕虜の代表と合意し、捕虜たちと別れた。


 オレらは河原ルートを行き、捕虜たちは森の中を行く。今しかないという焦りもあって急いで敵拠点を出た────。




 河原を全速力で駆け抜ける。どうやら敵が拠点に置いていった者の中には、捕虜だけでなく砦攻略に向かない者もいたらしい。


「カァーッ! カァーッ!」

「がんばれえええ! もう少しだあああ!」


「シャー! シャー!」


 威嚇しながら鉱石トカゲの群れが追いかけてくる。

 上からヤタガラスの小石が落ちてくるし、意外とこれがウザったい。


 確かにコイツらみたいなモンスターは砦攻略に適さないな。連れて行くにしても、群れになるほどの数は要らない。


 走力はこっちが上だから、このまま突っ走って連合軍に倒してもらったほうが良さそうだ。


 連合軍本陣の方で鐘が鳴り出した。もうちょっと耐えたら助けが来てくれるはず。


 すると連合軍拠点が見えてきたところで人影が見えた。こんな夜更けにたったひとりで突っ立ってるのもおかしい。見間違いかもしれない。


「まずい。誰かいる。巻き込む」


 見間違いじゃなかった。ユーキも同じ人影を見ている。


「オレが抱える!」

「二人目はきついだろ! アタイに任せな!」


 サキが速度を上げて先頭に出た。返事はいらないようだ。


 群れに追われるオレらが見えてるはずなのに、その人影は離れて行くどころかコッチに向かってきた。



「モンスタートレインじゃーん」



 女の声だった。すれ違う女を「危ない」とサキが捕まえようとする次の瞬間、女の姿が視界から消えた。


 ほぼ同時だったか。追いかけてくる鉱石トカゲの鳴き声も足音も無くなった。


 急ブレーキをかけて振り返る。


 全て倒された鉱石トカゲ。突っ立っている一人の女。カーカー鳴いてるヤタガラス。


 信じられない光景が広がっていた。


 あの女の仕業だとしたら、あまりにも速すぎる。戦闘音もトカゲの悲鳴すら聞こえなかった。まるで時を止めたとしか思えない。


 オレらを上回る強者。でもケーちゃん先生と対立する人外共よりは纏う空気が穏やかでトゲがない。


 女は警察の機動隊のような制服を着ている。

 女の気配は柔らかい。服装のほうが威圧感があるくらい。普通の女性に見えた。


「あの、ありがとうございます」


 ひっくり返って痙攣する鉱石トカゲの中をユーキが歩いていき、女に感謝を述べた。


 全ての鉱石トカゲの首が折られている。女は手に何も持っていないようだけど、全部素手でやったのか。


 あの一瞬で? やっぱり時を止めたのか。


「どういたしまして。ただモンスタートレインはマナー違反だから気をつけてねー。モンスターごとやられても文句言えないよー」

「ごめんなさい」


 ユーキだけに謝らせるわけもいかないから、言い訳を含めて謝罪する。


「すいませんでした。けれど今は緊急事態でして、すぐにでも連合軍本陣に向かう必要がありました。お礼を申し上げる前に用事を済ませてきてもいいですか?」


「どうぞどうぞ、ついて行ってもいーい?」


 多分、この人には束になっても勝てない。もしこの人がオレの予想通り、時を止められるとしたら、三匹は倒されなくともオレ達は倒される。


 物腰が柔らかい今のうちは逆らわないほうがいいかもしれない。


「もちろんです。オリビアさんもそれでいいですね?」

「はい。あなた方の判断にお任せします」


「じゃあ、ついて行かせてもらいまーす。先に自己紹介だけ済ませましょ。

 ウチは白田ヤヨイ。君たちにわかりやすく言うとー……

 ケーちゃんの保護者ってところかな」


 只者じゃない感じはしていた。流石はケーちゃん先生の知り合いだ。

 オレらのことを知ってるみたいだし、連絡を取り合っていたんだろうか。それとも地上で調査された?


 三匹のことといい。ヤヨイさんのことといい。ケーちゃん先生の面倒見のよさには感謝と尊敬の念しかない。


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