表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/243

29-1 愚者の中の愚者、発動!

────────────────────────

『愚者の中の愚者』

 『しわよせ』の力を使えるようになった証。

 世界のルールを壊しても他の『しわよせ』が現れなくなる。

 代償として自身の『しわよせ』化が進む。

 〖超・神パワー〗を得る。

────────────────────────


「愚者の中の愚者、発動!」


 この掛け声は虚勢だ。口に出しても特別な効果は得られない。


 俺はこれから世界のルールを壊しまくって『しわよせ』ってやつになるわけ。だから気合の掛け声だ。


 人から外れた姿で過ごしておいて今更かもしれんがな。でも、やっぱり不安だから気合いでも入れて切り替えないとやってられんのよ。



 空から巨大隕石がゆっくりと落ちてくる。


 夫を失った豊穣神ロノイナンナの怒りが、無関係の者たちにまで降りかかろうとしていた。


「神様が茶化しに来んかったら、今頃解決しとったんやがなぁ」


 ま、本当に大事なお知らせだったし、苦情は言わない。


 それに時間があれば解決できたとはいえ無傷では済まないだろう。


 当初の解決策では、大量の触手と黒紫光線の合体技で巨大隕石を壊すつもりだった。それでも全てをカバーできないから、壊れた隕石の破片は見過ごすことになったはずだ。


 大陸の蒸発は防げても、隕石の破片は広範囲に散らばっていただろう。焼けた石ころが大陸中に落ちてくるんだ。特に森への被害は甚大になる。


 だからこんな切羽詰まった状況でも新しい選択肢ができたのは嬉しいことだ。


 こうなるのを見計らったかのようなタイミングで現れたから、少しだけ神様への疑心が芽生えるが今は忘れよう。隕石が先だ。


 たしか巨大隕石を作り出したとき、ロノイナンナは「セレクトマジック」と唱えてスキルを組み合わせていたな。

 初めて見た技だ。俺もそれをやってみたい。


「セレクトマジック! おっ、チュートリアルきた。サンキュー」




【チュートリアル!】

 3つのスキルを選んでセットしよう。組み合わせ次第で新しい魔法が生まれるよ!

 どんな魔法になるかはあなた次第。魔力の込め方で魔法が変わるから色々試してみよう!


※注意※ 魔力不足に気をつけよう。使用前にはシミュレーションで魔法のイメージを確認しようね。




「スキルは3つだけかぁ。窮屈やな。さっそく掟破りの技でいくか。


〖超・神パワー〗×〖神パワー:〖光魔王〗×『静寂』〗×〖黒紫のオーラ〗×『極複製神の神鏡』=


 よっしゃ! 成功だ!


 これでぶっ飛べ 【大黒紫星食点だいこくしせいしょくてん】」



 地上から黒紫色の星が頭を出した。


 透き通った黒紫色星はあらゆるものを通り抜け、砦の者たちをも飲み込んでいく。


 城内から怯える声がチラホラ聞こえてきた。


 景色を黒紫色に変えるだけで、誰にも外傷を与えずに通過したら、城内の奴らは急に態度を変えて歓声を上げていた。


 黒紫色星は上へ、上へ、と巨大隕石に引きつけられるように浮き上がっていく。



 コ゛コ゛コ゛コ゛ォ………!!


    コ゛コ゛コ゛ォ………!!


 鏡合わせの二つの星が導かれるように引かれ合う。向かい合う地表が重なったとき、光の線が夜を切り裂いた。


 星同士は勢いを増して熱を帯びる。互いに求め合い、面と面をこすり付け合い、少しずつ体積を打ち消し合った。


 衝突による凄まじい魔力の余波は大気を唸らせる。静かな森を騒がし、大地を大きく揺さぶった。



「ポエムを思いつきそうな光景だぜ」


 球体だった星と星は一筋の光の線となり、徐々に夜の闇へと飲み込まれていった。



「あ゛ァァァああああああああ!」


 敵味方ともに歓声が止み、静かになった戦場で金切り声が響く。


 ロノイナンナのものだ。


 彼女の周りを囲んでいた松明の光が散り散りになった。松明の持ち主はおそらくロノイナンナの信者だろう。とばっちりを受ける前に逃げたな。


 いきなり発狂したロノイナンナに周りの奴らも怯えとるぜ。

 そりゃあ、すぐそばで絶対強者が暴れ散らかしたら恐いわな。


「新人ごときがどうしてあんな魔法を使える! なんだあれは! なんなんだ!」


 ロノイナンナは暴れ狂いながら地上に降りてきた。八つ当たりで木々が折られていく。


 こっわ。ちょっとヒステリックになってんね。


 なんだかひとりぼっちで可哀想やし、放ってはおけないよな。


 大触手を翼に変え、パタパターっと飛んで向かう。


「おめぇのおかげで学びを得たぜ。サンキューな」


 目の前で頭を掻きむしっているのが豊穣神ロノイナンナ。

 キラキラの白いドレスを身に纏う獣耳の美女だ。そして未亡人である。


「なんなんだお前は。なぜステータスを隠さない。なんだ? 『しわよせ』? 意味がわからない」


「意味なんて考えても意味ないぜ。それよりよ。派手にやりたい気持ちはわかるけども。ああいうのはやめようや。

 あんな魔法じゃ俺は死なんから無駄な巻き添えを出そうとすんな。俺だけを狙え」


「お前は夫を殺した! 絶対にゆるさない!


セレクトコンバット!

〖武神〗×〖剣神〗×〖芸能神〗=

【ザババクースタイル】」


「はぁ……会話になんねぇや」



 なんだかよくわからんスキルを発声して、亜空間からなんか取り出していた。

 亜空間が閉じる。ロノイナンナが持っていたのは、宝石の装飾が施された長剣だった。


 あの剣の素材、魔法金属では無さそうに見える。彼女は知らないのだろうか。分裂神といわれる俺らには魔法金属で作られた武器しか通用しない。


 ま、俺は魔法金属でも傷つかないから、殺す手段がわからなくて困っているわけやが。


 ロノイナンナは呪文を唱え、神々しい光を長剣にまとわせた。重心を一切ズラさず、両手で長剣を構えたまま動かなくなった。いや、少しずつ近づいている。


 獣戦神ザババクーは小細工無しに突っ込んできたが、嫁の戦い方はその真逆だ。魔法を巧みに操り、無策で飛び込んでこない。



 ジリジリと間合いを詰めてくるロノイナンナの動きに合わせ、触手と触手の間に細い魔法金属の糸を少しずつ張らせていく。時が来たら弓なりに糸を起こし、相手の力を利用して斬る寸法よ。


 先制攻撃で隕石を落としてきた割には一対一で立ち合うと落ち着いていて攻勢に出てこない。


 カウンタータイプかね。試しに黒紫光線で攻撃を誘ってみるか。そのままトドメになっちゃうかもだけど。


 触手の先を向けてビビビー! っと黒紫光線を放つ。


 ロノイナンナは長剣を盾にする構えを見せる。しかし直前で動作をキャンセルし、大きく身を(ひるがえ)して避けた。


 目標を失った黒紫光線が地面と木々を削ってから消える。ウッドチップで燻製したアサリの味がした。


 どうやら初見で黒紫光線の力を見破られたらしい。これはマズイことになった。黒紫光線は曲がらないから警戒されると避けられやすい。バカやった。


 黒紫のオーラを全身から放出して身を守る。黒紫光線の脅威を知ったのなら、これがどれだけ最強無敵の力なのかもわかっただろう。

 黒紫のオーラを纏った俺にはどんな攻撃も通じない。触れた瞬間からなんでも魔力に変換して俺の糧になる。これで食べられなかった物などない。


 俺を倒そうとした時点で胃袋の中ってわけ。生き延びたいなら逃げるしかないのよ。



「触れたらエネルギーに変換して吸収するのね。カラクリがわかれば対処もできるわ。エンチャント〖マナドレイン〗」



 長剣に新しくミドリ色のオーラが足された。

 黒紫のオーラを一目見ただけなのに勝機を見出したのか、冷静な立ち回りから一転して攻勢に出てきた。


 今だ! 糸をピンと張らせる。


 ロノイナンナが長剣を振り下ろした。俺に届く直前で糸が攻撃を防ぐ。


 長剣が力で押し込まれていく。しかし素材として格上の魔法金属製の糸は切れず、逆に長剣の方が割かれ始めた。


 ただ糸を固定しているだけで、長剣がどんどん割かれていく。

 半ばまで割かれたあたりで長剣が引き抜かれた。


 ロノイナンナはバックステップから、すかさずサイドステップを踏み、しっかり糸を避けてから俺を斬りつけてきた。


 バキンッ!



 ロノイナンナの動きは見えていた。見えていたのに全く反応できないままダメージを貰ってしまった。


「うそやろ」


 ダメージを貰った。黒紫のオーラをすり抜けて、ダメージを貰った。


         ダメージ……


     ダメージ……    



 ショック。弱点がないはずなのに。言葉通り黒紫のオーラを破ってきやがった。たった一つの魔法で対処されてしまった。


 体は傷ついてないけど心は傷ついてる。

 俺を支えてきた最強の黒紫のオーラ様が負けた……?


 まさか、こうもあっさりと攻略されるなんて信じたくない。

 


 戦闘中だぞ。バカか俺は。分析しろ。俺にはそれしか取り柄がないだろうが。


 つーか、こいつ戦闘系の格式じゃなくて豊穣神よな。今まで食ってきた先輩使者とは一味ちがう。


 恐るべきはロノイナンナの技量だ。

 長剣よりも糸のほうが材質が上とはいえ、長剣が粗悪品でもなければ簡単には壊れない。


 粗末な武器で挑んでこないだろうから鉄より頑丈なのは間違いない。糸で斬撃を受けたとき、それなりの抵抗も感じた。


 ロノイナンナは割と良く出来た長剣が自壊するほどの威力で斬撃を放ったうえ、途中でブレーキをかけ、バックステップで威力を殺したのだ。


 結果的に長剣は折れて刀身が地面に刺さってるけど、それは俺にダメージを与えた上での名誉の損壊だ。宝石剣の製作者は誇っていい。


「やるやん。黒紫のオーラを突破したのはおめぇが初めてだぞ。ちょっと焦ってるぜ」


「あーあ、剣が折れたわ。お前のせいで我のお気に入りの剣が壊れたんだが? 謝罪しろ」


 先輩使者と会話のキャッチボールはできない。なぜなら相手は自分のことを神だと思っているから。

 神の身分なら上から下へ言葉を投げ込むのが当たり前だとでも思っている。


 本物の神様と比べたら器の大きさがしょぼすぎてな。


「さーせんさーせん」

「言葉ではなく形で示せ。物で償え。魔法金属の武器で弁償しろ」


 弁償って。あ、さてはコイツ。俺を殺す手段を持ってないな。

 俺を倒すための武器を敵である俺から貰おうってか。賢いな。


「すまんけど今は持ち合わせとらんのよ」

「夫の形見を返せ。魔法金属の斧を返せ」


 斧はもう食べてしまったから返せない。形を覚えていないから夫の形見を再現できない。


「無い。食った」

「なに! 食っただと!? 嘘を吐くな!」


 お、反応したな。やっと会話する気になったか。


 しかし嘘を吐くなって言われてもな。どうやって証明しよう。会話してくれるみたいだし、色々喋らせてから殺したい。どうしよう。食い方なら伝えられるか。


 折れた刀身を拾って黒紫食いした。水道水のような味だ。


「こうやって斧も食った。黒砂糖みたいな味だったぜ」

「無知を晒したわね。魔法では魔法金属武器を壊せない」


 よし、食いついた。あとは釣り上げるだけや。


「ちなみに剣を壊した糸は魔法金属製だぜ。触ってみ、傷がついたら本物やろ?」

「そんなまさか」


 分裂神である使者の体は魔法金属以外で傷つかない。

 ロノイナンナは疑いながらも糸に触れ、指の皮一枚切った。驚愕の色を見せる彼女だったが、魔法金属の糸を黒紫食いしたら、さらに驚きを強めた。


「おめぇの夫もこうして食った。どうや、信じたか。これからおめぇを食えば信じてくれるか?」


「信じるわ。お前はその糸のように魔法金属を出せるのよね。今ここで出せ。その糸を出せるだけ出せば夫を殺した罪をゆるしてあげるわ」


「おめぇ、夫を殺されても実はそんなに怒ってないやろ。物欲が勝っとるやんけ」

「はっ! いいえ怒っているわ。魔法金属の方が我にとって貴重なだけよ。さあ出せ」


「いいや怒っとらんね。どうせ100年後には復活するから貰えるだけ貰っとこうって算段やろ。あんま俺をみくびるなよ」


 するとロノイナンナはすっかり闘志を無くして溜め息を吐いた。


「はぁ……これだから産まれたばかりのひよっこは面倒なのよ。たしかにお前の言う通り、時が経てば神は復活する。しかしそれは以前の夫ではないの。誕生するのは全ての記憶を無くし、力だけをそのまま継承した別の姿の神。かつては我もそうだったわ」


 なるほど合点がいった。先輩使者がどいつもこいつも神様気取りな理由はこれか。


 復活後にどういう誕生をするかはわからんが、強大な力を持って産まれたら傲慢になっても無理はない。

 究極の暴力を持って産まれたら、引きこもりニートにはなれないよな。


「その話が本当なら魔法金属を譲ってやってもええぞ。でも嘘なら俺だけ損するやんか。だからといって今の話を証明するには100年は待たないといかんわけやろ。なんかと交換しようや」


「夫を殺した罪を許してやる」


「おめぇからは教えてもらいたいもんがあるし、これからも仲良くしてやってもええよ。でも許してもらうだけじゃ釣り合わんわな。俺の嫁になるくらいはやってもらわんと」


 顔もスタイルもええし、美しいケモミミ女神を嫁にすりゃあ、毎日が楽しくなるぜ。

 社会的なしがらみもないし、一緒になるなら長生きする奴がええしな。


「気持ち悪い。断る。絶対にごめんだわ」


「ま、そうなるか。じゃあ……」



 互いに戦闘態勢をとる。



 もはや言葉は不要。俺らのような強者同士は、戦うことでしかわかりあえない。



「100年後に会おうぜ──」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ