22-1 めざせ、指定モンスター! ※ステータスあり
死から目覚めた三人に問いかける。
「天国と地獄。どっちやった?」
天国も地獄も無の世界もあるらしい。たまにオタク部屋だったりしてな。
三人の答えはそれぞれ違った。河原だったり、森だったり、荒野だったり。意外と地球っぽい表現でな。
ただ三人とも共通していたのは空が赤くて風が冷たいということ。全員地獄や。
天国の空は美しすぎて形容できないんだってさ。そして地上は無く、ぽかぽかした海の上なんだってさ。天国に行ったのがひとりだけやから情報が少ねえ。
行きてぇなー! 先輩使者たちは俺を殺しにこーい!
「ほんじゃあ帰りますか。こっちが真っ暗なんやから、今頃あっちも真っ暗や」
8時間に渡る奥義の儀式、パワーレベリングの時間を含めれば約9時間。研修含めれば11時間。これだけ長時間の束縛から解放されれば自衛官さえも歓喜に沸く。
「モンスター三人は屋敷で俺の帰りを待っとってくれな」
しーん。急に空気が悪くなるのを感じとった。
「お、どうしたどうした。言いたいことあるならはっきり言ってくれや」
「ハナマルたちはここに置いていくってことですか?」
「連れて行けるわけないやんけ。モンスターやぞ」
「それアンタもぉ!!」
清水さんいいツッコミですねえ。あとちょっと知識があればツッコミが上達すると思うわ。
「せやな。でも俺はオッケーなんや。世界の安全に貢献し、他国から受けた報酬を国に寄贈することで朝廷と世界に公認された指定モンスターやからな。こいつらはただのモンスターやんけ。外に出たら討伐されても文句言えねえぜ」
「待って待って、オラは!? オラは人間と変わんねえぞ!」
これに反応したのはユーキちゃん。たしかにステータスでは種族が『ヒト』やし、性別が変わった以外はそれほど人外な面はない。帰りたい気持ちもわかる。
「せやな。でも頭ん中に魔石があるやんか。ダンジョンの入り口と街中には警察が設置した特殊カメラがある。隠れた魔石を判別する装置や。探索者が魔石の闇取引を行ってないか監視するためにな。引っかかるぜユーキちゃん」
「そんなぁ……」
「あ、表向きにはモンスターの流出を察知する目的ってことになっとるんやった。間違えた間違えた。さっきのは忘れてくれや。
やり直すぜ。モンスターの流出を察知するための装置が街中にあるから引っかかるぜユーキちゃん」
「そんなぁ……」
「「「「…………」」」」
みんながみんなして苦虫を噛み潰したような顔をしとる。自衛官まで。
「おいケーさん、てめぇ。アタイらを嵌めたのかい?」
「そんなつもりはねえぜ。どういう意味や」
「アタイらをダンジョンに監禁するためにモンスターに変えたんじゃないかって意味だよ。外に出られないだなんて一言もなかっただろうが」
あれ。言わなかったっけ。やっべ。忘れてた。どうしよ。
うーん。よし。逃げよう。
「い、一般論として、モンスターが街をうろついてたら危ないと思うやろ。モンスターになるってことはそれ相応のリスクがあるわけ。説明不足という言い訳は聞かねえぜ。常識知らずを俺のせいにされたらたまんねえわ」
そうそう常識なのよ。モンスターが街中に現れたら通報するのが常識やんか。特別な場合を除いてモンスターはダンジョンから地上に出られないわけやし。
「……じゃあ、アタイらはダンジョンに放っておくってことかい。こんなところまで連れてきておいて、放置?
そんなの殺人と何が違うんだ。モンスターに変えておいてそれは無責任だろ」
全くもって正論ですわ。反論の余地なし。こんなん無責任だわな。でも放置する気はない。ちゃんとエルフの村まで戻るつもりよ。単にこの村がレベル上げしやすい渓谷エリアの近くだから残っていて欲しいだけなんだよな。三人とも疲れているだろうし、往復するのはキツいだろうしよ。
本当の気持ちに嘘はつかん。モンスターにした以上は最後まで面倒見る。
「ちゃんと俺は世話するぜ。こればっかりは信じてもらうしかねえけど。
これまでも全員、指定モンスターにする努力はしてきたつもりなんだぜ。結果的に失敗したけどよ……」
「待って! それって!」
俺の悲しみに反応したのはロロくん。俺の過去を知りたいのかい?
「それって、じゃあハナマルはいつダンジョンから出られるわけ?
指定モンスターになるには社会に貢献しないとダメなんでしょ。外に出られないなら社会貢献もできないんじゃないの!?」
なんだ。俺に興味なしか。そりゃそうか。その辺の説明はまだやもんな。
「指定モンスターになる条件は3つある。うちひとつはすでにクリアしてるぜ。それは意思疎通ができること。
次に、ダンジョンとモンスターに関する法律を熟知していること。
最後は政府に認められることや。最初の2つはクリアが難しくないんよな。最後でつまずいてみんな死んだんや」
ダンジョンとモンスターに関する法律を熟知して、試験に合格すれば監視付きで外出できるようになる。外には出られるけど、そっから先が一番大事なんよな。条件が3つとは言ったものの朝廷と政府次第では無限に条件が加えられる。
その条件の中で必ず守らなければならないものがある。それは指定モンスターになるまでは俺の指示に絶対服従すること。
エッチしろと言ったらエッチするんや。そんな指示を出す気はないけども、それくらいの覚悟は持って貰わないといかん。
これを言ったらやっぱり罠に嵌めたんじゃないかって話に戻った。俺にとってのメリットが大きいのは理解できるけど、力を持つとそれだけ責任が伴うってことや。
俺だって最初は外に出ないことを警察に約束したんやからな。監禁中に殴られたり、罵倒を浴びたりもしても我慢したんやぞ。時には人体実験に付き合ったりしてな。それを言ったら大人しくなってくれたわ。
とにかく最初はレベル上げ。刺客に殺されないくらいには強くする。化学兵器に対する耐性は個人差がある。死なないためには、スキル取得で免疫力を上げることが先決。
「つーわけで、これが状態異常無効の指輪や。左手薬指に嵌めてもええで」
三人は指輪を受け取った。そしてそれぞれが指輪を指に嵌めた。左手薬指に嵌めた人は一人もいない。ハナマルくんでさえも……でも右手薬指だから強くは言えないわ。ありがとね。
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【LV.0】大吉ハナマル
【種族】瑞獣・麒麟
【重さ】 60
【戦闘力】MAX:10060
【タフネス】 9060
【魔力】 12
【スペック】
『ケーの魔石』『極娯楽神の植毛』『健康指輪(呪い)』
〈スキル〉
〖恐怖耐性LV.2〗〖退魔の鱗〗〖状態異常無効〗
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【LV.0】佐々木サキ
【種族】イフリータ
【重さ】 50
【戦闘力】MAX:10050
【タフネス】 9050
【魔力】 10
【スペック】
『ケーの魔石』『健康指輪(呪い)』
〈スキル〉
〖恐怖耐性LV.2〗〖火炎のオーラ〗〖状態異常無効〗
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【LV.0】如月ユーキ
【種族】ヒト
【重さ】 45
【戦闘力】MAX:5045
【タフネス】 4045
【魔力】 9
【スペック】
『ケーの魔石』『健康指輪(呪い)』
〈スキル〉
〖恐怖耐性LV.1〗〖状態異常無効〗
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「よし」
「よし、じゃねーよ。なんだこの健康指輪(呪い)って! (呪い)って!」
「これがオラのステータスなんか、本当だか?」
「レベルを上げて自分の目で確かめてみたらいいんじゃないか」
地面に書いたステータスをジッと見つめるユーキちゃん。お尻がぷりぷりや。イタズラしたい。
「エイ! カンチョー!」
「きゃ!」
「いひひひひひ! 痛った!」
後ろからボカッと叩かれた。サキさんがめっちゃ怒ってる。シカトしてさーせん。
「呪いってのは状態異常無効では防げない付与魔法のことだぜ。痛ったあ!」
サキさんが暴力的になった。ストレス発散できて楽しいね!
「指輪が外れねー! オラの指が外れそうだああああ!」
「ほんとだ。指が臭くなったら困るな」
「ハナマル冷静すぎでしょ。帰れないんだよ?」
「まあな……帰れないのは予想してたし。ただ、いっときでもロロと探索者業がやれないのが寂しいけどさ」
「ちゃんと勉強して帰ってきてよね」
お別れの時間や。そろそろ終電やしな。帰りは大変やぞ。
「サキ姐! 部屋はちゃんととっておくからさ。うちに帰ってきてよ!」
「ありがとねナギちゃん。絶対に帰ってくるから、焦ってレベル上げしてアタイに会いに来ようなんて……思わないでくださいね」
「ありゃ、バレてた?」
「逆の立場ならアタイがそうしてたから」
「やっぱりサキ姉はサキ姉だ」
いいねえ。帰りを待ってくれる人がいて。
「な、ユーキちゃん」
「なんだべ急に。なんが言いたいとね」
「いやね。二人はモンスターなのに帰りを待ってくれる人がいるんだぜ。でもユーキちゃんにはいねえじゃんか。寂しいなあと思ってよ」
「別に……寂しくはなか」
嘘だ。心が寂しがっている。教育につなげるために心を読ませていただきます。悪気は無い。これは俺に課せられた義務なんで。
「そういう奴が俺に殺されるんや」
「急に怖いこつば言わんでください」
「俺には心が読めるけどよ。人間にはそれができないわけ。正直な気持ちを言葉で表さないと俺に殺されるぜ。
考えてもみろよ。嘘を吐くモンスターと一緒に暮らせるか。本当はどう思ってるんや?」
苦しむように屈んで体操座りをするユーキちゃん。俺にはその心が見えてるぜ。さあ正直に吐け。
「……寂しか。オラ、帰っても学校しか居場所がねえから。お父とお母はミサイルで死んじまった」
「俺もや。最愛の猫もお盆で帰ってきた兄弟も、家族全員、あの爆弾で焼け死んだわ。強くなろうぜ」
「くうううう……」
あーあ、泣かしちまった。もらい泣きすっからやめてくれや。
そんな姿見せられるとさ。焼け焦げたはずの復讐心が再び燃え上がってくんのよ。
「オラ、づよぐなっで復讐ずるんや」
「せやな。相手は手強いぜ。大まかな正体は掴んだんやが、どこにいるんだか」
「ううう……なに…正体……?」
涙を拭い、現れた顔は怒りに満ち満ちていた。鬼だ。
「オラに犯人を教えろよ! 誰がやった!」
「国家機密や。指定モンスターになれたら教えてやるぜ。さ! 帰ろう帰ろう! いくぞ人間ども!」
「オラもついて行く!」
疲れてるだろうが。そんなことも忘れたのか。と思ったらオレも、アタイも、と増えて結局全員で帰る。
人間界への帰り道はモンスターと一戦も交えないけど、エルフ村への帰り道では戦わせるぞ。そう脅したけどついてきた。
「それでは我々は帰投します。ケーちゃん殿、今後の研修はどうされるのでありますか?」
「やめるぜ当然。今はこっちに集中したいんよな。前のような失敗はできねえ」
頭に浮かぶのは異形の者たちの姿。俺がこの手で殺した教え子たちの笑顔。
悪い奴らじゃなかった。みんないい奴らだった。
死刑囚からフリーターまで人間としての心は変わらなかった。ただただ正義感が強く。それゆえに死んだ。正義のために戦い、正義によって殺された。
俺らが任務で使う武器は話術でも、金銭でもなく、ただただ腕っぷしの強さのみだ。それは暴力とも言われる。それが仕事だとしても、暴力のみで人間社会に良い印象を抱いてもらうのは難しい。良かれと思ってやった事が悪い方向へと転がっていくのは日常茶飯事だ。たとえ助けを求められた場合でも、俺らが暴力で解決すれば、人から受けるのは感謝ではなく罰だったりする。地獄への道は善意で舗装されている。
"強引な正義の執行は、悪の所業と変わりません"
ふと思い出した陛下のお言葉が胸を締め付ける。
「教員免許があれば間違いも減らせたんかなあ」
「あまり思い詰めるのも良くないでありますよ」
横に並んだ元嫁がわかったような口を聞く。ほぼ別居だったくせにな。
「うるせえ! とっとと行け!」
「は、はい……」
「ごめん。その指輪は取るつもりねえから、おめぇは死なないでくれよ」
「はい……ごめんねケーちゃん」
自衛官がロミ少佐を呼ぶ。解体されたボスの素材は野営地でまとめてもらっていた。その運び出しの準備が終わったようだ。
ダンジョンで取れた素材は管理センターを通して売却される。個人では当然の手続きだが、法人や自衛隊も例外ではない。
「あばよ。元気でな。ロロくんは俺に任せろ」
「ありがとう」
ここ数日、俺とロミ少佐はずっと一緒だった。風呂もベッドも、トイレの時までずっと一緒にいた。監視のためだ。任務で与えられた数日間が、結婚生活の中で一番長く共にいた時間だった。それも今日で終わり。
ロミ少佐は俺と国を同時に裏切った。いや最初から味方じゃなかった。
おそらくヤヨイさんは初めから気付いていた。イランに渡る前にロミ少佐の身辺調査を済ませていたんだろうな。抜け目のない人だよ全く。
自衛隊は騙せても警察は騙せなかった。それでも俺には隠し通した。ホテルでロシア人の男と会わなければ、ずっと幸せが続いていただろうに。
ヤヨイさんには本当に足を向けて寝られない。
俺のためかどうかはわからねえけど、ロミ少佐のことを報告せずに泳がせた。だからロミ少佐がロシアのスパイでも今日まで夫婦でいられた。
管理センターを出ればロミ少佐は警察に捕まるだろう。ただロミ少佐の戦闘力なら力づくで逃げることもできる。
でももし逃げたのなら、俺に勅命がくだるやろうな。ロミ少佐を殺せるのは国内に俺だけや。
自衛官がロロくん達を連れてダンジョンの入り口に戻っていく。あとはロミ少佐だけだ。
ロミ少佐の心の中はぐちゃぐちゃだ。読んでも理解できない。
そんな大荒れした心から、小さいけれど俺への感情が伝わってきた。別れを惜しむ悲しみの感情だ。
俺との別れを悲しんでくれることが嬉しい。
たとえそれが、ほんの短い瞬間の些細な動揺だとしても。
ヤヨイさんとホテルに乗り込んでロシア人の男を確保した後からずっと、嵐のようなノイズが邪魔してロミ少佐の心が読めない。ロミ少佐の心の中は焦燥と混乱の嵐が吹き荒れていた。
今も続く逃げと諦めのせめぎ合いに比べれば、俺への想いは些細なぐらつきにすぎない。今にも自害しそうな苦しみの中にいる。
ロミ少佐をそんな気持ちにさせた外部の諜報機関が憎い。憎くてたまらない。
「ちくしょう……」
最後尾のロミ少佐が入り口に歩いていく。ああ、行ってしまう。未練だけ残して行ってしまう。
あの背中に声がかけられない。俺の中で怒りと憎しみと後悔が暴れ回っている。この感情を抑えるための思い出が圧倒的に足りない。
ちくしょう。やっぱり俺は独りだった。
入り口の手前、ロミ少佐が振り返った。
「さようなら! ありがとう! アタシのピーターパン!」
ああ。心が凪のように安らかだ。負の感情にフタをしたな。
「ああ……おお……ありがとな! 楽しかったぜ! 俺のウェンディ! またな!」
ロミ少佐の涙ぐむ表情。凪のような心が少しだけ揺れたのを見逃さなかった。
「死ぬんじゃねえぞ! ツラくなったら俺のことを思い出すんやで!」
入り口の闇に消える瞬間、ロミ少佐の笑い声が聞こえた気がした。




